「泣いても、笑っても、いい日になる」生花に包まれた家族写真スタジオ studio niniが生まれるまで
色とりどりの生花の香りに包まれた空間で、
カラフルな笑顔が舞うスタジオ。

三重県桑名市にある家族写真スタジオ「studio nini」は、
生花をふんだんに使った撮影が特徴で
ベッド・ソファ・白壁・小さな隠れ家のような撮影スポットが点在します。
撮影する角度や場所によって
世界が広がる、不思議で美しい場所です。
この空間をつくるのは、オーナーでありフォトグラファーの松岡さん。
「泣いてもいい」
「撮り直せばええやん」
そんな寄り添う姿勢には、
ご自身の育児経験や、家族との別れを経て生まれた深い想いがありました。
「写真を撮る」ではなく「家族で楽しむ時間をつくる」
今回は、studio niniがどのように生まれたのか
松岡さんが写真に込めてきた想いを、紐解きます。
松岡 燎哉 オーナー 兼 フォトグラファー
生花をふんだんに使った空間づくりと、家族の「そのまま」を大切にする撮影スタイルで支持されるフォトグラファー。21歳のときに最愛の父を突然亡くした経験をきっかけに「今を大切に生きる」ことを胸に刻み、未経験から写真の道へ進む。2022年、家族写真スタジオ「studio nini」を立ち上げた。2025年12月には2号店をオープンし、より多くの家族が訪れるフォトスタジオへと活動を広げている。

<Instagram>
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色とりどりの生花に包まれた、フォトスタジオ

ーまずはじめに、家族写真スタジオ「studio nini」について教えてください。
松岡:生花をふんだんに使った空間が特徴の家族写真フォトスタジオです。お花はすべて僕が生けていて、季節やお客様の希望に合わせてコーディネートしています。例えば「カラフルにしたい」「淡いオレンジで統一したい」「着物の色に合わせてほしい」など、お客様のリクエストで毎回スタジオの雰囲気が変わります。
スタジオの中には、ベッドやソファ、木のテーブル、白壁など、撮影スポットが5か所以上あって、どれも少しずつ雰囲気が違います。お子さんがその日の気分で動けるように、隠れ家みたいに小さな空間を点在させているんです。同じスタジオでも角度を変えると全く違う世界に見える、そんな自由さが強みです。
ースタジオの名前「studio nini」には、どんな意味が込められているのでしょうか?
松岡:「nini」は、禅語の「日々是好日(にちにちこれこうじつ)」から取った言葉です。意味は「どんな日もいい日」どんな出来事があっても、それをどう受け取るかで一日の意味は変わる、この考え方が好きで名付けました。
撮影も同じなんです。泣いてしまっても、緊張してしまっても、それも含めて「いい日」。完璧な笑顔だけを目指すのではなく「今日は家族で楽しく過ごせたね」と思えることをゴールにしています。「niniに来てよかったね」「今日もいい日だったね」と、帰り道にご家族が話してくれていたら、それが何より嬉しいです。
ー素敵なスタジオのお名前ですね。生花はどうして取り入れようと思われたんですか?
松岡:お花は命が短い分、その瞬間の美しさが際立ちます。これは赤ちゃんや子どもの成長にも通じますよね。「一瞬一瞬を大切にしたい」そんな気持ちが、生花のスタジオになりました。今では「生花があるからniniを選んだ」と言ってくださる方も多いです。撮影中はお花の香りや空気を感じながら、ゆったりと時間を過ごしていただけます。スタジオというより「お花が咲くリビング」です。

ー「お花が咲くリビング」素敵ですね。どのようなお客様が多くいらっしゃいますか?
松岡:お宮参りや七五三、バースデーなど、お子さまの成長の節目で来てくださるご家族が多いです。特に「うちの子、人見知りしないかな…」「ぐずってしまったらどうしよう…」と、撮影に対して不安を抱えている親御さんがたくさんいらっしゃいます。
そのため、当スタジオでは2時間完全貸切のプライベート空間をご用意しています。他のお客様の目を気にしたり、時間に追われたりすることなく、お子さまのペースでゆっくり過ごしてもらえるのが大きな特徴です。泣いてしまっても、いったん休憩しても大丈夫。ご家族がほっとできる温度感を大事にしています。
「スタジオ撮影=子どもにとって緊張する場所」というイメージを持つ方が多いのですが、私たちはどちらかというと、「家族で遊びに来る場所」として感じてもらいたいと思っています。写真を撮られるというより「一緒につくる」感覚で楽しんでもらえるよう、リラックスした雰囲気づくりを心がけています。
親がほっとすると、子どもは笑顔に
ー家族で遊びに来るスタジオ、具体的にどのような雰囲気作りを意識していますか?
松岡:雰囲気づくりで一番大切にしているのは、親御さんがリラックスして笑顔になれる空間をつくることです。親が楽しそうにしていると、それだけでお子さんは安心する。そこから自然と、そのご家族らしい表情が出てくるんですよね。
そのため撮影中、私はずっと親御さんに話しかけています。
「お父さんの靴、カッコいいですね。どこで買われたんですか?」
「うちの子もこんな時期ありましたよ」
とか、本当に他愛ない会話です。
でも、その他愛ない会話こそが、一番大事なんですよね。親御さんの緊張がほどけて笑顔になると、その空気がお子さんにも伝わるんです。盛り上がってくると、お父さんが僕の後ろでジャンプしてお子さんを笑わせたり、ママが変顔したり。その笑い声につられて、お子さんも自然と笑みが溢れるんです。その瞬間にシャッターを切っています。だから当スタジオは「写真を撮ってもらう」ではなく、「家族全員で一緒に楽しむ場所」です。

ーそれでも、泣いてしまった場合や、うまくいかないときはどうされていますか?小さなお子さんだと心配な親御さんも多い気がして。
松岡:おっしゃる通り、お子さんの撮影って、本当に繊細なんです。初めての場所に来て、知らない大人がいて、カメラを向けられるって、大人でも緊張しますよね。まして小さなお子さんなら、泣いてしまうのは自然なことなんです。
そこで当スタジオでは、撮り直しを無料にしています。「今日はご機嫌が良くなくて難しそうだな」と感じたら、無理に続けず、後日あらためて来ていただくようにしているんです。時間に追われて焦るより「また今度ゆっくり来よう」のほうが、結果的にご家族らしい表情が撮れるんですよね。
それに、僕は どんな瞬間にも価値があると思っています。泣いている顔も、うつむいている顔も、その子の「いま」だからです。
だからこそ、当スタジオでは 全データをお渡ししています。撮影は2,000枚ほど行いますが、カット数は決まっておらず、その中から100〜200枚を選んでお渡ししています。例えばご夫婦で「好きな写真」が違っても、どちらの想いも大切に残せるんです。
どの瞬間も、そのお子さんにとっては大切な成長の記録。そのすべてを「いい日」の思い出として残してあげたいので、「削らない」が僕のポリシーです。
ー「泣いてもいい」「撮り直してもいい」という考え方は、どのように生まれたのでしょうか?
松岡:僕自身の育児経験からです。子どもって、大人が思うようには動いてくれないし、予定通りにもいかないですよね。でも、思い通りにいかない時間こそが、あとから振り返ると愛おしかったりする。息子と向き合ってきた日々の中で、強く感じるようになりました。
撮影も同じで、うまくいかないことを否定しないという姿勢を大切にしています。撮影が終わったあと「今日は頑張ったね」じゃなくて「楽しかったね」と笑って帰っていくご家族を見るのが、僕にとって何よりうれしい瞬間です。
<息子さんとぶどう狩りにいった時の家族ムービー>
ーその姿勢が、多くのリピーターに繋がっているのですね。
松岡: ありがたいことに、何度も撮影に来てくださる方が本当に多いです。ニューボーンフォトから始まって、お宮参り、ハーフバースデー、七五三、二人目の出産……と、もう10回以上撮っているご家族もいます。 「撮影に来ている」というより「松岡さんに会いに行く」と言ってくださる方が多いので、とても励みになっています。
突然の父の死が教えてくれた、「やりたいことで生きること」
ー松岡さんがカメラの世界に進まれたきっかけを教えてください。
松岡:僕が21歳の時に突然亡くなった、父の死がきっかけです。心臓の病気が原因でしたが、朝起きたら息をしていませんでした。あまりにも突然でした。
父とは深く話をするほうではなく、どちらかというと距離のある親子だったと思います。だからこそ、亡くなってからの後悔が大きくて。「もっと話しておけばよかった」「一緒に何かやりたかった」そう思えば思うほど、会えない現実が突きつけられました。
父の死が心の傷となり、過呼吸が起こって外に出るのもつらい時期がありましたが、そんななか気分転換で出かける理由を作ろうとカメラを購入したんです。最初は夕焼けや街中の風景を撮影するだけでしたが、シャッターを切っている時だけは、深く呼吸できるようになりました。
父が亡くなるまでは安定した道を進み、挑戦とは程遠い人生でしたが、この出来事を境に、「生きているうちに、やりたいことをやろう」という考え方に変わりました。
ーその後「写真を仕事にする」と決めたのはいつでしたか?
松岡:仕事として意識し始めたのは、息子が生まれた頃です。当時、美容師の妻が「自宅で美容室を始めたい」と挑戦をしており、僕はそばで応援していました。「妻が挑戦するなら、自分は安定した会社員としてしっかり支えなければ」という思いもあり、自分が挑戦することはまったく考えていませんでした。
しかし準備を進める妻の姿を間近で見ていると、その前向きなエネルギーに影響を受けていったんです。いつしか自分も「何か始めてみたい」という思いが芽生えていました。そのときInstagramで、奈良県のとあるニューボーンフォト専門スタジオの作品を見つけて、生花を使った美しい世界観に心を奪われました。「自分もこんな素晴らしい写真を撮影したい」と強く思ったんです。偶然にも研修生の募集があったので応募し、写真を仕事にする道へと進み始めました。

ーご夫婦揃ってそれぞれのフィールドで挑戦。不安もあったのではないでしょうか。
松岡:もちろんありました。研修費や機材費など100万円以上の出費です。妻からも「本当に取り返せるの?」と言われて正直不安でした。でもそのときに思い出したのが、父のことなんです。「もっと話しておけばよかった」「一緒に何かやればよかった」という後悔が、ずっと心に残っていたので「やらずに後悔するより、やって後悔したい」と思いました。
ー挑戦の背景には、お父様の存在があったんですね。
松岡:そうですね。父の死を経験して「時間は有限なんだ」と改めてわかったんです。だからこそ「やりたいことは後回しにしない」という気持ちが強くなりました。
それに、息子には、楽しそうに働く姿を見せたいという思いもありました。もし父のように、いつ何が起きるかわからない人生だとしたら、息子の記憶に残るのは、肩書きや成果ではなく、好きなことに向き合っている私の姿なんじゃないかと思ったんです。
僕ひとりではできなかった、お客様とスタッフの境界を越える
ーstudio niniには、何名程メンバーがいますか?
松岡: 僕を含めてスタッフは12名程です。撮影をサポートしてくれるアシスタント、カメラマンとして入ってくれているメンバー、受付やスタイリングを担当してくれるメンバーもいます。驚かれるかもしれませんが、スタッフのほとんどが「元お客様」なんです。
撮影を通して出会い、終わったあとに雑談していると「こういう仕事に憧れていて」「人と関わる仕事がしたい」と本音を話してくれることがあって。「一緒にやってみる?」と声をかけたことがきっかけで仲間になってくれました。
お客様として当スタジオの世界観に触れた方だからこそ「studio nini の良さをもっと届けたい」と思って関わってくれている。その想いが、スタジオ全体のあたたかい空気につながっています。
ーもともとお客様だった方が、スタッフになる。素敵な循環ですね。
松岡:そうですね。スタッフはお客様として撮影を経験した方たちなので「お客様がどんな気持ちで来るか」を誰よりも分かっています。たとえば、撮影中にお子さんが泣いてしまっても「大丈夫ですよ、うちの子も最初そうでした」と自然に声をかけられる。そういう安心感があるんです。お客様から「撮影時間が心地よかった」と言われるのは、スタッフ一人ひとりの人柄のおかげだと思っています。

ー「チームでつくる撮影」という感覚がすごく伝わりますね。
松岡:そう言っていただけると、とてもうれしいです。もともとはひとりで頑張るタイプだったんですが、studio niniを始めてから「だれかと一緒の方が、もっと良いものができるんだ」と実感するようになりました。スタッフ一人ひとりが違う強みを持っていて、僕が気づけない角度からお客様を支えてくれるんですよね。たとえば、お子さんが泣いてしまったときも、僕よりも先にメンバーが動いてくれて、空気をやわらかくしてくれる。そういう瞬間を見るたびに「このチームで良かったな」と感じます。僕ひとりではできないことを、みんなで形にする、それがsutdio niniです。
活動の中心にあるのは「人」、日々是好日の想いを届けるstudio nini
ー松岡さんは、地域や社会に目を向けたボランティア活動もされていますよね。
松岡:はい、三重県桑名にある「太陽の家」というNPO法人を通して、ひとり親家庭の方々に生活物資を支援する活動をしています。売上の一部を毎月寄付していて、トイレットペーパーやお米、日用品などを届けてもらっています。
もともとは、自分が畑で育てた野菜を分けるところからボランティア活動が始まったんです。家族では食べきれないほどの野菜を収穫したとき「誰かにあげたら喜んでもらえるかな」と思ったのがきっかけでした。実際に届けてみたら、本当に喜んでもらえて。その笑顔を見たとき「カメラ以外でも、人の役に立てるんだな」と感じたんです。それからは野菜だけでなく、生活用品を買って届けるようになりました。今は直接ではなく団体を通して支援を続けています。

ーボランティア活動をしようと思ったきっかけは?
松岡:僕自身の子ども時代の経験が大きいです。6人兄弟の家庭で育ち、電気や水道が止まることもあり、当時はかなり苦しい暮らしでした。でも「助けて」と言える場所も、頼れる大人はいなかったんです。今振り返ると、もしあのとき誰かが「大丈夫?」と声をかけてくれていたら、きっと心が少し軽くなったと思うんですよね。
だから、あの頃の自分のように困っている人に手を差し伸べたい と思うんです。見えない場所で苦しんでいる人が、今も必ずいる。そんな人たちに「あなたのことをちゃんと見ているよ」と伝える行動をしたくて、支援活動を続けています。
ー写真を通して、どんな未来を描いていますか?
松岡:人の心に寄り添える場所をつくり続けたいです。将来的には、家庭環境や障がいなどで苦しむ子どもたちに、カメラを教える活動もしてみたいと思っています。
写真は、誰かに評価されずに、自分を残せるんです。僕自身もカメラに救われた1人なので、その楽しさや、自己表現の力を子どもたちにも伝えていきたいです。「自分には何もない」と感じている子が、シャッターを切った瞬間に「これ、きれいだな」と思えたなら、その小さな感動は、もう「希望」だと思うんです。
そして写真は、人と人をも広げてくれます。撮って、話して、笑い合うことで、前に進めるようになるからです。結局のところ、studio niniの撮影も、支援の活動も、全部「人」に行き着きます。僕がカメラを続ける理由も、studio niniを育てていく理由も、すべては「人の心に寄り添い、誰かを支えられる写真を届けたい」という想いがあるからなんです。

ー最後にstudio niniは、どんな場所であり続けたいですか?
松岡:「また行きたい」と思ってもらえる場所であり続けたいです。撮影のために来るのはもちろんですが「あの空間がほっとする」「スタッフに会うと元気が出る」そんな場所でありたいと思っています。
studio niniという名前の由来「日々是好日」。
どんな日も、良い日になる、泣いた日も、笑った日も、全部いい日。この想いを、ご家族に届けていきたいです。

【店舗情報】
studio nini

住所 :〒511-0839 三重県桑名市安永127
営業時間 :予約時のみ
定休日 :長期休暇以外基本なし
メール: ystudionini.22@gmail.com
駐車場:2台
HP:https://www.studio-nini22.com/
Instagram
編集後記
「泣いても、笑っても、いい日になる」
記事のタイトルに込めたこの言葉は、
取材のなかで、松岡さんが何度も口にしていたフレーズです。
撮影技術を語っているときよりも、
親御さんの緊張がほどけた瞬間や、
お子さんがふっと笑った瞬間の話をするときのほうが、
ずっと嬉しそうな松岡さんが印象的でした。
「家族が楽しむ時間をつくりたい」
「泣くのも、その子の“いま”ですから」
松岡さんが大切にしている想いが、
これからも多くの家族の記憶を照らし続けることを願っています。
studio niniで過ごす時間が、
ご家族にとって「また帰りたくなる場所」の記憶になりますように。
取材・構成・執筆/木全彩花 (「たしかなこと」ひとり編集部)
