【創作】黒田製作所物語 第6話 飛躍
三井との再会で気合が入った虎一の姿は、弟子達にも良い緊張感を生み、予定していた今日の作業は順調に迅速に仕上がり、虎一は予定より早く事務所に戻った。
「兄さんお待たせしました。ホテルに案内します」
三井は椅子から立ち上がると、姿勢を正し直立するようにして虎一に向き合った。
「黒田社長、その前に仕事の話をさせていただけますか。三井工業の三井としてです」
あらためて名乗ると名刺を差し出した。そこには『株式会社三井工業 専務取締役 三井龍二』と書かれていた。
「弊社では事業拡大を計画しているところであり、提携可能な事業所を探しています。以前から帝国紡績などを通じて御社のお話をお聞きしていたこともあり、本日お邪魔させていただいたところです。
皆さんの仕事振りを拝見して感服しました。詳細についてはあらためてご相談させていただきたいと存じますが、弊社のものづくりに提携企業として御協力していただけないでしょうか」
唐突な展開に、虎一は思考が追いつかず固まった。三井と再会できた喜びを抑え、目の前の仕事を終えるまではスムーズにできたが、まさか仕事の受注の話なんてことは想像もしていなかった。
応えを得られない三井が戸惑いの表情を浮かべているところを、和美、いや専務が助け船を出した。
「黒田は仕事の依頼を断りません。万難排して請けさせていただきます」
そのきっぱりとした物言いに虎一も我に返り、大きく頷くと
「四分六でも三七でも勉強しますぜ」
と続けた。三井は笑いながら
「ありがとうございます。仕事に関しては五分と五分でお願いします。共に成長していきましょう。じゃ、仕事の話はここまでにして、奥さん少し虎をお借りして良いでしょうか」
「もちろんです。何時まででもお使いください」
和美はすっかり三井に打ち解けていた、今日が初対面だったが虎一と同じように職人の目を持つ男を信頼することができた。三井工業のことはよく分からないけれど、帝国紡績ともつながりがあるようなので黒田製作所の専務としての期待も高まっていた。
「明日の仕事には支障が出ないようにしますから」
三井は虎一を促すと、先に事務所の外へ出た。冬の冷たい空気が事務所内に流れ込んできたが、和美の胸には温かなものが込み上げてきて、右手を静かに胸に添えた。
三井の後を追う虎一の背中を見つめていた従業員達は、話が見えていないこともあり、見たことが無い男の姿と、これまで見たことが無いほど浮かれた虎一の姿に困惑の表情を浮かべていた。和美は気持ちを切り替え従業員たちに向き直った。
「みんな、正月から出てきてくれて有難う。みんなのおかげで新しい仕事をいただけることになりました。これは少ないけど、社長からのお年玉です」
準備していたポチ袋を従業員に渡した。皆の表情が戸惑いから喜びに変わる。
(今年は良い年になるはず、していかなきゃ。もはや戦後じゃない、羽ばたく年ね)
和美は今年の黒田製作所の飛躍を確信した。
(第6話 おわり)
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