アメリカ留学で浮き彫りになる、アメリカンドリームが保つアメリカの強さと日本の凋落
私は慶應義塾大学に通う4年生で、現在アメリカのワシントン州の大学にて交換留学をしています。アメリカにやってきて約半年が経過した今、なぜ現代においてアメリカが覇権国であり続けられるのか、そして日本との違いは何なのかを大学生の目線から以下のトピックで綴ってみようと思います。
・内的/外的アメリカンドリームが成すFoundational Perspective
・人口の多さが現代覇権国家のマストキー
・日本のホワイトカラー主義(サラリーマン文化のリプロダクション)
・日本の郊外における”ヤンキー文化”のアップグレード版
・アメリカンドリームは不安の副産物
・”自由”と”支配”と”制約”の交錯点
・ Amazonのソフトウェアエンジニアは初任給180k=約2700万円
アメリカンドリームの影響力の強さ
幼少期の5年間、そして昨年夏から半年間過ごしてきた中で、アメリカの人々(アメリカ人、移民問わず)を突き動かしているバイタリティーの一つにアメリカンドリームは大きく関わっているとひしひし感じます。
「アメリカンドリーム」と一口に言っても様々な定義や考え方があると思いますが、昔からよく言われている、その根幹を成す定義として「皆に与えられた平等な環境の中で勤勉と努力によって豊かな生活を獲得すること」があります。この Foundational Perspectiveが「大学での勤勉さ」「マイホームと早期結婚・出産」ひいては「安定して増加するアメリカの人口動態」を醸成し、日本との格差を助長していると考えます。
後にこれをもう少しブレイクダウンして考えますが、その前に、なぜこんなにもアメリカンドリームの強さを感じるか、自分の体験に基づいて短く話します。
まずアメリカの大学の学生(大学にもよるが)はとにかく勤勉です。よく、"大学受験までは日本人の方が頭が良いが、大学でアメリカ人に抜かされる"と言うのを聞きますが、これは本当だと感じます。自分も厳しい受験戦争を勝ち抜いて慶応に入った身として、日本の学生の方が基礎学力は高いと自分のプライドも相まって過信していました。しかし、日本の学生が重い腰を上げて本気で勉強に取り組むのはせいぜい高校3年生の最後の一年位。対してアメリカでは大学に入れば4年間狂ったように勉強することが求められます。(4年後期の最終学期でさえ授業とラボ、膨大な宿題の量に忙殺される友達をたくさん見てきました)これは大学受験をゴールとする日本の受験教育や、大学の就職予備校化と早期就活化が激しい日本では構造的に不可能なものだと感じます。
それはもちろん、アメリカの大学の学費が日本と比べて天文学的に高いこと(学生ローンを30代まで返済している人も普通にいる)や、日本と違って大学での成績が重視されることも相まって、アメリカという資本主義の権化のような環境の中で生き抜くための競争心理を養われています。
そして次に、アメリカは政治的・社会的に不安定であることが、かえってアメリカ人の不安心理を助長させている点。よくアメリカは50の違う国(州)でできた連合国と言われたりしますが、これは本当にそうで、彼らが共有しているのは言語とアメリカンドリームくらい。Civil War という映画では19の州が合衆国から離脱して内戦を繰り広げる映画が去年公開して話題になりましたが、これはアメリカ人がどこかで「このような未来が起こるかもしれない」と考えているからこその大ヒットだったと思います。

トランプ新政権は言わずもがな、かれこれ3年以上続く慢性的なインフレや、社会保険の手薄さ、フェンタニルを始めとする薬物問題やホームレス問題、その全てを実際に生活の中で体験しているアメリカ人が自らの手でアメリカンドリームを叶え、このようなエクストリームな環境下で幸せを築き上げたいを思うのは当然のことでしょう。
ここで浮き彫りになるのは現代アメリカの「夢を見ざるを得ないほど社会が不安定である」という逆説的な構図です。社会保障が手厚く、教育費が無料に近い北欧諸国では、国家がある程度の生活の安定を保証してくれるため、「夢」を見ること自体が必ずしも人生の前提にはなりません。むしろ“夢”がなくても安心して暮らせる社会がある中で、アメリカは常に競争と不安の中に個人を置き、その結果として「夢にしがみつく」ことを余儀なくされているようにも見えます。
アメリカンドリームの分類
ただアメリカンドリームといっても、都市部と地方でその内容や人々の考え方は大別されると考えます。
都市部のアメリカンドリーム→とにかく良い大学を出て(Master's:修士以上が好ましい)ホワイトカラー職に就きひたすらコーポレートラダーを駆け上る
手に職を付け、郊外で20代のうちにマイホームを建て、早期結婚し子供を授かる
の都市部での例を、私の実際の友達で紹介します。人種はもともとインド系(両親が移民としてアメリカに来たので2世にあたる)で、大学は自分が生まれ育った州内で一番良い大学に進学(州内と州外からの生徒で学費が大きく異なるため。International studentsはこれよりさらに高い)学部はCS (Computer Science)で今年の夏に卒業してからAmazon本社でソフトウェアエンジニアとして働く(初任給180k=日本円で約2700万円)
この1. の例は日本で一番メジャーなパターンであると思います。(もちろん給料は異なるが)ただ日本はアメリカと異なって、大学進学主義がいまだに根強い。ホリエモンさんのポストが以前Xで話題になっていましたが、日本では学力の低い学生もこぞって大学に進学しホワイトカラーを目指す傾向が強い。(=サラリーマン文化の再生産)対してアメリカでは、ヨーロッパのように12、3歳の段階でホワイトカラーかブルーカラーを選ぶことを余儀なくされ職業専門学校に行くというエクストリームなケースは少ないものの、日本より大学に進学する人は多くなく(もちろん学費の問題もある)高校を卒業してすぐに働き始める人も多い印象です。
さらに日本ではなんといっても東京など大都市への一極集中がいまだに根強く、韓国のソウル人口一極集中が現在の破滅的な少子高齢化を起因していることを鑑みてもこのような傾向が続くことは芳しいとは言えないと思います。
そしてこの人口集中がアメリカンドリーム2.に繋がってくるのですが、アメリカは真逆で、郊外で暮らす人々は、とにかく「故郷に残って、真面目に働いて、家族を築く」というルートに乗ることを美徳として共有しています。
少し言葉に語弊があるかもしれないですが、それはまるで“日本の郊外におけるヤンキー文化”のアップグレード版のようで、地元を離れず、その土地で人口を再生産し続けていくという価値観が、よりシステマチックかつ制度的に強化されているように思えます。
マイホームを持ち、週末は裏庭でバーベキューをする。そこには夢というより、“正解”として刷り込まれた生き方があり、それに乗れなかった者に対しては、どこかうっすらとした「失敗感」すら漂います。
興味深いのは、こうしたライフスタイルが「刷り込まれた規範」であると同時に、当の本人たちはそれを「自らの自由意思で選び取った幸福」だと疑わない点にあります。仮にその生き方が、建国以来のナショナル・ナラティブ(建国神話)政策、教育制度、メディア、地域社会といった複層的な構造によって綿密に設計された“導線”であったとしても、それをあたかも自分で“選択”したかのように錯覚させる、この洗練された統治のあり方こそ、アメリカ社会の巧妙さであり、「自由」という言葉が最も制度的に機能する国である理由なのかもしれません。そう捉えると、郊外における“幸福な暮らし”とは、単なる希望でも、単なる刷り込みでもなく、”自由”と”支配”と”制約”が限りなく滑らかに交錯する、その狭間に成立する非常に政治的な生き方なのだと見えてきます。
それでも、もちろん日本に比べて土地も広くローンも降りやすいことはあると思うのですが、それ以上に、社会が不安定・ 薬物乱用者やホームレスも多い環境の中でマイホーム(=一人前の証)を建てることが社会的ステータスの中でも上位に食い込んでいると考えます。

人口の多さは正義
これがなぜタイトルにある「日本の凋落」と関係するのかについては、国が分断し、さまざまな問題が顕在化してるとはいえ、国力という観点にとって人口の多さは正義だからです。もちろん何をもって「国力」の定義にするかは議論の余地がありますが、一番わかりやすいGDPでなく、それがスポーツの強さや、音楽や芸術などの文化的要素だったとしても、結局人口が多い国が各分野におけるランキングの上位を独占するのは真っ当なことで、イギリスが産業革命という偶然的要素(ケネス・ポメランツ「大分岐」)で覇権国になった例もありますが、特に人口減退が先進国で当たり前になっている現代においてアメリカが長い間覇権を握っているのは、アメリカンドリームという魔力によって世界中からタレントを吸い寄せ(外的アメリカンドリーム)、国内郊外では安定した人口再生産が継続的に行われている(内的アメリカンドリーム)からに過ぎないと考えさせられます。
終わりに
もちろん今回お話ししたアメリカンドリームの影響力の強さ、そしてそれがアメリカの人口安定に起因し覇権国家の座を揺るぎなくさせているということは一つの小さな要因でしかないと思います。それと同時に、その「ドリーム」を信じて、日々ローンを返しながら郊外で芝刈りをしている人々の存在が、皮肉にもこの国の屋台骨を支えているのだとしたら、やはり“夢”というのは、支配の道具としてはよくできているなと思わざるを得ません。
今回が初投稿となりましたが、アメリカに住む日本人大学生として、様々な視点から日本とアメリカの比較を記事にしていけたらと思います。
今回の記事が好評であれば、このトピックの他にも、
「アメリカにおける大学の権威と支配力」
「日本と大学の就活文化の違い」
「ITと金融、日米で逆転する“給与ヒエラルキー”の正体」
などについて情報を発信したいと考えています。
よろしくお願いします。
