福島県の双葉町は、まっさらな布でした。
福島県双葉町、双葉町産業交流センターの屋上に立ちました。
周りを見渡すと海と山に囲まれた静かな環境。深呼吸すると、疲れた心がホッと和やかになる。耳を澄ませると鳥や虫の声、遠くを見ると長く伸びる水平線、とても素敵な場所です。しかし少し目を下すと、違和感が現れます。明らかに整地された草むらがただ広がっています。

何もない、誰もいない。
広大に植えられた芝生には芝刈りロボットが二台だけ日々の仕事に勤しんでいました。
そしてちょっと先に見える森の向こうにはあの悲劇の場所があります。

福島第一原子力発電所。
知らなければ何も気づかない。でも確かにそこにある。
福島県双葉町、ここは帰宅困難指示が最後まで解かれず2022年8月にようやく一部解除になった町です。東日本大震災は2011年。既に12年前の事で、復興は順調に進んでいるのではないか、もはや復興は終わったのではないかと錯覚しがちな年月が経っています。
少なからず私もそう思っていた節はあります。映像で見る悲劇の数々、それらも日々の生活の中に追われながら、時間という風に流されていっていました。
そんな私が何のゆかりもないこの双葉町に来たのは理由があります。
ひなた短編文学賞の結果発表です。受賞された皆様おめでとうございます。https://t.co/bh3brtDjJ8
— 塚田浩司 (@ichiroku1611) August 30, 2023
こちら、ひなた短編文学賞は作家の塚田浩司さんが審査委員長を務める文学賞です。こちらは福島県双葉町とも連携し、「生まれ変わる」というテーマで募集された文学賞でした。
こちらの大賞をいただいた事で、授賞式として福島県双葉町に招待していただきました。
私は双葉町に降り立ち、町に唯一あるビジネスホテルに到着しました。ビジネスホテルといっても、ビルではなく二階建ての建物。ホテルの目の前にある双葉町産業交流センターにはコンビニがあり、つい先月オープンしたとの事(これも町で唯一のコンビニ)。
まだ30度を超える気温の中、泊まり用のパンツを忘れた私は二日連続パンツを履く事なんてできないので、次の日の授賞式でノーパン確定でした。「大賞おめでとう」と伝えている相手がノーパンと知ったら審査員の皆様は一体どんな気持ちだろうと道中震えていました。
恐らく私の受賞コメントは「何の縁もゆかりもパンツも無い私に大賞を・・・」と口走っていたはずです。そんなノーパン授賞式を回避させてくれたのがこの唯一のコンビニです。
無事にパンツを履いた私は次の日授賞式を迎えるのですが、その話は今回は関係ないので、バッサリとカットさせていただき・・・
双葉町の方のご厚意で、授賞式が終わった後に、元双葉町の役所、小学校を見学させていただきました。それらの建物は災害が起きた時のまま残されていました。止まった時計、散乱した書類、割れた照明、刻々と状況の変わっていく原子力発電所の状況を時間と一緒に書いてあるメモ。

自分が直接経験したわけでもないのに、生々しく、そしてダイレクトに12年前を呼び覚ますものでした。
また、まだ復興は終わっていない。そんな事も改めて感じさせてくれました。
小学校では、震災当日に一晩小学校で過ごした子供さん達が黒板にお互いを励ましあう言葉やイラストが書かれていました。
「つなみは絶対こない」
「おちついて」
「たすかる」
「じしんくるなー」としゃべるうさぎ
その中で笑顔を見せるれいぞうこスーパーマンという謎のキャラクター

言葉に詰まってしまいました。
また、震災遺構となっている浪江町立請戸町小学校も拝見しました。
学校が強大な津波でいとも簡単に破壊されている状態が生々しく残っていました。

おそらく当時はこの周囲も同様に津波という脅威が全てを破壊しつくしてしまったのだと思います。でもその影はもうありません。既に小学校の周りは何もなく、工事をしている広場になっていました。googlemapでもその状況はわかります。
そして最初に書いた双葉町産業交流センターの屋上からみた景色を改めて思い出しました。
何もない、誰もいない。そう思ったあの草むらには、震災が起こる前は何かがあった、誰かがいた。心のどこかが震えていました。
双葉町には、思い出の品をリメイクする工房もできたそうです。昔着ていたの制服を小さくしてぬいぐるみに着せたり、部活のユニフォームをクッションにしたりするサービスとの事です。想いの乗った洋服を生地として利用し、変わらない想いを載せたまま再生する、素晴らしいサービスだなと思いました。
ふと、双葉町産業交流センターから広がる景色が、一枚のまっさらな布みたいに見えてきました。

一枚の布からは、自慢の洋服が作れたり、家を守るカーテンも作れます。私達の汚れを拭いてくれるタオルもできるし、授賞式を無事に遂行させてくれるパンツだって作れます。
双葉町はこれから色々なモノが生まれる町です。決してリセットではなく、今までの双葉町を愛していた方の想いが乗った何かが。
それを応援したい、そんな気持ちになりました。
自分が何が出来るのかわかりませんが、双葉町や福島のために改めて何かできる事はないかと考えながら、生きていきたいです。
ひなた短編文学賞に応募すると決めたあの選択で、私は大好きな町が一つ増えました。
ひなた短編文学賞に関わった皆様、双葉町の皆様、本当にありがとうございました。

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