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沖澤のどかの「春の祭典」に痺れる~都響スペシャル(2025年6月15日)

6月15日は、久しぶりにミューザ川崎シンフォニーホールでのコンサート。今年1月にN響の定期公演に誘ってくれた件の後輩クンから再び声をかけてもらって、都響スペシャルを聴きに出かけた。
後輩クンは今回の公演でプーランクを弾く務川慧悟を推しているらしい。今日は務川の師匠フランク・ブラレイとのコンビで2台のピアノのための協奏曲が演奏される。因みに後輩クンは、前日のサントリーホールでの公演にも出かけたらしい。相変わらずの"推しごと"ぶりである。
都響は久しぶり。ピアノのおふたりはよく知らなかったし、指揮をする沖澤のどかは、名前をどこかで聴いた記憶はあるけれどこちらも初体験である。


クロード・ドビュッシー:≪牧神の午後への前奏曲≫

コンサートの導入は、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」。この曲で思い出すのが、その昔ジャン・マルティノンが来日してこの曲を取り上げた際に、一体どう指揮するのかを当時指揮の修行中だった岩城宏之がリハーサルだか本番だかに潜り込んで"視察"した話。どうやって指揮するのか謎だったらしい。結果、ふらふらと棒を振っていて何だかよくわからなかったとか…。さて、本日の指揮者はどう指揮するのだろうか。
そして登場した沖澤のどか。小柄で第一印象はちょっと控えめな印象。指揮をする姿も、曲のせいもあるけれど大きなアクションをすることなく淡々と指揮をしていて真面目そう。
演奏は、静謐な水墨画のようなイメージというか端正なつくりの演奏だったように思う。これは都響のカラーというより沖澤のカラーなのだろうか。いずれにしても、気持ちよく自然にコンサート空間に入り込むことができた。

フランシス・プーランク:2台のピアノのための協奏曲ニ短調FP.61

2曲目は後輩クン推しのピアニスト・務川慧悟が登場する。
4月の東京フィルの公演の際、ピアノは舞台下手側に置かれていたが、今回は上手側に2台まとめて置かれている。手前にはオーケストラがいるのでセッティングのためには山台をどかさねばならないが、私は知っているのだ。最近のホールの山台は電動で格納できるのである。わははははは…。ということで舞台中央に2台のピアノがセットされて、オーケストラが再入場。続いてフランク・ブラレイと務川慧悟が入場する。1番ピアノは師匠、2番ピアノが弟子という分担である。

フランス人のピアニストは、数年前に札幌で聴いたトーマス・エンコ以来であるが、見た目はだいぶ違う。エンコの方は繊細な顔立ちの美青年風だったが、ブラレイは何だか年齢不詳な感じのちょいワルおやじ風。後輩クンは前日に相まみえているが「ちょっとイケオジな感じでしたよ。」と言う感想。どんなピアノが聴けるのだろうか。楽しみだ。

1楽章は「疾走」そんなイメージのテーマで始まる。響きは20世紀初頭の雰囲気で(いや、作曲時期がそもそも…だけど)、何だかラヴェル風だったりプロコフィエフ風味を感じたり、でもベートーヴェン?いやなんだかラテンミュージック風?と、いろいろな要素がパッチワークのようにちりばめられている印象だ。会場で配られていた「月刊都響」によれば、プーランクは作曲にあたってモーツアルトやリスト、ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調などを参照したということだ。
で、結構強奏で開始された第1楽章だが、肩透かしのようにあっけらかんと終わってしまう。
続く2楽章は、まるでモーツアルトの協奏曲かソナタの緩徐楽章のようなメロディで始まる。何かの引用なのかな…。全体はずっとモーツアルトという訳でもないような、もう少しロマン派風の匂いも。ただモーツアルトやロマン派真っ只中かというとちょっと違って、少し遠くから俯瞰しているような印象を受ける音楽だった。
終楽章は、中間楽章の"静"からまた"動"に戻ってきた音楽だ。ただ、第1楽章の「疾走」ではなく、何だか飛び跳ねているような音楽にも感じられる。2台のピアノの掛け合いも息がぴったりで、さすが師弟である。途中少しゆったりした部分を挟んで後半はまた動きが出るが、終結はあれ?終わり?という感じ。徹底的に盛り上がる終結部を避けているのかしら?面白い音楽だ。

プーランクは好きな作曲家ではあるが、いつもBGM的に聞き流してしまって曲名と曲が結びついていないことが多い。2台のピアノのための協奏曲もディスクは(なんと2種類も)持っているのだが、さっぱり印象に残っていない。(2種類もあるのに・笑)
ああ、こんな曲だったのかと改めて印象に刻まれたのだが、二人のピアノの印象が強くて、協奏曲とは言えオーケストラの印象があまり残っていないのは、今日のピアノのお二人が強烈だったせいだろうか。

プーランクの没後50周年を記念してEMIから発売された作品全集持っているのに、真面目にプーランクと向き合っていなかったろうと言われても言い返せないので、少し真面目にプーランクに向き合うことにした。うん。

少し聴く頻度を上げよう。たかが20枚組だしwww

演奏が終わり、熱烈な拍手に応えるお二人は師弟ではあるが、バディのような印象も。息の合った力強く印象的なプーランクで、聴きごたえがあった。

(アンコール)フランシス・プーランク:≪仮面舞踏会≫のフィナーレによるカプリッチョハ長調

アンコール曲は、同じくプーランクのカプリッチョ。ピアノは師弟入れ替わって務川が1番を弾くようだ。出だしはパリの小粋なカフェで奏でられているようなテーマで始まり、カプリッチョのタイトル通り、くるくるとテーマが入れ替わる印象。中間部以降はテンポが落ちてミステリアスな感じになるが、最後に少し最初の印象が戻って終わる。
曲も楽しかったが、何より弾いている二人がとてもリラックスして楽しそうに思えた。素敵なアンコールでした。

イーゴリ・ストラヴィンスキー:バレエ音楽《春の祭典》

再度の休憩の後は本日のメインディッシュ、ストラヴィンスキーの「春の祭典」である。舞台の上はぎっしりと椅子と譜面台が並んでいて壮観だ。
ホルンの後列にはワーグナーテューバが2台置かれている。(スコアの指定は「テナーテューバ」でホルンの7・8番持ち替えだ。)
楽員が入場してくると、さらに舞台上のぎっしり感が増してくる。ホルン8本…かっこいいな。コントラファゴットも2台あるし。アルトフルートやらバストランペットやら、何だか見ているだけで楽しくなってくる。ティンパニも2人いるし、エキストラも大勢出演しているに違いない。

チューニングも終わり準備万端のステージに、いよいよ指揮者が入場。ヴァイオリンのお二人と握手をして指揮台に立ち曲が始まる。
冒頭のファゴットソロ、安定していて音がよく通る。沖澤の指揮は、ドビュッシーの時と同じく几帳面さも感じられる。そして、あ、なんか分かり易い、そんな感想を抱いた。
入れ替わり立ち替わりいろいろな楽器が登場するので、ステージを見ているだけでも楽しい。「春の祭典」ってこんな楽しい曲だったんだっけ…。改めて、そんな気づきもあった。強奏箇所も沖澤の指揮ぶりは高揚することなく(違うのかもしれないけれどそういう風に見える)、でもそれが何だかかっこいいのだ。いや、この人すごいかも。

第1部の後半。お、ホルンの二人がワーグナーテューバに持ち替えた。曲もクライマックス。ワーグナーテューバとバステューバ計4本のユニゾンがホールに響き渡る。いやすごい音量。ワーグナーテューバは舞台の下手、バステューバは上手と両翼に分かれているので音響効果もすごい。めちゃくちゃな音楽だなこれは。思わず笑ってしまうくらいのどんちゃん騒ぎである。どんちゃん騒ぎが最高潮に達すると、唐突な全休止の後、経過的な短い静寂の音楽が流れてバスドラムの連打と共に第1部の終曲に突入する。終曲はほぼ全員参加の音楽だけれど、ストラヴィンスキーがどんな風にこの音楽を創り出したのか、想像もできない。そして終曲も突然断ち切られたように終結する。
いや息を吞むような音楽だった。そもそも、この曲そんなに好きでもなかったし、聴いていて楽しいと思ったことなかったんだけど、今日は違う。突然のように「春の祭典」の解像度があがった感覚があった。
沖澤の指揮はほんとうに端正で穏やかなのに、紡がれる音楽のエネルギーがすごい。オーケストラが熱演だったということもあるんだろうけど、沖澤を信頼して120%…いや256%、512%の力を出し切っている、そんな感じだ。

続く第2部は少し暗めの静かな音楽で開始される。木管楽器の活躍が目立つ。木管楽器も実に多彩なラインアップなので、これもまた楽しい。アルトフルートとコールアングレの掛け合いとか、Esクラとかバスクラとかの響きとか…。帰ってからよく調べると、ちっこいクラリネットはD管とEs管の持ち替えらしい。客席からは違いがよくわからなかったけれども…。ふつうのクラリネットもB管とA管の持ち替えなのだが、楽譜はどっちみち臨時記号だらけなのだろうから、どういう風に使い分けるのかなあ…、一方でバスクラはB管指定のみなので不公平なのでは…と興味は尽きない。

第2部も曲は段々と賑やかになってくる。低音金管群の地鳴りのような響きや、ホールの壁に突き刺さるようなピッコロトランペットの音やら、次はどの楽器が鳴るのか、目が離せない。
拍子もころころ変わるはずなのに、沖澤の指揮は迷いなくオーケストラを導いていくようだ。そして、決して大振りすることなく冷静。
いよいよ大詰めが近づいてくるが、終わってしまうのが勿体なく感じる。ああ、終わっちゃう勿体ないと思いながら、最後の和音が鳴り響く。
大きく息を吐いて拍手!ブラーヴォ沖澤。ブラーヴォ都響。
最高でした。こういう瞬間があるから、音楽はやめられないよなあ…。

ということで、"推し"が増えてしまったよ。
後日、後輩クンに沖澤のどかを聴きに京都まで行ってもいいくらいにハマってしまったよ、とメッセージを送ったら、「京都いいじゃないですか!京アニもありますし。行っちゃってください!笑」と返信が・笑。
沖澤のどかは現在、京都市響の常任なのでいずれ聴いてみたい。帰ってから調べたら、9月の東京公演は既に完売 T^T)。残念だけど、本拠地の京都市コンサートホールで聴きたい気持ちもあるから、ツアーを企画するか…。

おわりに

終演後は、川崎駅まで後輩クンと興奮気味に感想戦をしながら歩く。沖澤のどかについて、ストラヴィンスキーの話、楽器の話…話は尽きないが、それぞれ予定があるので改札前でまたねと別れて、ぼくが向かった先はチネチッタ。グッズショップで6月27日から公開予定の劇場アニメ「小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜」(京都アニメーション制作)のムビチケ前売り券を購入。

「推しは推せるときに」である。

ところで、務川慧悟氏。noteにアカウントを持っていて、この日の演奏会についての文章を投稿していた。と、後輩クンからのメッセージで知る。
ぼくの益体のない感想なんかより、よっぽど価値があるのでリンクを載せておきます。気になる方は是非お読みください。

初回投稿日:2025年6月27日


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