【短歌】兄の試作 -小春編-
白波の 泡と消えゆく 岸辺にて 潮路の呼吸 そっと数える
まずは気の赴くままに、兄弟航路の名に相応しい歌を詠んでみた。筆者は短歌に疎い為、専門の方から見ればお恥ずかしい出来に違いないが、詳しい弟にあえて助言を求めず、初心の作を続けて以下にご紹介する。
テーマは、晩秋から初冬にかけての「小春」である。言い訳がましい解説等は添えず、定型の音数律に合わせてスペースを設ける。素人なだけに、その方が妙に安心する。古風な言い回しが不自然、或いは不愉快に感じられるかもしれないが、初めての試みゆえ、拙い点は何卒ご容赦いただきたい。
小春日を 溶かし湖へと 揺れ積もる 薄藍の雪 富士は黙せる
山間の 神無き空よ 澄み渡り ぽつんと残る 柿の実一つ
袖触れし 夢の最中に 立ちどまり 振り向きもせぬ 旅の秋桜
一思い 空の落とした 墨の色 遠き山並み 赤を秘めたり
小夜更けて 軒端の時雨 ひたひたと 独り思えば 寂しさ募る
こうして自作を書き並べてみると、日本的な風景を切り取った、写実性の高い弟の俳句から大いに影響を受けていると感じる。単に真似た上で、下句を付け足しただけであれば、それは定型ありきの蛇足に過ぎないが、筆者なりに俳句よりも長い特質を活かしつつも、簡潔な美を目指して頭を捻った。短い小説とは異なり、様々な想いを畳み込もうとしなかった。省略の果てに紡ぎ出した歌が、少しでも小春の薫りを醸し出しているなら嬉しく思う。
最初の読者は、常の如く校正者の任を兼ねた弟である。事前に目を通してもらったところ、山間を冒頭に据える歌について、下句が意味の重複を来たしていると指摘された。確かに、「ぽつんと残る」という表現は、他に並ぶもののない状態をそれ自体で示唆している。
そこで、参考までに改変してもらった。
山間の 澄み渡る空 神もなし ぽつんと残る 吾と柿の実
なるほど。ぽつんと残るという情景を、自分と柿の実に重ね合わせることで、単なる風景描写から詩人の孤独な心象へと主題を昇華させている。それでいて、その調べは決して悲観的ではなく、神という概念さえも遠ざかる虚無の境地にありながら、静かな肯定に満ちていると感じられる。
さて、本稿はやはり自作で結びたい。冬の本格的な寒さを前に、航海中の様子を歌にした。読者諸賢も折を見て、小休止してみてはいかがだろうか。
沖をゆく 船もゆったり 帆を畳み 釣具を並べ 小春日に干す
