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音楽が繋いだ物語 6

6-音色にひかれて
雨が降りそうで降らない天気の中、翔太の路上ライブが始まっていた。
「あ、始まってる。」

由紀は軽く駆け足で公園に向かっていた。先週聴いた翔太の歌が忘れられなかった由紀は、自分がまだ駆け足をできることに驚いていた。
「こんな気持ちになれるって。素敵な歌声だったもんね。」

公園に着くと、吐く息が真っ白になって空に溶けていく。噴水の前の人だかりを見つめると、先週と同じように彼が歌を歌っていた。

ゆっくり呼吸を整えながら、人だかりの方へ近づいた。

由紀は人だかりの後ろに立ち、そっと翔太の姿を探した。先週よりも少しだけ人が多い気がする。それでも、彼の歌声はしっかりと届いてきた。

「…。優しい歌声。」

翔太はアコースティックギターを爪弾きながら、目を閉じて歌っている。その表情は、どこか祈りを捧げているようにも見えた。由紀は、彼の歌声に吸い込まれるように、じっと聞き入った。

歌が終わると、控えめな拍手が起こった。翔太は深々と頭を下げ、少し照れくさそうに微笑んだ。由紀は、その笑顔にドキッとした。「ありがとうございます。えっと、次の曲は…」
翔太がギターを調整しながら、そう言った時、由紀は意を決して人だかりをかき分け、前に進み出た。

「あの…!」

由紀の声は、予想以上に大きく響いてしまった。周りの人々が一斉にこちらを向く。翔太も、驚いたように目を見開いて由紀を見
た。

「あ…」

翔太は、由紀の顔を認識したようだ。少し戸惑ったような、でもどこか嬉しそうな表情を浮かべている。由紀は、急に恥ずかしくなって、言葉に詰まってしまった。

「あ…あの…先週の歌、すごく良かったです。それで…また聴きたくて…」

顔が赤くなるのが自分でもわかる。俯いて、小さな声でそう言うのが精一杯だった。翔太は、少しの間、由紀を見つめていた。そして、ゆっくりと微笑んだ。

「ありがとうございます。また聴きに来てくれたんですね。嬉しいです。」
翔太の優しい声が、由紀の心に温かく響いた。
「あの…もしよかったら、この後、少しだけ時間ありますか?」

由紀は、勇気を振り絞って、そう言った。

「あ、昨日のお姉さん。ねーねー。この人奥手なんですよー。彼女募集中なんですよ。」
「顔もそこそこなのにねー。女っけなくって。よろしくお願いいたします。」
高校生たちがにやにやしながら声をかけてきた。

「あ、ち、違うんです。音楽が素敵で、…。なんか、昔を思い出して…。それで…。」

さらに耳まで赤くなるのがわかるが止められなかった。うつ向いてしまった由紀に高校生たちが、
「すみません。すみません。悪気はなくて…。」
「そうです。ほんとに。すみません。この人ほんとに女っけなくて、和ませてあげようって…。な。」
顔を見合わせながら頭を下げていた。

「こいつらいい子なんです。口が悪いし、人への距離感バグってますけど、悪気ないんですよ。すみません。気を悪くしないでください。」
ギターを下ろして、由紀の前までやってきた翔太は深々と頭を下げた。

「ここが終わったら一緒に話をしませんか?ごはんおごりますから。」
にっこりと微笑む翔太に由紀はぺこぺこと頭を下げながら、
「こちらこそすみません。なんか、…。急に声かけてしまったから…。すみません。」
頭を上げるとにっこりと微笑む翔太と、変な顔をしている高校生たちが目に入った。

「あははははは。」
由紀は思いっきり笑った。いつ振りか覚えていないけれど、お腹の底から笑っていた。夕闇があたりを包んでいるが、公園の街灯や街のイルミネーションが二人を照らしているようだった。

「笑顔最高ですよ。お姉さん。」
高校生たちが自分たちの座っている場所に手招きしてくれる。いつも使っているのかクッションを貸してくれた。

「じゃ、次は今週も「Love」。いっちゃいましょう。」
マイクの前に立ち直し、ギターを構えた翔太の声に観客たちが大きな声援をあげた。

翔太が由紀にそっと微笑んで、ギターを奏で始めた。

昔のフランス映画のようなセピア色の音色の曲。おしゃれだけど少し切ないラブソング。先週聴いた時よりもドキドキする。

キラキラと輝く光の中で、由紀は音楽に溶け込んでいた。


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