Lucky Kilimanjaro『風になる』から学ぶマインドフルネスの本質
はじめまして。フリーランスでPjMやPdMをしている丹下ジュンと申します。
本来、noteの最初の記事では丁寧な自己紹介をするのがお作法かと思います。が、今回はどうしても書きたいテーマがあり、自己紹介はそこそこにして、本題に入らせていただきたいと思います(笑)
今回のテーマは、Lucky Kilimanjaroの『風になる』とマインドフルネスです。
私はこれまでスタートアップでエンジニアやPMとして働いてきた経験をもとに、先日、Amazonで一冊の書籍を出版しました。
この本は、若手のエンジニアやPMが、ソフトウェア開発現場特有の「不安」や「不確実性」とどう向き合っていくかについて、私なりの知見を体系化したものです。 そしてその中で、非常に重要な考え方の一つとして「マインドフルネス」を紹介しています。
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さて、書籍でこの「マインドフルネス」とは何なのかを紹介するにあたり、私の中で「これこそが、まさしく私の言いたいことを完璧に表現してくれている」という最高の題材がありました。
それが、Lucky Kilimanjaro(ラッキーキリマンジャロ)の『風になる』という曲です。書籍の執筆中、この曲とその歌詞を引用しながらマインドフルネスの解説をしようかと本気で考えました。
ただ、何の脈絡もなくJ-POPの歌詞が(しかもかなり情熱的に)登場すると、読者の方を驚かせてしまうかもしれない……。そう思い、苦渋の決断で、書籍ではこのテーマを取り上げるのを断念しました。
しかし、マインドフルネスをより深く理解してもらう上で、これ以上の題材はありません。私の想いを100%伝えるためには、この曲の存在が不可欠です。そこで今回、書籍では書ききれなかった「番外編」として、Lucky Kilimanjaroの『風になる』を引用しながら、マインドフルネスについて私なりに解説させていただきたいと思います。
そもそもマインドフルネスとは
マインドフルネスとは、ひと言でいうと、評価や判断をせずに、『今、この瞬間』に起きていることに、ただ意識を向けている心の状態です。
私たちは普段、食事をしながら明日の仕事のことを考えたり、歩きながら過去の失敗を悔やんだりと、「心ここにあらず」の状態で過ごしていることがよくあります。心があちこちにさまよっていると、不安や後悔といったネガティブな感情にとらわれやすくなります。
この感覚を、あなたが街を散歩している場面で、具体的に考えてみましょう。

マインドフルネスな状態
「ああ、空が青いな」「風が吹いているな」「鳥の鳴き声が聞こえるな」というように、あなたの五感が、その瞬間に直接捉えている情報だけに意識が向いている状態です。
マインドフルネスではない状態
同じ道を歩いていながら、あなたの頭の中が、「先週の仕事の失敗、なんであんなことを言ってしまったんだろう…(過去への後悔)」あるいは「来週の顧客との会議、うまくいくかな…(未来への不安)」といった、思考のことでいっぱいになっている状態です。
景色は見えているようで、見えていない。音は聞こえているようで、聞こえていない。マインドフルネスでないときの意識は、「今、ここ」にはないのです。
過去も未来も、この瞬間には存在しない
私たちの不安は、ほとんどの場合、「過去」か「未来」を舞台にした、頭の中の物語から生まれます。
一日の仕事を終え、湯船に浸かって、ようやく訪れた休息の時間。しかし、あなたの頭の中は、今日、上司から注意されたこと(過去への後悔)や、明日に控えた重要な会議(未来への不安)のことで、いっぱいになっています。
しかし、この瞬間、あなたの目の前には、あなたを責める上司も、プレッシャーをかけてくる会議も存在しません。そこにあるのは、温かいお湯と、湯気だけです。にもかかわらず、あなたは苦しみを感じています。その苦しみは、あなたの脳が作り出した「幻」です。
あなたは自ら、過去の嫌な記憶を再生したり、未来の不安なシナリオを想像したりすることで、すでに終わったはずの、あるいは、まだ起きていないはずのネガティブな感情を、今この瞬間にわざわざ呼び起こしているのです。
マインドフルネスとは、まさに、この思考のタイムトラベルを、強制的に「現在」へと引き戻すことです。不安の燃料となる、過去や未来への思考から離れることで、心の波を鎮めるのです。
『風になる』の精神
さて、ここからが本題です。サビの歌詞を紹介しながら、『風になる』がマインドフルネスの本質を突いていることを解き明かしていきたいと思います。
風になる 風になる
不安なままでもいいよ
「ぼくは風になる」
となえてからだが軽くなる
🎵 風になる 風になる
まず、「風になる」とはどういうことでしょうか。
私は、「『今、ここ』の感覚に集中する」というレベルを超えて「自分自身が風という『存在』そのものになる」という宣言だと解釈しています。
私たち人間は、「過去への後悔」や「未来への心配」といった、頭の中の観念的な思考によって不安を感じます。 一方で「風」とは、どのような存在でしょうか。
風は、「今、この瞬間」にしか存在しません。 そして何より、風は「自分は良い風だろうか」「あの雲は邪魔だ」などと、あれこれ考えたり、評価・判断したりしません。ただニュートラルに、その瞬間に吹いているだけです。
つまり「風になる」とは、評価や判断ばかりしている「悩む主体としての私」を一旦手放し、「ただ、今この瞬間に、ニュートラルに存在する」という、風のような存在に、自分自身がなる、ということなのです。これはまさに、散歩中にあれこれ思考や判断を挟まず、ただ五感で「今」を体験している状態と重なります。
🎵 不安なままでもいいよ
マインドフルネスは、不安やネガティブな感情を「消す」ためのテクニックだと誤解されがちです。しかし、その本質は真逆です。 「今、ここ」で起きていること(=不安を感じている自分自身)を、良い・悪いと評価・判断せず、ただありのままに受け入れる(受容する)こと。それがマインドフルネスです。「不安なままでもいいよ」という一節は、まさにこの「評価しない受容」の精神そのものです。
「不安を消さなきゃ」「不安な自分はダメだ」と抵抗する(=マインドフルネスでない状態)のではなく、「ああ、今、自分は不安を感じているな」と、その状態を否定せずに、ただ"OK"を出す。 感情を無理に抑え込んだり、ポジティブな言葉で打ち消したりする必要はありません。自分の中に不安という感情があることを認め、まるで空の雲が流れていくのを眺めるように、ただそれを観察するのです。
この姿勢は、不安やストレスだけでなく、嬉しいことや喜びも含めた全ての感情に対して「良い・悪い」のラベル貼り(評価・判断)をやめる、というマインドフルネスの最も重要な実践です。
🎵 「ぼくは風になる」
となえてからだが軽くなる
このフレーズも、マインドフルネスの「実践」と「効果」を見事に示しています。
「となえる」=意識的な"アンカー"
まず、「となえる」という行為。マインドフルネスの状態は、放っておいてなれるものではなく、意識的な練習や、集中のきっかけが必要です。 例えば、瞑想中に呼吸を数えたり、体の各部位に順番に意識を向ける「ボディスキャン」を行ったりするのも、意識を「今」に戻すための意図的な取り組みです。
瞑想中、雑念が浮かんでも、それを追い払うのではなく、「雑念が浮かんだな」と気づき、またそっと意識を「呼吸」に戻します。このように、意識を引き戻すための「錨(アンカー)」があった方が、マインドフルネスは実践しやすくなります。
この歌詞における「となえる」という行為は、まさにこの"アンカー"の役割を果たしています。 不安という雑念(過去や未来への思考)に飲み込まれそうになった瞬間、「ぼくは風になる」と唱えることで、意識的に「"今、ここ"の感覚に戻る」と、自分を引き戻しているのです。
「からだが軽くなる」="二次的な苦しみ"からの解放
そして、「からだが軽くなる」という感覚。 注目すべきは、「不安が消えて」からだが軽くなる、とは言っていない点です。
「不安なままでもいいよ」と受容したまま、「風になる(="今"に集中する)」と意識を切り替える。 すると、「不安」そのものはまだそこにあるかもしれないが、「不安と戦うこと」をやめた結果、心身の余計な緊張が解け、「からだが軽くなる」のです。
私たちを本当に苦しめるのは、不安そのもの(一次的な苦しみ)よりも、「不安をなくしたいのに、なくせない」とジタバタし、そんな自分を責めること(=二次的な苦しみ)です。
そういった意味で、この曲は、「不安に抵抗することをやめた瞬間に訪れる、本質的な解放の感覚」を見事に歌い上げています。
サビ以外の歌詞にも、マインドフルネスのヒントが散りばめられているので、ぜひ全て目を通してみてください。
歌詞の全文
https://www.uta-net.com/song/268730/
不安を超えるために
マインドフルネスとは少し話がそれますが、もう一つ、私が好きなフレーズを紹介します。
大丈夫、この先は誰にもわからないけど
自分で選ぶことはできるよ
不安さ僕も
不安を超えるために君が選び続けるんだ
特にこの「不安を超えるために君が選び続けるんだ」というフレーズです。「不安なままでもいいよ」と受容すること(マインドフルネス)は、不安と付き合う上で非常に重要です。しかし、それと同時に、私たちが「行動」によって不安そのものを減らしていく努力も、もちろん必要です。
私の書籍では、不安の根源は「不確実性」(=未来や他人の考えが分からないこと)であると解説しました。 そして、その不確実性を減らす、つまり「分からないこと」を減らしていくことが、最も根本的な不安の解消法です。
では、「分からないこと」を減らすにはどうすればいいか。
それは、「調べる」「人に聞く」「(えいやと)決断する」といった、具体的な行動を起こすしかありません。この歌詞の「選び続けるんだ」という部分は、まさに、この「不確実性を減らすために、行動を起こし続ける」という能動的な選択のことを歌っているのではないかと私は解釈しています。
「不安だから動けない」のではなく、「不安を超えるために行動し続ける」。 マインドフルネスで心を整えつつ、一方でこうして現実を前に進めていく。その両方が、私たちが健やかに働くためには不可欠なのです。
まとめ
今回は、一見、突拍子もない組み合わせかと思われましたが、Lucky Kilimanjaroの『風になる』を題材に、マインドフルネスの本質について一歩踏み込んで紹介させていただきました。
作詞をされた熊木幸丸さんがマインドフルネスを意図して書かれたのか、私には知る由もありません。 ただ、私自身の解釈からすると、これほどまでに「不安の受容」と「今、ここに在ること」の感覚を完璧に表現した曲はなく、大好きな曲です。
Lucky Kilimanjaroはこの曲に限らず、全体的に「過去や未来のことをくよくよ考えすぎず、 今を生きよう!今を楽しもう!」という、マインドフルネス的なメッセージが込められた曲が多い印象です。
今年大ヒットした『楽しい美味しいとりすぎてもいい』も、今を楽しもう!というメッセージをより強く歌っています。ぜひこの機会に、歌詞にも注目して聞いてみていただけると嬉しいです。
さて、次回からはもう少し真面目に(?)、エンジニアやPMの皆さんにとって役に立つ知見を紹介していきたいと思います。
今回は私の趣味全開の記事になってしまいましたが、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
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