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Country~投げ返し続けた白球の話~

 そう。僕は見誤ったのだ。たしかに、そう。今、思い返し、それがどうだったのかって頭の中、もういちど、ぼんやりと、ときに繊細にそのときのことをフィードバックしてみる。
 僕は社交場の中の1人としてそのバーにいた。その飲み会とは普段の職場とは違う社交の場だった。僕は飲み会が嫌いなようでいて、そこまでは嫌いでない。僕はひとりでも酒を飲むことができる。アルコールに食道を通過させ、胃袋で休ませる。しばらくして、僕は神経伝達物質から放出されるアドレナリンなどにより、体の奥からじわじわと気分が持ち上がってくる。
 しばらくして、アルコールが喉を通って体の奥からじわじわと気分があがってくる。
 そう、つまり僕は飲み会であるか、どうかに限らずにお酒を飲むこと、気分を高揚させることが好きでいて、その高揚とアルコールがリンクしていることにいつからか気づくようになったのだ。そして、飲み過ぎも経験し、飲まなすぎも経験し、ちょうどよいアルコールとの付き合いかたが、いつからかわかるようになった。なんて、うまい話はない。僕はいまだにアルコールといい付き合いができる時もあれば、悪い付き合いをしてしまう時もある。気の合う親友のように思うときもあれば、手のひらをひっくり返されるような裏切りにあうこともある。話をもとに戻そう。
 僕は飲み会という社交場にいた。乾杯の時に近くにいたその日に始めて会った1人の男性との会話も盛り上がっていたから、このままこの1人との会話を続けるという選択肢もあった。けれど、せっかくの機会だと、ピッチャーにビールを入れにいくついでに、その人と違う人と話すことにした。その人はもう僕がピッチャーにビールをいれて元の場所(この飲み会はオールスタンディング)に戻るころには、他の女性と楽しそうにさっきまで僕にしていたような話をしていた。きっと、彼はいつだって、同じような話を同じようにしているのだろう。僕は1人になり、さぁ、新しい人と社交しよう…と少しワクワク。少しドキドキしながら社交相手を探すことにした。トレインスポッティングのマーク・レントンがバーで始めて誘う相手を探すように。いつだって、こういうときは少しの勇気がいるものなのさ。
 僕は周囲を見渡し、1人の席に座っている女性に目星をつけた。その女性は社交が始まってからずっと1人で座っていた。僕はすこし気になっていたのだ。僕は”少し”の勇気を出し、ビールグラスを片手にその女性に近づいて話をした。
 女性は僕よりも数十は年上なのはわかっていた。近づいて話をしてみると、スリムで黒髪のその女性は繊細な猫のような鋭い目をしていることがわかった。「どうも、おつかれさまです。」僕は女に話しかけると、少し遠くを見て。「あら、どうも。」と言った。その時から僕はすでに見誤っていたのだった。女は僕がどんな話をふったとしても、上からの目線での話をしていたのだから。女は座りながら、僕からの問いかけに答えていた。僕は立っていて、女性は座っている。上から目線で話すことについては逆転現象が起きていた…とも言えるだろう。僕はそこで、どういうわけか、女が座っている隣にある椅子を見て、「座ってもいいですか。」と聞いた。女は「あら、どうぞ。」とお高く答えた。これで現実の目線は同じになった。僕は会話にならない会話をその女と続けることになった。僕は女にこんな風なことを聞いていた。「好きな音楽はありますか。」すると女は遠く鋭い視線で、こう答えた。「私の夫がミュージシャンなの…」女は、あたかも私のことを何にも知らないのね…という感じで、お高く、時に嫌な言い回し、抑揚で言った。僕は落ちそうになるフライ、いや一度落とした白い白球を拾い上げ、なんとかもう一度ボールを投げ返した。「あぁ、それじゃ、その旦那さんの曲が好きということなんですね。」「そうよ。」と女は吐き捨てるように言うと、そうに決まっているでしょう。そんな質問してどうするの?という感じで僕の方に目もくれずに、ビールグラスを傾けるでもなくいい飛ばした。僕は再び、フライを落球し、投げかたを忘れた白球を拾いあげ、もう一度玉を投げ返した。「どうやってその仕事をしようとしたのですか。」女はもう困った…お手上げという感じでこう答えた。「頼まれたからよ。」僕は「頼まれたんですね。いままでの仕事は全部頼まれたんですか。」ここは意外にも素早く返球した…女の唾つきの玉を受け取り、僕は手を汚しながらもなんとかね。「そうにきまってるでしょう。」僕は心の中で反芻してみた…”そうにきまっているでしょう”、僕は”はぁ~”とため息をつき(心の中で)、こんな台詞が使われるシーン、それはきっとつまらないドラマになるのだろう。そのつまらないドラマにでてきそうな嫌な女役がこんなことを言うのかもしれないな。現実には女は僕に吐き捨てるようにいった。僕はこのときに、ようやく”もう投げ返しても意味はないんだ”と気づき、それでも、しばらくの無言の後、その場を「それでは、失礼します。」と苦心のよれよれ玉を女に投げ返し、その場をあとにしたのだった。
 そのあとの社交の中でこのようなことは起こらなかった。僕はその日、いつくかの間違いを起こしては、再び何食わぬ顔でまたやり直しをした。見誤ることなんて毎日のことなのさ。

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