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東京のあの子と、親切、みたいなこと

彼女は「杉並」出身だった。
初めて会った時、出身を「区」で言うことに衝撃を受けた。
ぼくは「区」どころか、「郡」の出身だった。

出身地は違えど二人はお互いを必要とした。
けれど、人に対しての感覚は大きく違った。
特に、親切に対する考え方が。


どこまでが親切かは、「街」によって違う。
田舎での親切が東京では危険視されたり、リスクになったりする。


田舎の感覚で東京の人と接してはいけません。

そう彼女から教え込まれた。



そんなある日、彼女と下北沢の僕の家に自転車で帰っていると、暗がりに、高校生の女の子が、一人、しゃがみこんでいた。

僕たちは家路を急いでいたので、通り過ぎてしまったが、すでに23時を回っており、やはり気になったので、「戻っていい?」と彼女に言い、二人で戻った。


すると、案の定、その高校生は、外れた自転車のチェーンをはめられずに、立ち往生していた。


「チェーン外れたの?」と、夜の暗がりなので、優しく声をかけて、素手でチェーンをはめてあげた。

高校生は僕らに礼を言い、僕らは、その子を見送ってから、家路に向かった。



やっぱり戻ってよかったな。手にサビが付いちゃったけど。

そう思いつつペダルをこいでいると、なんだか、彼女の機嫌がよろしくない。

もしかして、ヤキモチ焼いてる?
いや、そんな、ばかな・・・。


「あのぉ、怒ってる・・?」

探るように質問してみると、「昨日、私の自転車のサドルが右に曲がってるって言った時、なんもしてくれなかったのにね・・・」と。




思ってもないところから煙が出てきた。
サドル?なんの話?

というか、サドルの話とさっきのことは、なんの関係もない。

僕は家に着くと、手を洗うより先に納戸を開いて、錆止めスプレーを取り出した。

「さぁ、サドルはどっちに曲がってるんだったかな?」




親切とは難しい。
いや、東京とは難しい。


その夜、二人の会話は、「本当に日頃から大事にしなきゃいけないのは誰なのか」にまで及んだ。


しばらくして、僕らは別れた。
「区」と「郡」の違いを超えることができなかった。
けれど、自分たちが何を大切にしているかをお互いが理解してから別れることができた。
別れは、東京らしく、さっぱりしていた。

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