運動生理学: ボディビルとカーボ制限

ボディビルのコンテストでは、重量を持ち上げる能力や持久力ではなく、筋肉の形や大きさ、輪郭が評価の対象となる。このため、一般的な栄養管理とは異なり、「食事が見た目にどう現れるか」が関心の対象となる。炭水化物の調整、いわゆるカーボコントロール(多くの場合はカーボディプリートとカーボローディングの組み合わせ)が行われる理由は、この見た目の操作にある。
炭水化物は体内でグリコーゲンとして筋繊維内に貯蔵される。グリコーゲンは高強度の運動時に利用されるエネルギー源であると同時に、筋細胞の体積を決める要因の一つでもある。筋グリコーゲン量の増減に伴い、筋細胞内の水分量も増減することが知られており、グリコーゲン量が多い状態では筋細胞内の水分が多い≒体積が大きいという状態が成立する。トレーニングによってグリコーゲンを消費すると、筋細胞内のグリコーゲン量と水分は低下し、それに伴って筋細胞の体積が減少する。この段階では筋肉はしぼみ、いわゆる「フラット」と呼ばれる状態になる。ここに炭水化物摂取制限を組み合わせて、この状態を維持しようとする人もいる。
この状態そのものは目的ではなく、この操作の意味はその後の段階にある。グリコーゲンが低下した筋では、炭水化物を摂取した後のグリコーゲン合成が促進されることが知られている。炭水化物を十分に摂取すると、筋細胞内のグリコーゲンが増加し、それに伴って細胞内の水分も増加し、筋繊維は再び膨らむ。
筋細胞内へのグリコーゲン生成と水分の取り込みは比較的短時間で進行する一方で、毛細血管圧や電解質、ホルモンなど異なる要因によって調整されている皮下水分は、筋細胞内の変化と同じ速度や同じ方向で変化するとは限らない。そのため、カーボディプリートとカーボローディングの結果「筋細胞は水分により膨らんでいるが、皮下には相対的に水分が少ない」状態を作り出すことができることがある。この状態では、筋肉が内側から皮膚を押し出すように見え、輪郭や分離が強調される。これがボディビルでいう「張り」と「ドライ感」の組み合わせである。

「ドライ感」といっても、カーボコントロールによって体内の水の総量を大きく減らしているわけではない。体内の水分は常に循環し再分配されており、特定の部位だけを選択的に減らすことは恒常的にはできない。ボディビルコンテスト向けのカーボコントロールで行われているのは、水分「量」の操作というよりも、筋細胞内とそれ以外の体組織とのあいだの一時的な分布の偏りを作る操作である。

カーボディプリート/カーボローディングは、利尿剤のような直接的な水分排出操作とは性質が異なる。利尿剤は腎機能を介して電解質と水の排出を増加させ、全身の体液量と電解質バランスを全身的に変化させる。このため、皮下水分だけでなく筋細胞内の水分も同時に減少し、筋の体積も低下する方向に変化する。その後に水分を摂取した場合も、水はまず循環血液量や細胞外液の回復に用いられ、特定の組織に選択的に配分されるわけではない。一方で、カーボディプリート後のカーボローディングでは、低下していた筋グリコーゲンが再び増加する。このとき、筋グリコーゲン量の増加に伴って筋細胞内の水分量も増加する方向の変化が観察される。その結果として筋細胞内の体積が増加し、外観としては筋の膨らみが強調される。

なお、本稿はカーボコントロールや水分操作によって生じる外観上の変化とその生理学的背景を解説するものであり、極端な栄養・水分制限を推奨するものではない。このような操作はリスクを伴い、その効果についても一貫した再現性があるとは限らない。炭水化物の制限によりカーボディプリートの状態を維持することは可能であるが、この維持そのものがグリコーゲン再合成をさらに促進するわけではない。その間のトレーニングパフォーマンスの低下や、エネルギー不足に伴う筋分解の増加、ストレス応答による回復の遅延などが生じる可能性があり、結果としてローディングの質を下げる要因となることがある。

ちなみに、運動パフォーマンスの向上を目的としたカーボコントロール(カーボローディング)は、以上で述べてきたボディビル系のカーボコントロールとは目的が異なる。運動そのもののパフォーマンスが評価されるスポーツでは、カーボコントロールの目的は筋細胞内に貯蔵されるグリコーゲン量を増やすことであり、見た目は問題とはならない。十分な炭水化物摂取と適切なトレーニング負荷が確保されていれば、強いディプリート状態を経なくても筋グリコーゲンは高い水準まで回復し得るとされている。


いいなと思ったら応援しよう!