手触り
古道具屋の奥に、奇妙な手袋が置かれていた。
「これは“手触り”を保存する手袋です」
店主はそう言った。
半信半疑で、男は手袋をはめた。
古びた机に触れる。
すると突然、ざらついた木の感触と一緒に、強い夏の日差しが頭に浮かんだ。
小学生のころ。
宿題を嫌がりながら、この机に突っ伏していた記憶だった。
男は驚き、次々に物へ触れた。
駅のベンチ。
亡くなった父の釣り竿。
離婚した妻が置いていったマグカップ。
どれも、“感触”と一緒に、忘れていた記憶を呼び起こした。
最後に男は、自分のコートのポケットへ手を入れた。
指先に、小さな布の感触。
娘の手袋だった。
去年、遊園地で片方なくして、泣きながら帰った日のものだ。
そのとき男は、思い出した。
あの日、自分は仕事の電話ばかり気にして、
娘の手を、ほとんど握っていなかったことを。
男は静かに店を出た。
そして家に帰ると、眠っている娘の手をそっと握った。
小さな手は、驚くほどあたたかかった。
