見出し画像

『こころは遺伝する』(河出書房新社)はジョジョ5部だった

河出書房新社様から『こころは遺伝する――DNAはいかに<わたし>を形づくるか』 ロバート・プロミン 著, 田中文 訳をご恵投いただきました。ありがとうございます。
本書は遺伝学と心理学を扱う書籍で、本音を言うと歴史、特に世界史ばっかり勉強している私にとってはこの領域はやや門外漢ではあるのですが、拝読させていただきました。
読んだ結果、「これジョジョ5部で読んだやつだ…」(進研ゼミのDM漫画風に)となったのでnoteにまとめておきます。

本記事はジョジョ5部のネタバレを含みますので、もし見たくない方は閲覧をご遠慮ください。


すべてはDNAに書いてある

まずはざっくり、本書の内容を紹介しようと思います。本書のAmazonでの紹介文章にはこのようにあります。

「遺伝か環境か」の答えが出た!

遺伝の影響は歳を重ねるごとに強まる。
家庭も学校も、子どもの将来に違いを生まない。
知能、性格、行動、疾患は、生まれた瞬間に予測できる──
私たちの〈こころ〉は、いかにして形づくられるのか?

あらゆる心理・行動の個人差の予測を可能にする〈DNA革命〉を最前線で牽引してきた行動遺伝学の世界的権威プロミンが放つ、半世紀におよぶ研究の集大成。

遺伝の影響がこれまで考えられていたより大きく広範におよび、家庭環境や学校教育が、じつは子どもの将来に影響を与え「ない」ことを明らかにして、怒涛の議論を巻き起こした世界的ベストセラー、待望の日本初上陸!

正直、この紹介文で本書の主張のコアな部分がかなり話されてしまっている気もするんですが、改めて整理すると「性格や嗜好だけではなく、知性、収入、病気など、個人がどのような人生をおくるかはDNAという形であらかじめ設計図が描かれている」というものです。そしてDNAは両親からの遺伝であり、高い確率で子は両親に似てしまう。そして、DNAに刻まれていない事柄を外部からの刺激(例えば教育)によって後天的に付与しようとしても、それは徒労に終わる可能性が高い、という内容です。

私には幼稚園児の娘がいます。
親としてはやっぱり、自分の子に幸せな人生をおくってほしいし、それが実現するためのサポートをできるだけしてあげたいと思うものです。まだ幼稚園児で半分人間・半分獣のようなものなので、社会的なお作法は教えつつも、基本的には本人がやりたいことをさせ、親はその環境を整えてあげる程度にとどめています。
しかし小学校高学年くらいになってくると「やっぱり中学受験をして私立の学校に入れてあげたほうがこの子のためになるのではないか…」と、私もたぶん考えると思います。
親御さんによっては、「子どもの頃自分がやりたかったのにできなかった」とか「ノーベル賞学者が子どもの頃にやっていた」とか、いろんな理由で子どもに習い事や英才教育を施そうとするかもしれません。

しかし、このような企みというのも、「DNA上『適正』」でなければ全くの無駄になるだろう、と本書は主張しています。公立校より私立校の生徒のほうが学力が高いのは、私立校に入れるような生徒は「学力が高いDNA」をもともと持っているだけであり、"私立校の高いレベルの学習"の結果ではない、もともと学力が高いDNAの子は公立校でも高い成果を出す確率が高いというわけです。
そしてそのような「学力が高いDNA」も両親からの遺伝による可能性が高く、高学歴の両親の子も高学歴になるケースが多いというのです。

注意したいのは、これは「可能性」「確率」の話であって、必ずそうなるというわけではないということです。

本著を執筆したロバート・プロミンさんも、両親や親族に大卒者はおらず、家に1冊の本もない貧しい家庭で育ったそうです。しかし物心ついたころから彼は本が大好きになり、図書館に通って本をどっさり借りて読んでいたそうです。これは両親から受け継いだ遺伝子の「低い確率が当選した」パターンです。逆に、両親ともに高学歴のエリートなのに子は勉強に馴染めず落ちぶれてしまうパターンもあります。これは、教育が間違っていたわけでも、環境が悪かったわけでもなく、同じく両親から受け継いだ遺伝子の低い確率が当選したパターンであるというわけです。このパターンは、「であるというわけです」とまとめてしまうには残酷なほどの苦しみを両親にも子にも与えますし、実際に悲劇がたくさんあります。

「全てがDNAで決まってるんだったら、教育なんか無駄じゃん」
となってしまうかもしれませんが、それも極論。
子どもがどのような分野で才能が発揮できるかを観察して、適切な場所で、適切な指導を受けさせ、自信と自己肯定感を持てるように導いてあげるのが親の役割である、とこの本を読むと思います。
大切なのは、親が子どもを自分の思い通りにコントロールしようとしないこと。いかに子どもの才能が発揮できる環境を作ってあげるかであって、それができれば、子どもは勝手に成長して才能を伸ばしていく
星飛雄馬に野球の才能があるとわかっていたら、星一徹はあんなスパルタ教育しなくてよかったし、自分自身もあんなにコミットしなくてよかったんです。

ジョジョ5部のテーマは「運命」

で、なんでこれがジョジョ5部なのかって話です。

ジョジョ5部は、吸血鬼ディオの息子である主人公ジョルノ・ジョヴァーナが、もともとの肉体であるジョナサン・ジョースターの血と誇りを受け継ぎ、麻薬などをイタリアの人々にもたらしているマフィアのボス、ディアボロを、ブチャラティを始め、マフィアの仲間たちと共に倒すという物語です。
(未読の方はマジで意味が分からないと思いますがご容赦ください)

作者の荒木先生は、5部のテーマが「運命」であると、63巻の帯に書いています。

『連続』――音楽のすばらしさは連続する音の美しさであり、モーツァルトは『音符一つとしてカットできない』と皇帝に向かって言ったし、生命も連続するDNAという鎖でてきている。そう考えると、この世には連続するどうすることもできない「運命」というものが存在するのを認めざるを得ない。しかし一方で「運命」が決定されているとなると、努力したり喜んでも仕方がないという考えも生まれてくる。そこなんですよ。人間讃歌を描いていて悩む点は。答えはあるのか?

この帯のコメントは、5部で荒木先生がやりたかったことをかなり端的に表していると思います。
ジョルノが矢で刺された後に発言した「ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム」は、「殴られた者は運命に到達できない」という能力でした。ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムに殴られたディアボロは、「ジョルノを殺す」という運命に到達できずに、永久に死に続けることになりました。
また5部のエピローグには、ブチャラティたちがジョルノと出会う前に、スコリッピというスタンド使いと出会う話があります。スコリッピのスタンド能力は、「近い将来死ぬ運命にある者に安らかな死をもたらす」ものです。エピローグのエピソードでは、ミスタの活躍でスタンドを破壊することに成功するのですが、スコリッピはこのように言います。

我々はみな『運命』の奴隷なんだ

そしてスコリッピのスタンド、ローリング・ストーンが破壊された後、ブチャラティ、アバッキオ、ナランチャの姿が現れ、彼らが近い将来死ぬ運命にあることが事前に予期されていたことが描かれます。

DNAの設計通りに生きるという宿命

さすがに、「戦いによる死」といったことまではDNAには設計されてはいないはずですし、『こころは遺伝する』でも、「遺伝子は運命ではない」「遺伝決定論はない」と明言されています

しかし、個人がどのような人生をおくるかが、予定的にDNAに設計されていて、人はそれに抗うことができないんだという点は、ジョジョ5部で描かれている世界観だなと思いました。
全てのリスクを回避し、社会にとって是であることを行い、何事も平和であることで満足する人。
常に周りが危険に満ちてて、その中で知恵と体力を使いサバイブすることで生きていることを実感する人。
これらのDNA特性をもった人が、どのような一生を送るかまでは運命論的には分かりません。平和に生きたいと思ってても事故で死んでしまう人もいるし、危険と隣り合わせな生活を何十年とおくっても生き残る革命家みたいな人もいます。
ただ、DNAはそのような志向行動を個人にとらせるポテンシャルを与えているだけです。主人公のジョルノが、父親ディオの元々の肉体の持ち主であるジョナサン・ジョースターの遺伝子を受け継いでいるとすると、彼がボスを倒して組織をのっとるという行動は、DNAにすでに設計されていたのかもしれません。

今回読んだ『こころは遺伝する』をもとにして、1998年の連載当時の荒木先生の疑問

しかし一方で「運命」が決定されているとなると、努力したり喜んでも仕方がないという考えも生まれてくる。そこなんですよ。人間讃歌を描いていて悩む点は。答えはあるのか?

これに答えるとすると、こうかなと思います。

努力したり喜んだりするのもすべてDNAによって設計されている。
仮に自分の"未来予測"を知って「がんばってもしょうがない」と思って努力や怠るとか希望を失ったりするのであれば、そういう態度をとる指向もすでにDNAに設計されている。
DNAはあくまで「現在持っているポテンシャル」であるから、努力したり喜んだりして才能が花開いたり、逆に最適な環境にいることができなくて才能を毀損してしまったりする。それを含めたもろもろが、人間の素晴らしさ「人間讃歌」なのだろう。

本書は特に、子育てや教育に悩む親御さん世代にぜひ読んでいただきたいです。
結構難しい遺伝学の話が出てくるので、特に(私みたいな)人文系の頭の人は読むのが大変かもしれませんが、頑張って読んでいくと「人間」というものに対する認識が変わると思います。おすすめです。

有料マガジン公開しました!

はてなブログで公開していたブログの傑作選をnoteでマガジンにしました。
1記事あたり10円でお安くなっています。ぜひお求めくださいませ。


いいなと思ったら応援しよう!