異国料理と旧友との再会
旧友からインスタグラムでDMが来て再会することとなった。
京都時代に友誼を結んで幾度も飯を食いにいった人だ。
それから10年。特に連絡を取り合うということもなかった。
旧友は就職して幾度かの転勤を経て東京へ。
僕は長大な無職期間と講談修行を経て神奈川へ。
満を持しての再会である。
旧友は、近頃いろんな国の料理を食べるのに凝っているらしく、ウクライナ・ジョージア・ロシア料理の店で会食をすることとなった。
再会した旧友。「変わってないねエ」とか「随分雰囲気変わったネ」なんていうのが正しいのだろうが、久しぶりすぎる。10年である。前に顔を合わせた時と様子が変わっているかどうかもわからない。
下手すりゃ本人じゃなくても気づかねえかもしれない。
10年と言うのはあまりに長い。
「10年ぶりですね」「10年ぐらいたちますよね」「久しぶりですよね本当に10年」
そんな、あたりさわりどころか意味もない会話を繰り広げつつ店内へ。
店内は照明を暗めに設定しておりムーディーである。
ウクライナにもジョージアにもロシアにも疎いけれどもその店に漂っている異国情緒はわかる。
東京では様々な国の料理が食べられるが、ああいう店に行くということは海外旅行の異国情緒の一端を味わうことができるので、良いものだ。
笑顔のまぶしい店員氏の接客が気持ちいい。
メニューを開いて注文を繰り広げていく。
何がなんだかわからないが、ちゃんとメニューに日本語で説明が書いてあるので、何が出て来るかは想像がつく。
前菜の盛り合わせやら、シュクメルリやら、水餃子のようなものなどを注文する。
昔話×目の前のみたことのない料理。
こう、話すことがぽろぽろと出てくるもので、10年ぶりとは思えず会話に花が咲く。
この旧友は食べ物のことが好きな様子がして、いい。
食べ物が好きな人というのはいい。意味がわかる。
僕は完全に「食べるために生きている」という口であるから、食道楽は好きなのだ。
あ、でも食通は苦手。だってなんでも美味いんだもんね。まずいとか出来が悪いとかいう人の気が知れない。
目の前の旧友も、食通というよりは朗らかな食道楽タイプ。
食べたことのない料理に互いに感心をする。
どの料理も押しなべてうまいのだが、香辛料の香り……スパイスというよりもハーブの風味がどの料理にも豊かだ。
そして動物性の脂が丁寧に使われている印象。


水餃子は特に白眉で、ぶあつめのトゥルルン、とした皮にひき肉の種が包まれている。
おそらくハーブで処理をしてあるのだろう、肉汁がお肉の脂の味わいの豊かさと、ハーブの爽やかさを両立している。また、酢醤油やラー油につけてたべるわけではなくクリームとレモンのソース、そしてサワークリームが添えてある、という味付け。

北国の冬を想像する。
寒い寒い日に、熱い熱いこの水餃子。
「あちあち」とぞぼう、と吞んだらクリームと脂とハーブが胃の中に居座って、しばらく胸のあたりを暖かくしてくれそうな。そんな光景が想像できる。
我々の食欲は強力に推進されていき、ラムであったりデザートであったり、さまざまな注文を繰り広げて2時間あまりの会食となったのであった。
結構食った。
会計の段となる。
会計伝票が我々の席に到来する。
そこには24000円ほどの金額が記されている。
「我々二人で、こんなにも食べてしまったのか」と若干愕然とする。
いやそこまで高級な店ではない。一皿4000円も5000円もするものなんて一つもない、ビールだって一杯750円とかだった。決して悪徳店ではない。
でも我々には心当たりがあった「確かにたくさん食べたもんなあ」。
割り勘ということになり、互いに12000円づつ供出する。
互いに財布の中の現金の具合によって、どのようにお札を提出し、どのようにおつりを分け合えば割り勘になるのかを算段。
3分ほどのディスカッションで上手く塩梅をすることができた。
正直、僕は心の中で「近年まれにみる高額ディナーになったなあ」なんて思いながら。
でも、旧友との再会のうれしさ、痛恨事、とまでは思う気になれない。
しかしこの時である。
冒頭の、笑顔の素敵な店員氏、焦ったように我々に駆け寄ってくる。
「申し訳ございません、伝票が間違っておりました」
どうやら、我々の前に会計をしようとしていた二人連れの伝票が我々に、そして我々の伝票が二人連れにそれぞれ渡されていたようで、それを是正しようという店員氏の動きであった。
渡された新伝票には17500円ほどの値段が記してある。
なんだか、得をした気分。
いや、得なんてもんじゃない、爆得、狂得、極得の気分。
こっちはもう12000円づつ払う気でいたのだ。いや、払った気でいた。
でも17500円だったら割り勘でお互いに9000円払えば事足るのだ。
1人、3000円の割引。ものすごいお得感がある。
僕は旧友と「素晴らしいサービスだね」「なんかただで食事を食べたような気分だ」と興奮しながら店を出るのだが、旧友は「しかし、我々は得した感じがしていいけれど、我々の伝票を間違えて渡されたあの両氏は、3000円以上の割り増しになるわけで、それはその心痛を察するに余りある……」という旨の弁。
確かにそうだ。大割り増しである。
確かにミスを伝えに来た店員氏も顔面蒼白「ま、まずいことになった」ということが如実にわかる様子であった。
「あの店員氏、後からお叱りを受けたりするのだろうか」と心配をする旧友。
しかし一連の「ちょっとした事件」に心が湧いているところがある様子の旧友。
「ああ、この人はそういう人だった、そういう人の心の揺らぎに気づいて心寄せながらも若干面白がってしまう、そういう人だった」と10年前に仲良くなった理由を改めて思い出す。
こういうところが面白い愉快で、気分がいい人だった。
改めて再会が嬉しくなる。
旧友との再会、いや、素晴らしい友人との再邂逅となった。
美味い飯、友との再会。いい夜だった。
次はモンゴル料理に行く予定を立てている。
どうやら東京で、友と世界をめぐることになりそうだ。

ヌガーとラムレーズンがはいったこってりアイス。
