自分のパンツは自分で洗え〜5、別に好きな人でもなんでもないのに②
◯
2月上旬の土曜日。街コンの日は、さっぽろ雪まつりの開催期間でもあった。
コロナ禍の外出自粛が和らいできたとはいえ、婚活の用事がない限り街中を訪れることはない。お見合いはもっぱら札幌駅か大通駅周辺のため、すすきのを訪れたのは久しぶりであり、観光客で賑わう様子に圧倒された。
街コン会場はすすきのにあるパーティールーム。控えめな照明がシックなラウンジ風会場と知り、久しぶりに清楚系女子アナ以外の服に袖を通した。マーメイドラインのスカートにはナチュラルメイクよりも赤リップが合うだろう。玲ちゃんはシンプルながらもタイトなつくりの黒いニットワンピを着ていた。
ふたりで会場を訪れ、身分証明書を提示して会費を支払う。すでにラウンジ内は参加者が集まっており、萌え袖のセーターを着た若い女子の姿があった。男性陣はスーツやジャケットが多く、こういったところはお見合いのそれと変わらない。
運営から簡単に説明があり、飲み物は各自バーカウンターで頼むシステムだと教わる。ソフトドリンクもあるが、私たちは最初からビールを頼んだ。緊張をアルコールでやわらげるのは男子も女子も変わらない。
婚活パーティーと違い、プロフィールカードの記入はない。回転寿司のように男性が席を移動することもなく、適当なテーブルに座っていると運営が様子を見ながら男性陣を配置した。もちろん、こちらからお目当ての男性に声をかけても良いし、一対一でカウンター席出語り合うこともできる。
連絡先の交換は自由。カップル成立の発表もない。はじめての街コンの雰囲気に、私は緊張しながらお酒を飲んでいた。
「玲ちゃん、どう? 誰か話したい人いる?」
「別に……あそこにいるの、さっき入り口で一緒になってた二人組だよね」
街コンラウンジに到着する寸前、スーツ姿の男性二人組を見かけていた。年の頃は30前後、仲よさげな様子だったが、彼女の第一印象は『なんかチャラそう』とよろしくない。しかし、彼らは私たちのテーブルに座った。
「はじめまして」
「こんばんは」
挨拶をしながら乾杯する。会場ではほとんどの人がお酒を飲んでいた。
「俺たち、広告代理店の同僚なんだ。二人も仕事繋がりとかそんな感じ?」
「私たちは近所の飲み屋さんで会って」
「飲み屋って夜の店のこと?」
「いや、普通の居酒屋」
広告代理店の二人組は31歳。身につけている時計や靴から金銭的な余裕が窺える。ハイスペ男子の集まる街コンは、男性側の会費もけっこうな額だったはずだ。
玲ちゃんは口数が少なく、私がアシストを入れる。チャラそうと見限っているのか、それとも緊張しているのか。一対一のお見合いと違い、これは合コンに近く、女子同士も作戦を練って動く必要がありそうだった。
結婚相談所のお見合いで定型文の会話ばかりしていたため、合コンのノリに触れるのが久し振りだ。ある程度の時間が経つと席を移動するようアナウンスされるため、その前に気になった人とLINEを交換する必要がある。広告代理店の二人組とはそれぞれ連絡先を交換した。
席替えをする前に、新しい飲み物を取りに行く。バーカウンターの近くに運営の姿があり、広告代理店の男性が親しげに話す様子が見えた。
世話好きのおばさんといった運営の様子に、私は桜田さんを思い出す。年嵩の女性が運営スタッフにいる街コンは初めてだった。
私に気づいた男性が、ビールを受け取りながら声をかける。
「お酒、何頼むんですか?」
「私もビールで。緊張してるから、飲んでも全然酔った気がしなくて」
広告代理店二人組、代理店AとBと名付けよう。爽やかなスポーツマン系の代理店Aは一対一で語らう女性を見つけ、ラウンジ隅のカウンターに横並びで座っている。代理店Bは、積極的に動くAの様子を見て苦笑していた。
「さすがAだな」
「こういう街コンみたいなの、よく二人で参加してるんですか?」
「俺はAに誘われて参加したから、今回が初めてだよ」
次の時間も彼と話すことはできるが、玲ちゃんの席に次の男性が集まっていた。彼女のぶんもお酒を頼んでいた私は、ビールを運びながらそのテーブルに参加する。
次の男性陣はそれぞれ個別参加らしい。会場で最年長らしき男性の自衛官と、フォーマルな場に浮いたネルシャツの若者が相席になる。自分より年上の自衛官に、安堵してしまうくらいには年齢層が若い。私が自衛官と話していると、ネルシャツ男性が玲ちゃんに熱心に話しかけていた。
「僕、仕事は経営者なんです」
「へえ? 若いのに」
「株で稼いでるので、いつも在宅仕事ばかりで。こういうところに来ないと出会いもなくて」
街コン会場でも、会話に定型のやりとりがあることを掴む。最初に職業・年齢を打ち合けるのは必須であり、その仕事なら出会いもあるんじゃない? いや~、男ばっかりで全然だよ、と参加の志望理由を話す感じか。お互いのスペックを開示するのは婚活パーティーと変わらない。
特殊な仕事をしていると、そこから始まるため良くも悪くも時間がかかる。婚活会場で自衛官に会うことは多く、私は仕事内容を聞き出すことにさほど時間はかからなかった。
結婚相談所と違い、男性陣も女性慣れしている人が多い。
高スペック男性を狙い、女性陣も若くて可愛い子が多い。美人の玲ちゃんは男性たちの視線を集めており、彼女と話したい人は多いのだろうと思う。私も自衛官の男性と会話をするものの、連絡先交換に至るほど互いに興味もなく、お見合いで培った当たり障りのない会話スキルを駆使して時間を潰した。
次の席交換。飲み物を取りに行くと、玲ちゃんが後ろを追う。
「久深ちゃん、一緒にいてよ」
「誰かとゆっくりお話ししたらいいのに。さっきの経営者君は?」
「LINEだけ交換した。一対一とか苦手だから、次は大人数のテーブルに行こうよ」
3杯目のドリンクを片手に、4対2で話している長テーブルに腰をかける。私たちが参加してちょうど同数。先に話していた内容を探ると、男性二人は銀行マンらしい。
話題は出身地について。玲ちゃんは地元も札幌だが、私の出身地を告げると銀行マンが反応した。
「ねえ、○○君って知ってる?」
「知ってますよ、同級生です」
「おれ、○○君と高校一緒だったんだよ」
田舎出身だけに、地名と年齢を出すと身元が割れてしまいがちだ。◯◯君は中学まで一緒だったが、彼は高校からスポーツ推薦で地元を離れていた。
意外な共通点にお互い盛り上がるが、私は学生時代○○君にいじめられていたため、友人として話すことに抵抗感があった。まったくもって親しくもない○○君は女子生徒から人気があり、銀行マンが「あいつ男前だよな。高校でも女子から人気でさ~」と話すが、かといってそれ以上の話にもならず終了した。
ああこれ、疲れるやつだな。私は場のトークに相槌を打つふりをしながら、会話を離脱した。
もとから乗り気ではなかった街コン。予想通り、男性陣は年下ーー33歳以下が多い。女性も20代後半から30過ぎといったところか、年齢を告げたときの相手のリアクションに、年上はお望みではないと悟る。
必ずしも年齢で判断されるわけではないが、私はそのマイナスポイントを上回る美貌を持ち合わせていない。もともと壁の花になる予定だったし、今日はお酒を飲む日にしようと決める。婚活で日々ダイエットに励んでいるため、お酒を自由に飲める日は貴重だった。
「いえーい、乾杯!」
会場の中には、異常にテンションの高い男性がいた。ワックスで固めたウェーブヘアがコントの爆発頭のようだ。ホスト然としたノリの彼は、会場の女子に片っ端から声をかけているようだった。
「ねえ、お姉さんお仕事なにしてるの?」
「私は医療系かな」
「まじか、同業者じゃん!」
ホスト然男性は年上の36歳。医療のジャンルこそ違えど、業務内容によっては重なる場面もある。共通点があると、不思議と会話も弾むものだ。
「医療系なのに、そんな派手なパーマで大丈夫なんでふか? メンズメイクもしてますよね?」
「メイクなんてしてないって。これは毎日のサウナで肌がつやつやなだけだ」
彼のノリにあわせるとため口になった。
「疲れてる顔してるけどどうした? 今回はけっこういい男たくさんいるぞ?」
どうやらホスト君は常連らしい。場の空気に疲れて遠い目をする私に、あの辺の男子なんてどう? と見繕ってくる。しかし、隣にぴったりと座るため距離が近かった。
ホスト君は会場を縦横無尽に動き回るソロ参加者。単独参加と友人同士の参加は半々といったところか。知り合いがいるのは心強い反面、そこで群れて機会を失ってしまうデメリットもあるのだなと、そう冷静に分析する私は一対一のお見合いでずいぶん鍛えられたようだ。
4杯目はクールダウンでソフトドリンクにした。暖房の効いた部屋は空気が薄く、暑さで頭がのぼせてしまう。2対2のテーブルに玲ちゃんと座ると、若い男性二人が正面に座った。
挨拶、自己紹介、仕事の話や趣味について。短い時間で一から始めるのもそれはそれで大変だ。私はいつもの癖で愛想良い姿を演じてしまうが、対する玲ちゃんは興味のある男性とそうじゃない男性とで態度も違った。
「お仕事はどんなことをされてるんですか?」
私は正面の男性に話しかける。玲ちゃんは正面の男性とトーク中だ。せっかく同じテーブルなのだからと話題を振ったが、その人は私のことを見ていなかった。
真正面に座ってはいるが、膝先からすべてが彼女を向いている。そこまで露骨な態度をしてくる男性も珍しい。
はいはいそうですか、私はお呼びじゃないですか。
「……ごめん、ちょっとお手洗い」
席を立つと彼女に引き留められたが、アルコールで尿意も限界だ。ましてや失礼な態度をされてまで同じテーブルに着く必要もなかった。
お互い興味の持てないお見合いの30分も苦痛だが、大人数で露骨にはじかれるのもそれはそれで苦痛だな。
お酒を飲む割に頭が冷静だ。いや、酔っているからこそ、考え事がぐるぐる回ってしまうのかもしれない。
私たちのテーブルに座る男性は、みんな玲ちゃん目当てだったもんな。
そりゃみんな美人と話したいもんね。
私だって今日は赤リップで色気出してみたんだけど、どうせ頑張っても天童よしみだしね。
萌え袖のセーターの女の子たちはふわふわしてかわいいもんね。
なんかな、姉と食事に行ったときのことを思い出すな。
姉も美人系の顔なんだよな。姉と食事に行くと店員さんみんな姉にサービスするもんな。
私はずっと、誰かの引き立て役だしな。
結局、世の中顔なんだよな。
「……赤ワインください」
お手洗いから戻った私は、バーカウンターで強いお酒を頼んだ。
話の途中で抜けたため、会場のテーブルはどこも固定のグループができていた。玲ちゃんのテーブルに戻る気にもなれず、カウンターに背中を預けてワインを飲んでいると、運営の女性に声をかけられる。
「どうしたの? さっきのテーブルに行ったらいいのに」
「いや、なんか疲れちゃって」
おそらくこの女性が街コンの主催者なのだろう。もしかしたら個人で仲人活動をしているかもしれない。私は大手グループの相談所を利用しているが、個人で立ち上げた相談所のほうが手厚くサポートしてもらえるというメリットもある。
桜田さんを思い出す、お母さんのような優しい雰囲気。
それに、私の心が緩んだ。
「……なんで、好きでも何でもない人に気に入られようとにこにこ愛想よくしなきゃいけないんだろう」
数々のお見合いで身につけた会話スキル。そうなんですね、すごいですね、とひたすら笑顔で相槌を打ち続ける。大半の男性も同じように好青年を装って会話を進めるが、時折、自分さえ良ければ良いという人にぶち当たることがある。
なんで失礼なことをしてくる人に気に入られようとしなきゃいけないんだろう。
別にその人に好かれたくもないのに、なんでにこにこしちゃうんだろう。
でもにこにこ愛想良くしないと婚活なんてうまくいかないし。
そうやってにこにこして良い人を見つけないとだし。
だから今日も頑張ってにこにこしてたんだけど。
なんかもう、疲れたな。
#創作大賞2025
#オールカテゴリ部門
