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自分のパンツは自分で洗え〜3、あなたの精子は老化しないんですか?⑥


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「田丸さん、少しお痩せになりました?」

 厚手のコートを脱いだ私の姿を見て、桜田さんがそう指摘した。

「そうですか? あまり体重は変わってないんですけど」

「背中のあたりが変わったなと思って。ダイエット頑張ってらっしゃるんですね」

 相談所のプロフィールには身長や体重を入力する項目がある。身長は㎝単位で表記するが、体重は5㎏ごとに刻んでいた。しかし、50㎏~55㎏と55㎏~60㎏では印象が違うため、私は婚活を始めてからダイエットも並行して頑張っていた。

  例年、冬になると日照時間が不足することでウィンターブルーになりがちだ。甘いものや炭水化物を爆食いし、ひたすら寝こける毎日で激太りしてしまうが、婚活をするなら見た目には重々気をつけねばならない。

  相手の体重を気にするということは、自分も同じように見られているということ。わがままボディの人が相手のプロフィールを見て「太っている人は無理です」と言った日には特大のブーメランが返ってくるだろう。

  婚活を始めてから、新しい服だけでなく化粧品を買う頻度も増えた。流行のメイク動画を漁って令和メイクを習得し、いつも同じ色だった口紅を服装によって変えるようになった。ノーズシャドウ、ハイライト、コンシーラーに眉マスカラ。必然的にお化粧の時間も長くなる。

 本格的に活動を開始してから最初の定期面談。普段はメールのやりとりが多いが、相談所のオフィスで桜田さんと話せる貴重な機会だ。約束の時間までにお見合いを済ませ、その足でオフィスに向かったため服装は清楚系女子アナのままだった。

「今日もお見合いお疲れさまでした。田丸さんの活動をグラフにまとめましたので、一緒に確認していきましょうか」

 E社では定期的な面談時に、自分がどれくらいの人とお見合いをしたのか、相手からお断りされた項目はなにか、仮交際につながる確率はどれくらいかを数値にして確認する。定期面談のたびにPDCAサイクルを回すため、システマチックでシビアな世界だと感じるが,効率的に婚活をすすめるにはこれくらいやったほうがいいのだろう。

「田丸さんのデータを確認すると、お見合い成立の数字に問題はないですね。ここで数字が低い人はプロフィールに問題があるということなので改善していく必要があるんです」

 それぞれの項目について桜田さんが説明する。私は女子アナ風ワンピースに家庭的アピールの紹介文が功を奏したようだ。私がお見合いに至らなかった理由で一番多いのは『価値観の違い』であり、相手が求める女性像に私がなにかしら当てはまらなかったらしい。

「……お断りの理由に『身長・体重』があるのは、もっと痩せてる子がいいということですか?」

「いえ、この場合は身長ですね」

「背が高すぎると……?」

「おそらくそういうことだと思います」

 私は自分より身長が低い人もOKにしているのだが、男性側はそれが許せない人もいるのだろう。

「お見合いでお断りになった理由は、やっぱり『価値観の違い』が多いですね。話し方や印象についてのNGはないので、これはもう仕方ないことです」

 お見合いを数多くこなすも、感覚的に、このお断り理由をつけたのはあの人だろうな……という予想ができるものだ。価値観も相手に迎合すべきか? と思ったが、桜田さんはそこまでする必要はないと告げた。

「そうそう。田丸さんがお断りしたEさん、実は向こうはYESだったんですよ」

「あの態度で!?」

 おさらいをすると、Eさんとは待ち合わせ場所で目があったにもかかわらず『本人の確証がない』という理由で時間まで無視した人だ。お見合い中も不用意な発言が多く、解散時に『お疲れさまでした』と言うあたり、好ましく思われなかったと感じていたのだが。

「Eさんはお見合いの時間がとても楽しかったらしいですよ。また次回もお会いしたかったみたいです」

「次回会いたいと思う人に対して、あんな無神経な物言いをしたんですか……」

「そうなんですよ。本当にもう、言ってやってください」

 やはりEさんは桜田さんの担当なのだろう。そしてお見合いをするたびに、相手方の女性から同じような苦情が来ていたのだなと察した。

 定期面談の問題点洗い出しはすぐに終わった。私はまだ活動をはじめたばかり、とにかくお見合いをこなしていくしかない。年齢や年収など細かく注文を付ければたしなめられただろうが、桜田さんはとくに何も言わなかった。

「田丸さん、40代の男性とも積極的に会ってくださってますが、お話ししてみてどうですか?」

「もともと、お付き合いしていた人も年上が多かったので話題には困らないんですが……」

 私は根っからの年上派だ。そのため、40代の男性に会うことに抵抗はない。

「ただ……お見合い申し込みのプロフィールを見ているうちに、だんだん疲れてきて」

『子どもは二人欲しいです』と書いてあった47歳男性。お断りしたが、それが頭にこびりついて離れない。

「35歳以下の女性に自分の子供を産んでほしいっていう、男性側のそういう価値観が見えてきて……正直……」

 正直、気持ち悪い。その言葉を私は飲み込む。

 活動開始年齢は33歳。限りなく34歳に近い33歳だが、それを相手がプロフィールから読み取ることはできない。35歳を過ぎると高齢出産と呼ばれる世の中、私自身も年齢を気にして婚活を始めた。34歳で良い相手が見つかれば、35歳での出産も間に合うかもしれない。私が婚活をする最大の理由は『子どもが欲しい』なのだから。

 いざ相談所で活動をはじめると、同世代の男性から断られることが多い。30代半ばの男性ならば20代や30歳前後を望むのだろう。20代・30前後の女性を40代や50代の男性が追いかけるのも我が身をもって学んでいる。
 では33~34歳の自分に申し込む40代・50代男性とは。

『20代は自分のことを相手にしてくれないだろうけど、35歳前の女性なら受け入れてくれる人もいるだろう。ギリギリ高齢出産じゃないし』

 その心理が透けて見えて仕方なかった。

 さらに『歳はいってるけど、向こうも結婚に焦ってるだろうし』という上から目線も感じる。それが図星なだけによけい悔しくもあった。

 学生時代、女性教師が何かの折に『女は穴と袋』という言葉について話していたことを覚えている。あの頃はまだピンとこなかったが、女性教師もまた三十路を過ぎいろいろ考える年齢だったのかもしれない。

「なんか、子供を産む年齢で申し込んでくる男性って、35歳以上の人には申し込まないのかなって。今の時代、30代後半で初産の人もたくさんいるのに、そういうのを感じるとすごくもやもやして……」

 婚活市場とはそういうものだ。自分も婚活市場価値というものを理解している上で、34歳の一年間だけと期限を設けた。わかっている、わかっていたはず、けれどいざ我が身に起こるとどす黒い気持ちばかりが胸を渦巻く。

「こっちの年齢ばかり気にして、向こうはどうなんだろうって思っちゃうんです。卵子の老化を気にするのはいいけど、自分の精子は老化しないのかなって」

 なぜ自分はいくつになっても子どもを授かれると思っているのか。女性側さえ若ければ自分の精子は関係ないと思っているのか。

 男性の精子もまた、年齢を重ねていくうちに運動率が下がっていく。陰茎が勃起して射精で精子が放出されたとして、その中身は若い頃と変わらないと思っているのだろうか。

 47歳のうちに活動が実を結び順調に結婚したとして、すぐに子供を授かっても第一子の誕生は48歳になるだろう。子供が成人する頃には自分は68歳。第二子は古希を迎えているかもしれない。はたして男性陣はそれを理解しているのだろうか。

「田丸さん、さすが小説家というか、もやもやした気持ちをちゃんと言葉にできていいですね」

 ひとしきり気持ちの吐露が終わった私に、桜田さんが言う。

「田丸さんと同じように悩まれる女性会員さんは多いですよ。私たち仲人は男性女性両方を担当しますから、子供を望む気持ちもたくさん聞いています」

 ベテラン仲人になればなるほど、たくさんの会員を担当する。桜田さんは私が思っている以上に幅広い会員たちと接していることだろう。

「子供を望む男性会員さんには、私たちもちゃんとお話ししています。いくら年収が高くても、子供が成人するころには還暦を過ぎている。一番お金がかかる大学生のときに定年を迎えているかもしれない。自分がいつまでも健康でいられるとも限らないですよね」

 自分の親が還暦を過ぎてからそれを痛感している。両親と同世代の人たちが、生活習慣病はもとより、大病を患って入院したという話も聞いていた。

「お相手の女性の年齢にこだわる男性は多いです。だから私たちはそれについてもちゃんとお話ししています。女性だけじゃなく男性もブライダルチェックを受ける必要があるのではないか……そんな話をすると、男性側もはっとするみたいで、年齢の条件を変更する人もいるんですよ」

 結婚相談所の活動は仲人と二人三脚。時には仲人が相手を諭す場面もある。それを知り、私は苦々しい気持ちがすこしだけ和らぐのを感じた。

「田丸さんも同世代の男性からお断りされるから、年上の男性の幅を広げているのだと思います。でも意外とね、自分よりも若い人って年齢にこだわっていた男性たちも、成婚するのは同世代やすこし年上の人だったりするんですよ」

「そうなんですか?」

「私が年齢について悩む会員さんに伝えていることがあって。年齢は背番号って言葉なんですけど」

 良い人なんだけど、ちょっと年齢が上だな。そう悩む人たちに、仲人から贈るアドバイスがそれだった。

 年齢だけで相手を判断しない、そういうニュアンスだと私はとらえている。年齢はあくまでも背番号であると、面談時に34歳になっていた私は、焦る気持ちにそう言い聞かせた。

 子どもを産む年齢で判断する人もいるだろう。けれど、年齢を気にせずに見てくれる人もいるに違いない。そして私も相手を年齢だけで判断しないよう、そう心に刻んだのだった。


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