自分のパンツは自分で洗え~7、だからお前結婚できないんだよブーメラン②
「以前もお話ししたと思うんですけど、プロフィールのお写真をお着物に変えるのはリスクが高いんです」
「着物の写真だと、お金がかかりそうな女性に見えるって話ですよね」
結婚相談所に入会し、プロフィールについて打ち合わせした時。和装姿の写真を希望したところ、桜田さんに却下された経緯がある。
着物=良いところのお嬢さん、浮世離れした人、などのイメージがあるらしい。そのため私は、婚活ウケする清楚系女子アナ服で写真を撮った。紹介文は仲人さんが考えた文章、つまり桜田さんの視点から描かれたイメージで活動していた。
王道の婚活写真で活動したおかげで、入会バブルが発生し、たくさんの人とお見合いすることができた。しかし、数をこなすうちに、相手がお断りする理由がなんとなく見えてきたのだ。
「着物の写真でも、紹介文をちゃんと書けばマイナスなイメージは持たれないと思うんです。もう少し、自分らしく活動していきたいなと思ったので……」
桜田さんの考えた紹介文はこうだ。
『終始笑顔を見せながら優しくお話しされる方です。会社勤めの傍ら、趣味を副業として励まれる頑張り屋さん。料理が得意で、普段から家事なども手際よくこなされている様子です。将来子供ができたら、一緒にお菓子作りがしたいと優しい様子で仰っていました』
家庭的を前面に出し、子供と一緒にお菓子作りをする良き母親をイメージさせる文章だった。
お見合いに臨んだ男性たちは、優しくて家庭的な女性だと思って私と対面していたはずだ。ご趣味は? 休日は何をされてるんですか? そんなたわいもない会話で相手を知っていくのだが……いままでの会話を思い返してみよう。
『会社員と副業を兼業されているんですよね? 大変じゃないですか?』
『自分の好きなことを仕事にできているので辛くはないです。ただ、副業だけでは食べていけないので、会社員で生活費を稼がないといけなくて』
(おや? 趣味を仕事にというから片手間だと思っていたけど、この人、副業で身を立てていきたいと思っている……?)
『手際よく家事をこなしているってことですが、たとえばどんな感じで工夫されてるんですか?』
『普段は仕事で遅く帰ってくるので、休日におかずの作り置きをしていますね。帰宅時間が遅いと晩御飯を作る気力がなくて』
(この人そんなに忙しい生活をしているのか? それだと早く帰ってこれる自分のほうが家事をしなければいけないのでは……?)
『お菓子作りが好きってすごいですね。最近はどんなお菓子を作られたんですか?』
『最近は仕事が忙しくて、お菓子を作る時間もなくて……時間があるときはクッキーやパンを焼くこともあるんですけど』
(あれ? 家庭的なお母さんをしてくれるんじゃなかったのか……?)
『休日はどんなことをされてるんですか?』
『普段の休みは副業の時間ですね。あとは長期休暇などまとまった休みがとれたら、本州で長めに旅行してます。東京で打ち合わせもしたいので』
(うん? この人、休みらしい休みがない??)
『今までで印象に残ってる旅行先はどこですか?』
『仕事を辞めた期間があって、屋久島からずっと北上したことがあるんです。リュックひとつで、桜前線と一緒に動いていたからどこに行っても綺麗で……!』
(うーん、この人、アクティブすぎるかも……)
わかりやすく挙げるとこのあたりだろうか。
仕事の多忙さは紹介文だと伝わらないだろうが、紹介文にある『優しくて家庭的な女性』と、実際に会う私の『好奇心旺盛で活発な女性』が結びつかず、『イメージしていた人と違う』となっているように思えて仕方ない。
好奇心が強いことや、興味を示したものへのフットワークの軽さなど、家庭的な女性を求める人にとってはマイナスイメージにつながるのだろう。しかし、好奇心の強さは小説を書く以上欠かせない素養でもある。
相手が求める女性像に、自分を良さを消してまで合わせる必要はない。
着物をプロフィール写真にしたいのもそう。周囲から褒められる和装姿を、マイナスイメージだからと隠すのは違うと感じた。和装姿を見て紹介を断る人ならそれはそれまでだ。
お見合いに至る件数が減ったとしても。私という人となりを知ってもらうほうが、イメージとの相違という悲劇は起きないだろう。
「……田丸さんがそうおっしゃるなら、お写真を撮りなおしましょうか」
自分の意思をはっきり伝えた私に、桜田さんがしぶしぶといった様子でうなずいた。
「お写真はふたつにしましょう。和装姿と、いままでどおりのワンピース姿と。できれば、和装姿はサブ写真のほうがいいと思うのですが」
「いえ、メインの写真が和装です」
たくさんの女性が表示される検索画面。和装姿が倦厭されているのならば、みな清楚系女子アナ服を着ているに違いない。和装は珍しさで目を引くだろう。
「なぜ着物で写真を撮ったのか、それを紹介文に書けばいいんですよ。お金がかかりそうって思われるなら、その辺もちゃんとカバーすればいいんですよね?」
「その紹介文を、どんな風に書くかは決めてらっしゃるんですか?」
「私が桜田さんになったつもりで書きます。あくまでも結婚相談所の仲人が書きましたというていで、紹介文を読んだ男性にポジティブなイメージを持ってもらえるような文面にすればいいんですよね?」
「……大変じゃないですか?」
「むしろ大得意ですね」
さすが小説家と、桜田さんが笑う。
他者の視点から文章を書くことなど日常茶飯事。小説家として腕が鳴る。やる気満々の私に、桜田さんも声のトーンを明るくして写真撮影の日時を決めた。
「近い日取りだと、来週の日曜日はいかがですか? 午後の遅い時間になってしまいますが」
「来週の日曜はHさんとランチの予定なんです」
数々のお見合いを経て、仮交際につながったHさんがいる。彼とは昼頃に会うため、午後の予定は埋まっていなかった。
「ランチのあと、帰宅して着替えるのは大変なんで……いっそHさんとのランチを着物にしちゃいますか?」
「それは驚かれてしまうのでやめてください」
そんなに和装のイメージは悪いのか。夏に浴衣を着ようものなら男子は喜びそうなものなのに、着物に対する堅苦しいイメージはそう簡単に拭えない。
「じゃあ日曜はやめて……次の平日、シフト休みがあるんです。その日はどうですか?」
「平日ならゆっくり時間もとれそうですね」
そうして、和装撮影の日が決まった。
「ところで、Hさんとはその後いかがですか? お相手からは、田丸さんが笑顔でお話しされていたことが印象に残っているようですが」
「Hさんとは楽しくお話しできましたね。齢も近いし……たぶん、私のこと漫画家だと思ってるみたいですけど」
ひとつ歳上のHさんは、私の副業について質問があった際、『僕の友人は、毎年夏と冬に東京ビックサイトに行ってるんですよ』と話していた。今まで、私にハンドメイド作家や陶芸家などのイメージを持つ人が多かったが、ずばりクリエイター系を当てて見せたことに驚いた。
「Hさんとは毎日LINEでお話ししてます。言葉のやり取りを大切にされたいって話していた通り、一通がなかなかの長文で」
「Hさんはうちの人気会員なんです!」
桜田さんが自信を持って言う。人気会員は競争率が高く、仮交際後の関係を深めるのもなかなか大変らしい。
「まずは次の日曜日、Hさんとのランチの様子を教えてください」
結婚相談所の活動も長くなってくると、お見合いだけでなく仮交際相手とのデートという新しいイベントが発生するのだった。
