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自分のパンツは自分で洗え〜10、やっぱり好きな人と結婚したい中学生マインド②



 人気の観光地は早起きが鉄則。早朝に富良野市を出発した私たちは、中富良野町のラベンダー畑に寄り道をした。

 8月末ともなればラベンダーの見頃はとうに終わっている。しかし、園内は通年で楽しめるよう他の花々も植えられている。ブルーサルビアはラベンダー畑を模しているのだろう、シーズンを逃してもひまわりやアイスランドポピーなど色とりどりの花が鮮やかだった。


   小南さんとふたりで花々を愛で、私たちは知り合いの姿を見つけて声をかける。

「Aさん、お久しぶりです!」

 中富良野町のラベンダー畑は私たちがかつて働いていた場所だ。リゾートバイトの面々は毎年顔ぶれが変わり、何年か続けて働いた私たちはリピーターと呼ばれる。定職に就いてからはもっぱら遊びに行く場所になっているが、正社員のスタッフたちは今も変わらずそこで働いているのだった。

 Aさんは長年売店で働いている。毎年律儀に顔を出す私たちを見て、彼女は嬉しそうに笑った。

「久しぶり。今年はもう来ないのかと思ったよ」

「今回はラベンダーの時期とずらしたんです。今年の忙しさはどうでしたか?」

「コロナ禍の時は観光客も少なかったけど、今年から日本人の旅行客が戻ってきたね。インバウンドが復活したらまた忙しくなるんだろうな」

 私が働いていたのはコロナ前。中富良野町のラベンダー畑は世界的にも有名な観光地であり、インバウンドの観光客がラベンダー製品を根こそぎ買い漁っていく爆買いの対応に追われた。

「二人とも、今は何の仕事してるの?」

「私は再就職した医療機関にそのまま働いてますよ」

「もう4年? 続いてて偉いね」

 つい先日まで飛ぶ瀬戸際だったとは言えない。小南さんもAさんと親しく話していたが、やがて観光バスが入り仕事の邪魔にならないよう撤収した。

「富良野はいつ来ても変わりませんね」

 ラベンダーソフトを調達し、車に乗り込んで出発する。私も免許を持っているが、今回はレンタカーの利用登録をしていないため助手席係だった。

「あたしたちが初めて会った時、田丸さんはまだ20代だったっけ? あの時はあたしも30代だったか……婚活だなんだ頑張っていた頃だったな」

「実は私も、富良野にいた時にこっそり地元の婚活パーティーに行ってたですよ」

「そうなの? 仕事終わりに合コンしてた子たちもいるみたいだし、あの激務の中よくやったよね」

 最盛期のリゾバも猛烈な忙しさだったが、そのぶん時給も上がり実入りが増える。休みのたびに寮の仲間と祭りやビアガーデンに出かけ、忙しくも充実した日々を過ごしていたのだ。

「それで? 相談所の婚活ってどんな感じなの?」

「アプリと違って、お互いを知る前にお見合いをするので、いつもなら出会わないタイプの人と話すことが多いですね……」

 印象に残っている人は誰か。考えて、すぐに浮かんだ人がいる。

 7月は疲れた心身を癒やすために婚活も低空飛行だったが、下旬から続々とお見合いの日程が決まった。

 8月頭にお見合いをしたPさん。30代最後の年齢で、自衛官という手堅い職についていた。

 待ち合わせ場所で挨拶をすると、彼は最寄りのカフェを予約していた。お見合いを重ねると毎回同じカフェに行くようになるのだが、ホテルのラウンジ以外の店を予約する人は初めてだった。

 何度も利用しすぎて、店員の男性に顔を覚えられている。おそらく店員側もここがお見合いの席で利用されていることに気づいているだろう。30度超えの真夏日、いつものノンカフェインのアイスコーヒーを頼んだ。

『Pさん、趣味に釣りと書いてましたが、川釣りですか? それとも海釣りですか?』

『海釣りですね。久深さん、釣りに興味があるんですか?』

『私は海育ちなので、子どもの頃から父と海で投げ釣りをしていたんですよ』

 彼は私の口から釣りの話題が出ると思わなかったらしく、大半の時間が釣りトークで終わった。大人になってから父と釣りに出かけ、イソメに針を刺せず石ではさんでやり過ごした話をしながら、そういう時は男性につけてもらえばよかったのか、と自分で気づく。

『こういう時、素直に父につけてもらえばよかったんでしょうね』

『自分のことは自分で頑張るスタンス、素敵だと思いますよ』

 イソメ気持ち悪ーい、触れなーい、と騒ぐ女子は男心をくすぐるのが上手いのだが。Pさんとのお見合いはあっと言う間に終わった。

 無事に仮交際に進み、登録していた連絡先を介してやりとりをはじめる。最初のメールは男性側から送るのが暗黙のルールだ。

『先日はありがとうございました。仮交際に進めてとても嬉しいです。
 早速次にお会いする日程を決めましょう。
①8月○日○時~
②8月△日△時~
③8月×日×時~
 お盆の時期はお忙しいですか?
 僕は□日~□日がお盆休みなのでその時期も調整可能です』


 ……仕事か?


 メールを開き、そう思った。しかし、時間に厳しい自衛官であれば業務連絡調になってしまうのかもしれない。早く日程を決めないと返事のしようがなく、私は急いで8月のスケジュールを確認した。

『こちらこそ先日はありがとうございました。日時のご提案ありがとうございます。私はお盆も通常通り仕事があるため、□日~□日だとお会いするのは夜になります。②の△日△時~はいかがでしょうか?』

 個人クリニックはお盆休みもあるが、私はお盆もいつも通り仕事だ。提案された日程の中、お盆明けの週末を指定する。

『△日△時~承知しました。
 お店の候補を挙げました。
①イタリアン・○○○ 札幌市中央区~ ○○コース
②中華・△△△ 札幌市中央区~ △△コース
③和食・××× 札幌市中央区~ ×××コース
 何かアレルギーなどお持ちでしたら対応します』


 ……うーん、もやもやする。


 Pさんとのやりとりには雑談を入れるタイミングがない。お見合いの時のフレンドリーな印象が強かったため、勝手に話を進めていくメールが意外だった。

『お店の候補をありがとうございます。特にアレルギーはありませんので③の和食はいかがでしょうか』

 予定を決め、店の場所を決める。普段なら雑談しつつ何度か往復して決めるやりとりだが、一方的に候補をあげられることに少々疲れを感じた。

 年末年始やGW同様、お盆前は駆け込み受診でいつもより忙しい。勤務形態が改善されたとはいえ残業もある時はある。Pさんに返信するにはエネルギーが必要であり、私は時間を見つけて文章を綴った。

『③の和食×××コース、予約いたしました。当日はどうぞよろしくお願いいたします』

 そのメールの時点で、お盆。患者の数は減れどスタッフの多くが休暇を取得している。ひとりで片っ端から仕事を片付けているうちに残業になっていた。

   疲れ切って帰宅し、夜はそのまま寝落ちしてしまった。床で寝落ちして朝から大慌てで出勤するのは今も続いている。昼休みに返信しようとしたが、山川さんと同じタイミングになり、彼女の話を聞いているうちにそのタイミングも逃してしまった。

 その日はなんとか残業にならずに済んだ。仕事終わりに更衣室でスマホを開くと、一通のメールが届いていた。

 タイトル『△日△時~キャンセルについて』


 ……予約システム?

 いや、違う。これはPさんからのメールだ。



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