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子どもを守る言葉は、意外と地味


私は仕事で
「宝物」と呼ばれなかった子たちを、何人も見てきた。


2、3か月くらい前、SNSでとあるお母さんのつぶやきを見た。
内容は
自分の中学生男児を、ご飯の準備ができた等と呼びかけてもまったく近くに寄ってこないのに、「お母さんの宝物はどこですかー」と呼びかけるといそいそと寄ってくる。可愛いやつめ。
というものだった。


この手の話は、顔がにやけてくる。
中学生になっても、自分が親に愛されていると自覚している少年も
そんな呼びかけをすると寄って来るとわかっているお母さんも
思春期に突入しているであろう親子関係をそんな素敵に築き上げたことも
とっても素敵だなと思う。


ただ、これを読んだとき、ふと
あのとき「宝物」と呼ばれなかったであろう子は
誰のところに帰ればよかったのだろうと思った。


私は以前、子供にとって布団になりたいという話や
地震が起きた時、息子の心を守るために、息子の好きなようにさせていたという話を書いた。



私がここまで子供に『あなたは私にとって大切』『私はあなたの味方』と伝えるのには理由がある。
それは私が警察官の少年係時代に、親と良い関係を築けなかった子たちを多く見てきたから。


深夜に出歩いたことで補導されて捕まる子は少なくなかった。
警察官だって子供時代を通ってきた人間だ。夜に特別な思いを抱く子供の気持ちがまったくわからないわけではないが、深夜の街は、優しい顔をした地獄への入り口。
犯罪に巻き込まれる前に止めるのが警察職員の役目である。


そして更に問題なのは
他の子の家に入り浸りで、まったく家に帰らない子だ。


私が少年係3年目のとき、アパートの大家から「少年ばかり出入りしている家がある、何か問題があるのではないか」と通報があった。
この時、少年が何人その部屋にいるかわからなかったので、少年係の係員5人で向かった。
部屋の家主を調べると、20歳の女性。
過去に何度も深夜徘徊等で補導されていた子だと補導職員さんが話していた。最近は何も聞いてなかったんだけどなぁ、とぼやく。


少年係の係員がその家に駆け付けると、家主の女性は在宅していた。
駆け付けた係員の中に顔見知りの補導職員を見つけると「あー!Hさんじゃん、久しぶりー!」と屈託のない笑顔で笑った。
私たちが訪れた理由を話すと「うん、いるいるー。みんなうちが面倒みてるよ。中に入る?」とこれまた事も無げに話す。
まるで家族を家にあげるみたいに、私たちをすんなりと中に入れてくれた。


家の中にいたのは、少女1人。確か16歳。
スウェット姿でとてもくつろいでいるように見えた。
家主の子から話を聞くと、その家には他に2人の子が出入りしているらしいが、その時はアルバイト中だったようだ。


少女は別に家主の子に脅されて部屋にいる様子ではない。
「こんにちは、警察だよ。なんで来たかわかる?」
こちらから話しかけると、その女の子は事も無げに
「んー、うちが帰らないから?」
と答えた。
「そうそう。親は知ってるの?どのくらい家に帰ってない?」
「えー…知らない。言ってないもん。1週間くらいじゃない?」


その発言に、私は耳を疑った。
1週間も家に帰ってないといっているのに、その子の捜索届は警察に提出されていなかった。
その子だけではない。一緒に出入りしているという2人の届け出もなされていない。
これは異常なことなんじゃないか。
親は子供のことを第一に考えるものなのではなかったのか。


「おうちの人、心配しているよ、1回おうちに帰ろ?」
私が決まり文句を言った途端、家主の子が大声を出した。
「そいつの親、そいつの心配なんかしないから!」
家主の子は矢継ぎ早に続ける。


「心配しないからうちが面倒みてるの!他のやつだって、親がダメだからうちがここに住まわせてんの!!」
「大体さー、1週間もここに居んのに、警察だって今更来てんじゃん。」
「普通の親ならとっくに探しに来てるでしょ!警察にも電話してる!誰も来ないってことは、そういうこと!」


彼女の怒鳴り声が、狭い部屋に響いた。
その言葉に、捜索願すら出されていなかった16歳の少女は特に反応しなかった。違うとも、そうだとも声を出さない。


私はそのとき、確信した。
子供が道を外れるのは、悪い友達に出会ったからじゃない。
「自分は親に必要とされていない」という空白を、悪い場所で埋めようとするからなのだ。


後から補導職員さんから聞いたが、家主の子も、実の親と良い関係が築けていなかったようだ。
補導したことをその子の親に伝えても、「はぁ、そうですか」というような対応をされた記憶しかないと言っていた。
きっとその子は自分の境遇が辛くて、下の子に同じような思いをさせたくなくて、家で囲っていたのだろう。


あのアパートで見た光景は、3歳の息子を持つ今の私に、強烈な警告を鳴り続けている。


SNSで見た投稿。
私も、息子とそんな関係を築きたい。
その投稿を見て以来、私も寝る前には必ず「ママの宝物ちゃん」と呼びかけて、子供の頭を撫でたりチューをしたりしている。
3歳の息子も「もうチューはいやぁ」とか言いながら笑っている。


「お母さんの宝物はどこですか?」という、あのSNSの魔法の言葉。
すべての家庭で同じように使える言葉ではないことも、私は知っている。
それでも、子供が『自分はここにいていい』と思える感覚を持てなかった時、行き場は思いもよらないところに生まれてしまう。
私は、息子をあのアパートへ行かせないために、今日も「宝物ちゃん」と呼び続ける。
これは親の自己満足ではない。子供を守るための、最も泥臭い防犯活動なのだ。


あなたが最後に「帰りたい」と思えた場所は、どこでしたか。


それでは。


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みぞ | 違和感のそばに置く言葉 いただいたチップは、毎回私にネタをくれる息子へのおやつ代にさせていただきます。