「パンチドランカーを減らせるか?」という戦い@SPORTEC2026
パンチドランカー。この言葉を聞いたことのある方は、きっと多いと思います。ボクシングや格闘技で起こる障害——そう認識している方も多いでしょう。

もしあなたが、格闘技やボクシング、コンタクトスポーツに関わる人であれば、「パンチドランカー」と聞いたとき、心にわずかな不安がよぎるかもしれません。しかし、その不安を打ち消してしまうこともあります。
「自分はディフェンスを徹底してきたから大丈夫」
「私のスタイルはパンチドランカーとは無縁だ」——そう言葉で自分を納得させる選手も、数多く見てきました。
また
「顔面パンチのないルールだから、パンチドランカーにはならない」ーーーと語る指導者もいました。
しかし、たとえ顔面を打たなくても、首から下が大きく動き続けることで頭部が揺さぶられ、パンチドランカーのリスクになりうる——そんな医学的背景は、あまり知られていません。
格闘技や武道競技は特に、「他人と比較して自分の強さを証明する競技」であるために、他ジャンルや他競技と比較して「うちは強い」「わが流派は正当である」「これが最強の格闘技である」となりやすい傾向があります。
「私たちの競技のリスクは減らせないだろうか?」
とベクトルが内省の方向に行きづらい。よそが中学生の試合をさせれば、うちは小学生の試合をさせる。おかしな方向の競争が加速してしまいがちでもあります。では、そのしわ寄せは誰にくるでしょう?

また格闘技やプロレス、ボクシングを「見るのは好きだけど、やるのは怖い」という人たちがいます。その多くは、パンチドランカーを「特殊な業界の、特殊な疾患」だと思っているでしょう。これは、リングやケージで、殴り合う人たちだけの話だと。
でも、本当にそうでしょうか?
今年はサッカーのワールドカップが開催され、盛り上がっています。日本代表を応援し、世界のスーパープレーに拍手を送る——その瞬間、選手たちがパンチドランカーのハイリスク群であることを、僕たちはどこか別の場所に置いて、プレーを見つめています。
ヘディングで繰り返し頭を揺らし、競り合いで衝突する。サッカーは、決して「頭を打たないスポーツ」ではありません。それでも、サッカーを楽しむという意味では、それでいいのだと思います。パンチドランカーの心配をしながらテレビを見るわけには、いきませんから。

でも、試合が終わったあとには——彼らもまた、そのリスクを負う一群であることを、どこかで気に留めておく必要があるのだと思います。
ラグビーも、アメフトも、アイスホッケーも同じです。ある意味で自らの脳を犠牲にしながら、可能性を追い求め、見る人を喜ばせ、同じ道を歩む者に何かを感じさせ、伝えている。そういう流れの中にいるのです。
つまり、パンチドランカーのリスクは、頭が揺れるあらゆる場面に存在しています。あなたが拍手を送っている、そのフィールドにも。


2026年7月10日、東京ビッグサイトで開催された「SPORTEC2026」。4万5千人が集う、日本最大のスポーツ展示会です。
スポーツの未来と発展をテーマとした場で、「パンチドランカーを防げるか?」というテーマでパネルディスカッションを開催できたこと。
2001年から格闘技医学の発信を始めた僕にとって、「やっとここまでこれた」というひとつの達成感がありました。格闘技の現場と医学の現場、その両方で見て、感じて、体験してきたことが、ついに「流れが変わるかもしれない」という地点にたどり着いたのです。

「わかりました、僕もやります」——そう言って全面協力を誓ってくださった5人の登壇者。この日のために休みを取り、関西から、中部から、九州から、駆けつけてくださいました。
「ぜひ手伝わせてください」と、格闘技医学会の勝井洋さん、樋口幸治さん、大野謙介さん、中外医学社の桂彰吾さんもサポートを買って出てくれました。最高のセコンド陣です。

そして、「これは必要なことだ」とアンテナを張り、意識高く足を運んでくださった来場者の皆様。登壇席から視界に入った、この方たちが、これからのスポーツ現場を良い方向へ動かしていく——そう確信しながら、僕はあの時間を過ごしていました。

これまで、笑い話や皮肉として消費されてきた「パンチドランカー」という言葉。それを、減らす言葉、未然に防ぐ言葉、変革の言葉へと変えていきたい。
そして——脳へのダメージによって人生が望まぬ方向に動いてしまった方々は、その人生をかけて、僕たちに何かのヒントやメッセージを示してくれたことを、一人でも多くの人に知ってほしい。
そう思っています。
もちろん、ゼロにはならない。でも「ゼロにはならない」は、挑まなくていい理由ではない。
パンチドランカー、この問題の解決までは、まだまだ遠いです。僕の代では終わりません。次の世代、そのまた次の世代。ずっと続いていく長大なテーマです。
でもその難題に挑んだ記録として。いつか「あの時、俺たちはあの場にいた」と言い合える。そんなイベントになりました。





今の僕は、体を張って最前線でパンチを、キックを受けているわけではありません。格闘技医学を伝える場面で、軽めのスパーリングをするくらいです。でも、見える相手と戦ってきたからこそ、無理解、無関心という見えない敵とどう戦うか?ーーーーこれが、たまらなくエキサイティングなのです。
もちろんひとりでは、戦えません。でも、「ひとりでも戦う」という気概がなければ、何も動かない。
僕はスポーツ安全、格闘技安全、つまり未来に向かうテーマを見つけたことで、強くなれるんです。そんなテーマに出会えたこと。そして行動のたびに少しずつ賛同者が増えていく今の環境。そしてここまで共に走ってくれたみなさん、場や機会をつくってくれたみなさん、給水所で水をくれたみなさんに心から感謝しています。
そしてスポルテックという考えうる最高の機会に、このコンセプトを実現させてくださった、ゴールドジムジャパン/Think Fitnessの手塚社長、ファイト&ライフ宮地編集長と取材の皆様、情報発信のご協力をいただいているバウトレビュー井原さんにも感謝です。

2026.7.10ーーーやっとゼロが1になりました。
さぁ、ここからは、WEで戦うフェーズ。
WE=無駄に壊れる人を減らし、スポーツ文化を守る人たち、です。
一緒に笑顔で戦ってくれるみなさま 、
これからもどうぞよろしくお願いします。押忍! 二重作拓也
・壊れない練習は、アイディアから生まれる。
・We R The New Power Generation
