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格闘技の安全を、青木真也選手と。

出逢いで何かが動く、ということがある。

 僕にとって、青木真也選手との出逢いも、その一つだ。

 青木真也選手のことは、格闘技界の中でも特別な存在として以前から気になっていた。強くなる、勝つ——それ自体は格闘技の文法として当たり前のことだ。だが、青木真也選手は、もっと根源的な問いをずっと抱えているように僕には見えていた。

「格闘技で強くなって、どうする?」

 その問いから逃げずに向き合い続けている人、という印象。そんな青木選手と、直接会うことになったきっかけは、危険な格闘技興行でのKOが発端だった。

 その経緯や顛末は、青木真也選手のYouTubeとバウトレビューさんで確認してほしい。

 お会いして感じたことは、言葉にならないものも含めて、いろいろあったけれど、ともかく、僕は「たったひとりでもケンカできる青木真也選手」を単純にカッコいいと思った。

 日和らない。自分であり続ける。誰かの顔色を見て自由を手放したりしない。言うの簡単、やるの大変。

 AIの時代、誰でも綺麗な言葉を発信できる時代にあって、彼の言葉には、プラスの意味のザラつきとか、引っかかりとか、ノイズとか、グルーヴがあって。

なんていうのだろう、

「ああ、この考えは、この方のDNAから出てきたんだなぁ」

みたいなリアリティがすごかった。AI時代にあって、肉体からの言葉に直に触れたような感触と言えばいいのだろうか。机上の空論がひとつもないのが凄かった。

 対談の中で、青木真也選手がとりわけ気にされていたのは「パンチドランカー」の問題だった。

 多くの選手が「それは考えないようにしよう」と目を背ける傾向がある。あるいは、考えていても言葉にすると現役としての自分が揺らぐような気がするのだろう、あえて口をつぐんでいる。

 そんな中、青木選手は、その懸念を真っ直ぐに言葉にし、これからの生き方にフィードバックしたいという意志をはっきりと持っていた。

 ぼく自身も、格闘技医学の立場から、パンチドランカーについてはファイト&ライフや著作、SNSを通じて発信し続けてきた。

 ところが、このテーマに強い関心を寄せてくれたのは、意外にも医療者たちだった。「SNS医療のカタチ」に出演した際、大塚篤司先生をはじめとするインフルエンサーレベルのドクター陣が、「格闘技の問題」を「まだ可視化されていない社会問題」としてしっかり受け止めてくれたのだ。

 当事者であるはずの格闘技関係者の間ではあまり話題にならず、むしろ医学の世界で注目される。このパラドックスをいろんな場面で感じてきたが、今回も例にもれず、な感じだった。

 せっかく青木選手のYouTubeに出演させていただいたのに、格闘技界隈での再生回数はそれほど伸びていない。

 正直なところ、青木選手やスタッフの方、引き合わせてくれたバウトレビューの井原さんにも申し訳ない気持ちがあった。幸運なことに、僕はカラテ家・纐纈さんやムエタイの吉成名高選手、石井一成選手、武術格闘家・菊野克紀さん他のYouTubeに出演させていただいているが、やはり界隈では「技術系、パフォーマンスアップ系のほうが数字が伸びる」を実感している。

 だが、ここにきて「このパラドックスを、逆手に取れないだろうか」と発想することにした。

 誰もが諦めかけたその瞬間にひっくり返すーーーそれが格闘技の醍醐味のひとつだとすれば、格闘技ドクターとして知っていただいている身として、この傾向そのものを何とかするしかない。そう思い至った。

 偶然にも、対談の前半動画が公開されたその日、ぼくは今治にいた。元柔道家であり、起業家であり、教育者であり、サウンドのスペシャリストでもある——SUNABACO代表、なかむらまことさん。彼の導きで、学びたいみなさんを前にワークショップをやっていた。

「今日、青木選手との対談がYou Tubeでオンエアされます」

そう伝えると、なかむらさんはこう言った。

「青木真也選手の書籍は、みんな読んだ方がいいです。何者かになるとはどういうことか。そのすべてが学べますから」

 なかむらさんは以前、青木選手のトークイベントを企画したこともあったそうだ。海外で試合が決まったため実現しなかったが、なかむらまことさんと、青木選手と、僕の道が、交差した気がした。

 さらに、なかむらさんからご紹介いただいた原雄司さんとも最近お会いした。

「二重作さんに会わせたい」

 とつないでくださった原雄司さんもまた、青木真也選手とつながりのある人物だった。格闘技をさんざんやってきて、佐山サトル氏にも師事して、3Dプリンターなどのテクノロジーで起業されて、しかも拙書『格闘技医学』の読者で、プリンス好き。入場曲にするなら”BATDANCE”と話す人物だ。おもしろくないはずがない。

人と人の縁というのは、本当に不思議だと思う。

 いろんなものが交差するタイミングが来た——そう直感したぼくは、なかむらさんにアドバイスをいただきながら、「パンチドランカー予防プログラム」を開発することを決めた。

 パンチドランカー(CTE)、これは青木真也選手個人の懸念であり、同時に、試合で6回の意識消失を経験したぼく自身の懸念でもある。そして、脳へのダメージについて現役時代から真剣に向き合ってきたバンゲリングベイの新田明臣代表、ジェロム・レ・バンナと2度戦ったコウイチ選手——安全意識の高い格闘技者たちが、ずっと「何とかしたい」と思い続けてきたことでもあった。

 そう、全くもって他人事じゃない。

 開発は、地味な作業の連続だ。壁にあたることもしょっちゅうだ。それでも、
「青木選手だったらこのアプリをどう感じるだろうか?」
「新田さんの経験はどう生きるだろうか?」
「ゲーリー・グッドリッジにもインタビューしてみたいし、パワーリフターの信田さんにもアドバイスをいただきたいな」
「完成したら、なかむらさん、原さん、纐纈さんは喜んでくれるかな?」
「発表会にはバウトレビューさん、ファイト&ライフさんにも声をかけよう」

——そんな想像が次々と脳の中で動きだす。

 何より、本来の当事者の集団であるはずの格闘技界の人たちの「行動変容」を実現できたなら、このトライにもきっと意味がある。そう信じられることが、いまの僕の前進力になっている。

 プログラムでは、安全や医学に関する情報は、無料でアクセスできる仕様にした。人の命を、健康を救うためのオンラインの情報は、基本的にフリーでアクセスできるようにしたいと僕は思っている。

 そこからさらに一歩すすんで、「テスト」や「修了証明」などを求める人には、有料プランを準備している。ジムや道場はこれからますます厳しい競争になっていく中で、「少なくとも安全な判断ができる指導者」は見える化していきたいと思っている。

 いよいよ完成・公開まで、あと3分の1というところまで来た。

 試合ではラスト10秒でひっくり返される負けを、何度か経験してきた僕だけど。今回だけは、何があってもゴールまで辿り着きたい、と思っている。

 既にいろんな友人、知人がこのプロジェクトに賛同してくれていて。喜びをパワーに変えて、進んでいこうと思う。長文、駄文をここまでお読みくださり、ありがとうございます!

・初期の開発費用は自分でつくる、そのための書でもあります。


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