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デザインサイエンス(04: 農業)「01_農業分野でのデザインの可能性」

このデザインサイエンスは「身体」「建築」「都市」「農業」「環境」「エネルギー」のカテゴリーに分けて、トピック記事をランダムに投下しています。どこから読んでも楽しい構成にしていますので、気軽に興味のあるトピックからどうぞ!
 
今回は「農業」です。

・農業におけるデザインの可能性
農業は、人類が生きてゆくための生活基盤「衣食住」のひとつで、命や健康に係わる最も重要な産業のひとつです。しかし、先時代的なデザインは、農機具というハード面を除き、この領域に積極的に踏み込んで来ませんでした。

それは農業があまりに根源的な産業であり、長大な年月をかけて、自然環境との調和のノウハウが蓄積された業界であるため、かつての縦割りの美術・デザイン教育だけでは役不足だったのかもしれません。しかし今日、デザインの領域や意味がどんどん拡大することで、食やその生産方法、テクノロジーとの融合、地域形成、流通など、産業全体にまでデザイン的な試みが見られるようになりました。頼もしい限りです。

しかし、日本のデザインを学ぶ大学生たちと話していると、やはり「農業」はまだ田舎のほうで、誰かが作ってくれているもので、デザインの対象になるとは感じていない様子です。特に日本では個人事業主の農家さんが主な生産者ですので、手作りで、顔の見える化など、丁寧で安心の作物が多く、みなさんもスーパーで買い物をしていて、国産や地産地消作物を選んで購入することも多いと思います。また日本で就農というと、閉じられた地域性が多く、土地所有の問題やノウハウの習得方法など参入障壁の非常に高い産業だと言えます。

しかし、西洋圏ではそのような農家さんだけでなく、多くの企業や研究所、投資家なども盛んに参入している業界でもあります。「食」は絶対に衰退しない市場ですし、さらに環境に左右されにくい収穫量を担保する農業技術が開発されれば、それは安定的な利益を生むことになります。これは投資家にとって大きなインセンティブになりますし、技術産業としての農業の可能性は、企業や研究所にとっても大きな魅力となります。

「食」の生産は、例えば「車」の製造とは違っていなければいけないという理論はありません。どちらも安心で安全なプロダクトを作り、消費者に提供することです。農業も大規模で管理された生産プロセスを構築することで、よりスケールメリットのあるプロダクトに育てられる可能性も秘めています。ちなみに農作物を英語で言うと「プロデュース」になります。西洋には、農作物に対して「プロダクトを作る」という視点で捉えやすい言語的背景もあるのだなと感じています。これからの日本の産業の伸びしろは、この新しい農業分野に大きな可能性を感じています。
 
・Farm is not Green
農業を考える上で最初に理解しておかなくてはならないことは、“Farm is not Green” (意訳:農地は自然ではない)ということです。この地球上に見られるあらゆる農地牧草地は決して自然の姿ではなく、わたしたち人類の食料生産のために作られた“工場”であるといえます。

広がる黄金色の稲穂、急峻で美しい棚田、整然と峰に沿ってパターンを描く畑、これら美しい農村風景の全ては、長い年月をかけ、精緻に設計された人類知の集積であり、「アグリカルチャー」という「産業」の姿なのです。自然の起伏に従いながら、最小限の仕事量で最大効率を目指して整備・開発されたインフラ、そして本来そこに生息していた生き物たちは、害虫や害獣として駆逐され、その結果として今の農村風景が広がっているのです。

農地として開発された人工的パターンと、自然のランドスケープが残る山間部の衛星写真

農業は自然環境と密着度の高い産業ですから、環境負荷も時には大きなものになります。例えば、農業史における常なる課題である害虫駆除には、自然界に存在しない様々な薬品や成分が集中的に使用されます。これらは散布され農作物を保護した後、土になじみ、水や油に溶け、運ばれて周辺環境の動植物に影響を与え、時に河川の下流や信じられないほど遠い場所にまで広く及ぶこともあります。

また集約的畜産業では毎日膨大な量の糞尿を化学的に中和して廃棄しなくてはなりません。このように、牧歌的な風景の農業は周辺環境へのインパクトを少なからず与えなければ成り立たない産業です。

・農業と社会の相互的関係
農業は適切に管理することでより安定的で効率的な収穫が実現するため、人類は農業での管理制度の構築を通して、今日の社会システムの基盤を確立しました。労働の分担、道具や収穫物の貯蔵・管理・分配の方法など、これら農業を運用する際に重要な要素は、そのまま現在の社会構造の基礎となっていることがわかります。

また農業の発展は技術発展との関係も深く、道具の開発、畜力の利用、金属の発見、機械化、大規模化などを行いながら、農作物の収穫量を増やしてきました。農業の成長に従い、様々な制度化が進むことで、社会は成熟し、小さな集落から始まった共同体は、国家の形成まで進み、今日の人類の繁栄を支えてきました。

また農地は塩化、表土消失しやすく、短期的な利益だけを追求してしまうと、農地そのものを失うという甚大な被害をもたらします。これは多くの古代都市が衰退する原因の一つとして挙げられるほどです。このように、農業の衰退はそこに依存している都市の衰退と直結しているところからも、今日の都市生活者にとっても農業は重要な産業であることが言えます。

また、中央アジアなどに多く見られる準乾燥地のような痩せた土地、ステップのような地域などで行われる、広域な羊などの家畜の放牧は、地表浅く根を張る背丈の低い草木を食餌として刈り取るため、さらなる乾燥化が進みます。つまり、農業も自然破壊と直接的な関係にある事例と言えます。

あらゆる産業にも言えることですが、農業にも多くのメリットとデメリットが存在するものです。

農村風景を美しいと感じることは全く問題ではありませんし、また自然の恵みが偉大なのもまさにその通りなのですが、その農村風景が「自然の姿である」と誤解しないように気を付けなければなりません。それらを理解したうえで、我々はどのように食料をつくっていくべきなのか、みなさんにもこの農業分野においてデザイン分野からの挑戦を積極的に行ってほしいと思っています。

次は、人類史における農業の基本的な役割を再確認していきたいと思います。

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