テニス・2025年・グランドスラム)全仏オープン


男子シングルスの決勝は第1シードのシナーと第2シードのアルカラスの対戦。グランドスラムの決勝で二人が顔を合わせるのは実はこれが初めて。何年も前からこの二人が対戦すると、他では観られないような異次元のテニスが披露されることをテニスファンなら誰もが知っている。まさに全世界に待ち望まれた夢の対戦となりました。

そしてこの決勝戦は、テニスの歴史の中で長く語られる名勝負となったことは間違いないと思います。

ボルグとマッケンローの伝説のタイブレーク、日没になっても続行したフェデラー対ナダル、6時間にも及ぶロングマッチを繰り広げ表彰式で立っていられなかったジョコビッチとナダルの死闘…そんな歴史的な名勝負の列に名を連ねることになるのは間違いない。

とにかく凄まじい試合でした。間違いなくここ数年で僕が観た試合の中でベストマッチ。ライブで最後まで観れた事が、ただただ幸せでした。

試合序盤、勢いはアルカラスにありました。高く弾むスピンと鋭い強打のコンビネーションが冴え、第1セット序盤でブレーク先行。しかしここからシナーが本来のペースを取り戻します。

それにしてもシナーのテニスはなんと正確で、なんて素早くて力強いのだろうか。アルカラスの物凄い強打にも一切ひるまず、追いつきさえすればすべてフルスイングで切り返す。トップスピードではアルカラスが僅かに上かもしれませんが、ラリー全体のアベレージではシナーの方が速く、そしてミスも少ない。

それは彼のコンパクトなテイクバックが密接に関係していると思う。

シナーのフォアは、テイクバックで一度打球する面がはっきりとバックフェンスの方を向くのが特徴ですが、これは腕全体を大きく後ろに引くのではなく、肘からリードするように腕をひねって、それを鋭く戻すことでラケットヘッドを短時間で非常に効果的に加速させる打ち方をしているから。

腕がそれほど大きく動いているわけでなく、身体の回転に連動して腕のひねりと戻しがリラックスした状態で自然と行われ、ラケットヘッドだけがビュンと加速してボールをヒットしている。

だから打点が狂わない。正確さと柔軟な対応力を兼ね備えたスイングをしているのです(バックハンドでも右手を支点に左手をギュンと返す動きが特徴。フォアの打ち方とも共通点がある)。

そのシナーの正確無比で信じられないほど力強いストロークが、アルカラスの猛攻を弾き返し始める。徐々にラリーの支配権がシナーに移り、競りながらも大事なポイントをきっちり締めて、第1セットを先取します。

第2セットに入っても様相はあまり変わらず流れはシナーのまま3-0とリード。アルカラスが意地でタイブレークに持ち込みはするものの、攻撃だけでなく今やジョコビッチ以上とも思えるディフェンス力をシナーは発揮し、第2セットも連取。2セットアップとします。

この時点で多くの観客の脳裏に、

「このままシナーがストレートで優勝しちゃうかも」

…という思いがよぎったのではないでしょうか。

アルカラスのテニスは決して悪くない。ローマ大会のようにしぶとさと攻撃力を両立したテニスをしているのだけど、まるでAIのように正確無比なシナーの前に有効な手が見つけられず、このまま追い込まれていってしまうのではと思えたのが正直な印象でした。

しかし第3セット。

最初のサービスゲームをいきなりブレークされ苦しくなった場面で、アルカラスがここから『ゾーン』に入り始めるのです…。彼の能力の底しれぬ凄みを感じさせ、ドラマチックな試合展開がここから繰り広げられることになるのです。

集中力の極限。無我の境地とも言える状態に入り、更にギアが上がっていくのが手に取るように分かりました。

歴代のグランドスラムチャンピオン達が持っていた、こういう能力。追い込まれたギリギリの場面でプレッシャーを集中力に置き換え、本能のままに黙々と攻撃を続けるその姿。

必死に戦い続けるアルカラスのひたむきな姿に胸を打たれた観客も、応援する声が次第に大きくなり、いつの間にかスコアは4-1でアルカラスのリード。一進一退の攻防の果に、今大会全試合ストレート勝ちで決勝まで進んできたシナーから、初めてセットをもぎ取るのです。

そしてこの試合の本番は――ここからでした。

まさにがっぷり四つ。冒頭でも述べましたが、この二人の対戦でしか観られない物凄いスピードと駆け引き、と、そして最後には目の覚めるようなエースの連続。本当に素晴らしい内容でしたよ!!

シナーは自分のボールのクオリティに自信があるゆえに、実はあまり際どくライン際を狙うことはしません。それが彼の安定した試合展開を支える一因。ジョコビッチに対してさえ、センター近くのサービスラインぐらいに弾むボールをベースにし、勢いだけでで相手を弾き飛ばしてしまう。そして甘いボールが来たら初めてそこでややライン際を狙うのです。

それでもサイドラインから1m以上内側に打って、それでジョコビッチ相手にノータッチエースが取れるぐらいのストローク力がある。GOATと呼ばれるジョコビッチに対してさえ、安全策でストレート勝ちしてしまう…まさに別次元の存在。それがシナー。

でもアルカラスに対しては、その安全策では対抗できないと判断し、他の試合では見られない、厳しいコースを狙ったショットを次々と放っているのです。

シナーが脚を止めてビシッと打ち込んだショットを2発も繰り出せば普段はエースを奪えるのに、アルカラスは物凄いディフェンス力を発揮し、そのエース級のショットをきっちり返球するばかりでなく、少しでも内側に入れば、回り込んで必殺のフォアを待ってましたとばかりに炸裂させる。

そんな展開で第4セットは中盤までキープ合戦だったのですが、4-5で迎えたアルカラスのサービスゲームで、ついにブレイクポイントを握られます。このブレイクポイント=チャンピオンシップポイントです。敗戦まであとたった1点というまさに崖っぷち。しかもトリプルのマッチポイントという状況に追い込まれるのですが…アルカラスはここでも無我の境地に入ったまま、粘るところは粘り、一瞬のスキを突くように僅かなチャンスには思い切った攻撃を迷いなく仕掛ける。なかなか決まらなかったドロップショットも、ここに来て鮮やかに決まるようになり、なんと驚異の5ポイント連取でサービスゲームをキープ!

その勢いのまま、タイブレークにもつれ込んだ第4セットを制し、崖っぷちからの生還。2セットオールに持ち込みました。

そしてファイナルセット。

夜中(というか最早早朝)だというのに、思わず大声を出してしまう自分がいましたよw

もうね…あれを言葉で表現するなんてできない。テニスの魅力が全て詰まっている。必死にボールを追いかけ、ひたむきに粘り、相手のコースを読み合い、攻撃に対するカウンターをさらにカウンターで返し、それをまたカウンターで切り返し合うような極限のラリーは、何度も言うけれどこの二人じゃないとできないものです。

「なぁ、俺達、未来のテニスをしていると思わないか?」

「ああ! 俺もそう思ってたよ!」

数年前の全米の確か4回戦ぐらいで対戦した二人が、試合後に握手しながら交わした言葉ですが、まさにその通り。今までのテニスじゃない。未来のテニスがここにあるのです。その事に感動しながら、恍惚とした気持ちで試合を見続けることしか自分にはできませんでした…。

そしてファイナルセットも6-6。10ポイントのタイブレイクに入りますが、アルカラスがいきなり7ポイントを連取し、試合を締めくくります。

2セットダウンから、ファイナルセットもタイブレイクに入る大接戦の末の、大逆転劇で見事全仏オープン連覇を決めてみせたのです。

シナーの強さは疑いようもなく圧倒的でした。

マッチポイントも3つあった。でも最後にはアルカラスが勝った。

それはフィジカルの持久力の差によるものなのかもしれません。

他の選手相手には露呈しないのですが、アルカラス相手の極限状態のラリーになった時に、体力の余裕はアルカラスの方にあったように思います。

そしてこの逆境からの大逆転優勝したアルカラスは、この2年ほど失いかけていた自信を大いに取り戻し、また一回り大きく成長していくこととなるでしょう。

本当に素晴らしい試合でした。

観ていて幸せを感じるほどの試合は、そうそうあるものではありません。テニスって本当に面白いなぁ…とつくづく感じながら、布団に入った僕でしたw

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