論文紹介 中国が新疆ウイグル自治区で政治思想の再教育を強化した理由とは?
2017年から2018年にかけて、中国共産党は中国西部の新疆ウイグル自治区でウイグル族の住民に対する集団拘束と再教育の措置を講じました。この措置は大規模な強制収容を含むものであったために、欧米諸国から人権抑圧だと問題視される事態に発展しています。
なぜ中国共産党が自国内でこのような強硬な措置を講じたのか、その理由は研究者の間でも議論されているところです。新疆ウイグル自治区で党に対する不平不満が高まっていることや、治安の不安定化が起きていることを指摘する研究者もいますが、最近では国外の要因に目を向ける研究も出てきています。
2020年に学術誌『インターナショナル・セキュリティ』に掲載されたシーナ・チェスナット・グライテンズ(Sheena Chestnut Greitens) ミョンヒ・リー(Myunghee Lee)、エミール・ヤズジ(Emir Yazici)の論文「テロ対策と予防的弾圧(Counterterrorism and Preventive Repression)」では、2015年前後に中国共産党がイスラム過激派を安全保障上の脅威として認識した可能性が指摘されており、それが新疆ウイグル自治区における政策の変更に繋がったと論じられています。
Sheena Chestnut Greitens, Myunghee Lee and Emir Yazici, Counterterrorism and Preventive Repression: China's Changing Strategy in Xinjiang, International Security, Volume 44, Issue 3, Winter 2019/20, p.9-47, doi.org/10.1162/isec_a_00368
この記事では、この論文の内容に沿って、まず中国が新疆ウイグル自治区でどのような治安上の措置を講じているのかを確認し、そのような措置をとるに至った歴史的な経緯を説明するために国際情勢の変化に注目したいと思います。
新疆ウイグル自治区の何が問題になっているのか?
新疆ウイグル自治区は中央アジアで遊牧生活を営んできた歴史を持つウイグル族の民族自治区です。そこに住む人々は中国の国籍を持っていますが、中国語ではなくウイグル語を話す人が多く、またイスラム教を信じるなど、漢族とは異なる独自の文化を育んできました。
2017年までに中国はこの地域の治安維持に相当の資源を集中するようになっていることが分かっており、2007年には54億5000万元だったこの地域の治安関連の予算は2017年までに589億5000万元に膨れ上がりました。
すでに述べた通り、新疆ウイグル自治区における中国の措置は個人の拘束にとどまるものではありません。集団拘束の規模が拡大しており、政治的再教育が大々的、組織的に実施されています。
正確な数値を得ることはできませんが、著者らは新疆ウイグル自治区に建設された政治的再教育を目的とした強制収容施設はおよそ1200か所と推定されていること、民間の推計ではそこに150万人、米国政府の推計では80万人から300万人が収容されているのではないかと見積もられていることを紹介しています。
ちなみに、収容されているのはウイグル族だけではないようです。カザフ族、キルギス族の住民も収容されていると見られています。いずれもイスラム教を信じる中国の少数民族ですあり、また中国の国外に広がるウイグル族のネットワークにも監視の対象を広げていることが注目されます。
中国の強制収容措置に対しては2018年8月に国際連合の反差別委員会が正式に懸念を表明したことで、世界的な関心の高まりが起こりました。米国議会においてもこの問題の公聴会が開かれ、「今日において世界最大規模の少数民族の集団拘束だ」という非難の声も上がり、米国の政界でも注目される問題になりました。
2019年10月に米国議会は中国が新疆ウイグル自治区における弾圧を行っているとの判断に基づき「ウイグル人権法」を制定し、弾圧に関与した中国政府の関係者にビザの制限を課し、弾圧に加担したとされる28社の企業をブラックリストに載せて取引を規制するなどの法的措置をとっています。
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