論文紹介 なぜ台湾問題で米中間の緊張が高まっているのか?
2016年、台湾の総統に蔡英文が就任して以降、中国とアメリカとの間で緊張の度合いは少しずつ高まっており、その傾向は2021年現在も続いています。
かつて中国とアメリカは台湾の現状を維持することが双方にとって有利であるという見方で合意していましたが、今や両国は相手を競合相手として認識するようになっています。中国は台湾を自国の支配下に完全に組み込もうとしており、武力の行使も辞さない構えです。アメリカは軍事的援助を台湾に与えており、中国の軍事行動を抑止しようとしています。このため、両国の軍事的緊張は必然的に高まっているのです。
この問題に関しては『パシフィック・レビュー』に掲載された以下の論文で詳しく分析されています。
著者は台湾問題をめぐる米中関係に抜本的な変化が起きた日として、2016年5月20日を挙げています。この日、新しい台湾の総統に就任した蔡英文が、それまで中国と台湾との友好関係の基礎になってきた92年合意(九二共識)を継承しない立場を表明したのです。これは中国の立場に対して政治的に挑戦する意味合いを持っていました。
蔡英文は中国から直ちに武力攻撃を受ける事態を避けるため、台湾が独立国家であることを宣言することは慎重に避けました。しかし、中国の急激な台頭が台湾の安全保障にとって脅威になっていると考え、勢力均衡の安定を回復するための対外政策、バランシングに積極的に動くようになっています。それまでの中国は非軍事的手段を用いて台湾を平和的に統一することを目指していましたが、2016年以降は政治的、経済的、軍事的手段を用いた強制力で台湾を従わせようとしています。このため、アメリカは中国が地域紛争のリスクを高めており、将来的に軍事的侵攻の可能性もあると判断し、台湾との安全保障協力を強化しようとしています。
ただし、その協力は勢力均衡の安定化にとって十分な水準ではないようです。論文でも指摘されているように、当初アメリカが台湾に与えている軍事的支援の内容は中国の軍事的能力に見合ったものではなく、あまりにも貧弱でした。そのため、最近のアメリカは台湾に対する軍事援助の拡大に乗り出しており、中国が台湾に侵攻したとしても、台湾を見捨てることはないという立場を打ち出しています。
著者はこの緊迫の度合いを高めている情勢をどのように制御すべきかを考える上でトマス・シェリングとトマス・クリステンセンの研究成果が参考になると主張しています。特にクリステンセンの研究は抑止論の研究を台湾の問題に適用したものとして重要です。それによれば、台湾が中国から軍事的な威嚇を伴う強制を受けた場合、アメリカは平和維持のために、まず台湾の防衛のために協力することを保証することが重要ですが、同時にアメリカが台湾に独立を促すことはないと約束して中国を安心させることも必要です。
しかし、この戦略で現状を維持するためには、アメリカが中国に対してある程度の軍事的優位を保持していることが前提となっていました。2000年代以降に中国は海上戦力、航空戦力を継続的に拡充し、台湾海峡の付近にDF-21準中距離弾道ミサイルやDF-26中距離弾道ミサイルの配備を急速に進めています。台湾には中国の脅威に対処できる防衛装備品を生産するための産業的基盤が不足しているため、アメリカは台湾に武器の売却を行っています。中国はアメリカの武器売却に反発しており、台湾に武器を売却したアメリカ企業に経済的制裁を科すとしました。
中国はさらに台湾の周辺での軍事活動を活発にしています。2016年の年末に中国空軍は初めて台湾に対する哨戒活動を行いました。それ以降、中国軍の艦艇や航空機は台湾の周囲で警戒監視や機動演習を繰り返すようになり、2018年には台湾海峡と東シナ海で大規模な機動演習を行い、その強さを見せつけようとしてきました。それに対して2019年、台湾におけるアメリカの実質的大使館である米国在台湾協会(American Institute in Taiwan)は、2005年以降に台湾にアメリカ軍の現役軍人が駐留していることを正式に認めました。台湾にアメリカ軍の兵力が配備されていることは、中国が攻撃した場合に、アメリカが来援する可能性が高いことを意味しています。
このように現状維持の枠組みが崩れてから、台湾で地域紛争が勃発するリスクは高まっています。このリスクを小さくするために選択できる政策はさほど多くはないと著者は見ています。中国は今後も軍事的、経済的、政治的な影響力を拡大させる可能性が高いため、時間が経過するほど勢力関係は台湾にとって不利になっていくでしょう。
著者はアメリカが台湾の不安を解消するために、そのバランシングの取り組みを軍事的に援助するとしても、中国を過度に刺激することがないように、外交的手段で一定の保証を与える配慮も必要ではないかと述べています。同時に中国も武力による台湾の統一という戦略を発動する条件を明確化しておくことが、地域の安定を維持する上で望ましいと主張しています。このような枠組みを構築することが簡単ではないことは明らかですが、可能な限り米中双方が意思疎通を緊密にすることが台湾問題に関する危機管理にとって重要であると著者は強調しています。
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