#105 蠢(うごめき)

今日も今日とてまさおくんを投げ続ける
まあまだ三日しか経ってないけど

夢子さんはさっき用事があるとのことで帰っていった

それでも私たちは黙々と練習を続ける

今日は特にがんばれる理由もあった
そう!久しぶりにほのちゃんが遊びに来てたのだ

このところは練習も試合に向けての内容に変わりより集中しなくてはいけないとの配慮で亀さんはお母さんに預けて参加してくれているのだが都合がつかないとのことでほのちゃんを連れてきてたのだ

久々に会ったほのちゃんはちょっと大きくなった気がする
だから私も成長したんだよってところを見て欲しいのだ(わかってくれるかな?)



練習後は以前同様
ひょこひょこ私のところにお水を持ってきてくれた

「ありがとう、ほのちゃん!」

するとクリクリとした目を輝かせて
「たまちゃん、おにんぎょうなげうのじょーじゅねー」
と、褒めてくれた

「ほんと?!嬉しいぃー」
思わずほのちゃんの髪をわしゃわしゃしながら抱きしめた

「えー!たまちゃんいいなぁー。ねえねえほのちゃん、ウチは?」
イザネちゃんが聞く

「うーん?おかあさんがぺっちゃんこなっちゃった」

「えー!本当ー?嬉し過ぎるんですけどー!!」
イザネちゃんはほのちゃんを抱え上げぐるぐると回転
ほのちゃんもきゃっきゃと喜んでいる

初対面のイザネちゃんももうメロメロで顔がとろけている
ふと「この人ってあの鬼斬イザネなんだよねぇ?」と疑問が湧くくらいだ


ほのちゃんのお陰でちょっと前までの平和な光景が思い出された
だが時間はあらゆるモノを巻き込みながら進んでいる
今はまだ春に目覚めた虫の様に少しずつ
だがきっとここから全ての事象が一気に動き出すのではという楽しみと不安を私は抱えていた




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「ん?イザネちゃんからだ」

特に目的もなくスマホをいじっていたらイザネちゃんからの通知が

「なんだろ?忘れ物かなぁ?」

いますぐ練女の公式の動画開いて!!

「えー、何々、なんかあったのかな?、、、あ!今日、後楽園だっけ?もしかしてちづるさんの引退発表だったりして」
そうだそうだった
そんな話を聞いた覚えがある

「もーイザネちゃんたらぁ。そのことは知ってますよーっと」
それでもまあとにかくイザネちゃんに言われた通りに最新の動画を開く
やっぱり今日の後楽園大会みたいだ


「あ!ちづるさんだ!」

ちづるさんはこの間の道場の時とは違いギュッと束ねたポニーテールに赤と黒を基調としたコスチュームで柔和な笑顔ではなくレスラーとしてのキリッとした顔付きがとてもカッコいい
そして凛とした表情でマイクを持ち真っ直ぐに客席を見ている様子
これはきっと引退発表をした直後なのだろう

「ああ、やっぱちづるさん素敵ーぃ!!」
なんてファンモード全開で呑気に観ていたら急に野獣の様な雄叫びが!!

「なっ!な、な、な、な、、、ち、ち、ち、ちょー待てよ!」

会場は大爆発!!

「サ、サ、サ、SATORIじゃん!SATORI PART Iじゃん!!」
こ、こ、腰が抜けそうになった

カメラがターンして映し出されたのは北側花道からネイビーのピンストライプのスーツを着た、、、

「ゆ、ゆ、夢子さんじゃああぁぁぁぁーん!!」
もう腰は抜けていた

大歓声の中、夢子さんは途中でマイクを受け取りリングに上がる

「ロープ上げてんのUNIじゃーん!!」
妙な嫉妬が湧いてくる


夢子さんはリング中央で立ち止まりゆっくり周りを見渡してから

「練馬女子のファンの皆さん!全世界女子プロレスリング、雨宮夢子です!!」
そう挨拶した

ファンはこの間の道場マッチに夢子さんが参戦しきょろろん選手を武道館大会に参戦決定したことを知っている
またきっと参戦発表があるのではと期待しているはずだ

、、、て、ことは?

「えっ!もしかして私の相手も発表されんのっ?!」

うぉーっ、マジかっ?!
いやいやどうしてどうして
まだわかんないまだわかんない
落ち着けー落ち着け私ー

んほ?!
あれ?
アイツかぁ?

フフッ
やってやんぜーっ!
何か体の芯から漲ってくるのがビンビン伝わる

夢子さんはくるっとちづるさんの方を向いた
そして
「ちづるぅー!久々にアンタの試合を生で観させてもらったよ!ヤバイね、ヤバすぎる。相も変わらずディアブロの二つ名に偽りなしだよ」

夢子さんはニカッと微笑みちづるさんもそれに応える様に怪しく微笑み口を開く

「夢子さん!ありがとうございます!嬉しいですよそう言っていただいて!」

"ありがとうございます"
だがこの間のありがとうございますとは違う挑発を含んだモノだ

練女の裏方のちづるさんではない
これがプロレスラー小鳥遊ちづるなんだ!!

「フッ、まあ今日は世間話をしにきたワケじゃない。こないだの借りを返してもらおうと思ってね」
夢子さんはグッとちづるさんに迫る

「アンタ、確か武道館のリングには立ったことないよね?引退するまでに立ってみたくない?」

ウオオォォォォーーッ!!
という歓声が場内いっぱいに渦巻く

「ほーっ、いいですねぇー。私たちの世代は一度も立ったことないですからね。光栄ですよ」
そう言いながらちづるさんは会場を見渡し歩を進めゆっくりと夢子さんの後ろに立った

「で、アンタ!!誰を用意してくれんだっ!!」
射抜くような眼光でドスを効かせ夢子さんに向かってちづるさんは言い放った

ぶるっ

画面越しからも伝わるプロレスラーの本気の怖さ
私の体が一瞬震えた

「いいねー。久々にアンタと戦いたくて疼いてくるよ、、、でもまあアンタも知っての通り私は私でやらなきゃならないヤツがいるんだよ、、、だから最高の相手を用意したよ」
夢子さんは振り返りちづるさんと目を合わせた

えーっ?!
最高の相手?
誰?誰なのー?

真琉狐さんは出場停止だし、、、
あ!イザネちゃんか!!
鬼斬イザネvs小鳥遊ちづるは確かに観たい!!

そっか!
だからすぐ動画観て欲しかったんだ
かわいいなあイザネちゃん、、、






「たまだ!ウチのたまえがアンタの相手してやるよ!!」



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