見出し画像

国語は何をすれば「授業」になるのか⑨ー「脳内実況」から始めて徐々に自走する読解力を育む

「解説を聞けば納得する。でも、一人では解けない」
そんな生徒の頭の中を変える、究極の「バトンタッチ」の話です。

 読解のブラックボックスをこじ開ける「シンクアラウド」

テストの解説で、教師が「ここに答えが書いてあるよね」と正解だけを提示しても、生徒の力は伸びません。

生徒が知りたいのは、「先生自身がどうやってそこに目をつけたのか?」というプロセスだからです。

この脳内のブラックボックスを可視化する技術が、「シンクアラウド(思考発話)」です。

シンクアラウド(Think-Aloud)とは?
文章を読んでいる最中に、頭に浮かんだ疑問、推測、違和感、解釈の修正などを、すべて「独り言」のように口に出すこと。

・推論の可視化
 「『しかし』があるから、筆者は前の意見を否定したいんだな」

・迷いの実演
 「ここは少し分かりにくいね。一度読み飛ばして、次を確認してみよう」

このように、教師が読みながら無意識に行っている「トラブルシューティング」をすべてさらけ出すのがシンクアラウドの正体です。

これは国語だけに限りません。
たとえば、数学の教師が、計算の途中式を書きながら「この方針は計算が面倒になりそうだから図を描こう」「マイナスが出てきたのは変だな、一行戻ろう」と試行錯誤を見せるのも、立派なシンクアラウドです。

と、ここまで読んで、国語の授業は教師の発問によって生徒を誘導しているように見える、と感じる方もいるかもしれません。
教師の国語力を生徒が自走できる国語力にしていくためにはどうすればよいのでしょうか。

「自立」への設計図

この教師の「脳内実況」を、生徒が自分で行う「自問自答(セルフクエスチョン)」へと昇華させるには、少しずつ主導権を渡していくプロセスが必要です。
教育学ではこれを「責任の漸進ぜんしん的移行(GRR)」と呼びます。

Gradual Release of Responsibility

この図は「最初は先生が全部背負うけれど、少しずつハンドルを生徒に渡していくプロセス」を表しています。

左側の逆三角形(教師の責任)が小さくなっていくのと反比例して、右側の三角形(生徒の責任)が大きくなっています。
これは、学習の主導権が「教える側」から「学ぶ側」へとスムーズに移り変わる理想的な流れを示しています。

この図が示す通り、教師の責任(逆三角形)が減っていくのと入れ替わりで、生徒の責任(正三角形)が増えていきます。

この「バトンタッチ」を、身近な自転車の練習に例えて見ていきましょう。

① 【お手本】大人が漕いで見せる(I do it)

教師が全力で実況し、脳内のバランスの取り方をすべて見せます。生徒は「プロの漕ぎ方」をじっと見てコツを盗む段階です。

② 【伴走】後ろを支えて一緒に走る(We do it)

「先生もここは迷う。みんなならどう思う?」とバトンを渡します。教師という「最強の補助輪」がある状態で、生徒に脳内実況を試させます。これにより、教師も生徒の思考の癖を把握できます。

③ 【見守り】並走しながら声をかける(You do it together)

生徒同士のグループで、お互いに「どう読んでいるか」を実況し合わせます。教師は横を走りながら、転びそうな時だけ「前のページを見てごらん」とヒントを出します。

④ 【自立】一人でどこまでも行く(You do it alone)

最後は教師が手を離します。生徒は、脳内で「自分に問いかける(セルフクエスチョン)」ことで、未知の文章を一人で読み解けるようになります。

評価の対象を「正解」から「問い」へ

心理学者のヴィゴツキーが提唱したように、言葉はまず「他人との対話(外言)」として現れ、それが徐々に「自分自身との対話(内言)」へと取り込まれていきます。

生徒が自立し始めると、「正しい答え」よりも「鋭い疑問(問い)」を口にするようになります。

「あれ、この『それ』って何を指してる?」
「さっきの主張と矛盾してないか?」

その時、「正解!」と褒めるのではなく、「その問いが出てくることがすばらしいね!」と問いを立てたこと自体を評価してあげてください。

教師の「脳内実況」をコピーし、自分のものにした生徒は、一生モノの読解力という武器を手に入れたことになります。

依存から自立へ。

補助輪を外して走り出す瞬間は、すぐそこです。

~つづく~

いいなと思ったら応援しよう!

Takashi@国語の塾講師 よろしければ応援よろしくお願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!