The Japan Business Files, No.1: Why foreign companies stall after entering Japan
The moment you realize something is wrong
契約は締結した。販売パートナーも決まった。製品は揃っている。あとは動くだけ——そのはずだった。
気づくのは、たいてい定例会議の場だ。画面に並ぶ売上の数字が、計画を大きく下回っている。あるいは特定の地域だけが突出して伸びている。なぜそうなっているのか、誰も明確な答えを持っていない。
この会議に、営業現場の担当者はいない。
The gap nobody talks about
多くの海外企業は、日本市場参入の「最初の壁」を規制や言語だと思っている。それは間違いではないが、本当の壁はもっと奥にある。
契約通りに動かない。指示が現場に届かない。パートナー企業の営業担当者が、自社製品に本気を出していない。
これは裏切りでも怠慢でもない。日本の営業現場には、契約書よりも強く行動を規定するものがある。「空気」だ。
How the air moves the numbers
ある海外企業(以下GlobalCo)が、日本の販売パートナーと製品Xの独占販売契約を結んだとする。パートナー企業の営業担当者たちは、製品Xのほかにも複数の自社製品を抱えている。どの製品に力を入れるかは、契約上の義務ではなく、現場の「空気」が決める。
販売パートナーには、営業成績でライバル関係にあるNorth BranchとSouth Branchがあった。North Branch長は日頃から、South Branchに対して強い対抗意識を持っていた。朝礼での一言、営業会議での視線、雑談の端々から、それはメンバー全員に伝わっていた。
North Branch長が製品Xに関心を示せば、メンバーは察する。支店長がそちらに向いているなら、自分たちもそちらに動こう、と。逆に関心を示さなければ、メンバーはその空気を読み、製品Xの拡販には力を入れない。
South Branchがまだ製品Xに本腰を入れていない——それだけで、North Branch長が動く理由になる。GlobalCoとの契約内容や市場の可能性より、ライバル支店への対抗心の方が、現場の行動を動かした。
これが「空気補正」の正体だ。日本の営業現場では、公式の意思決定と実際のアクションの間に、言語化されない動力が存在する。その動力は文書化されず、会議にも登場せず、外部からは見えない。
Why honest answers don't come
「なぜ計画通りに売れていないのか」と日本側に正直に聞いても、本当の答えは返ってこない。
返ってくるのは、消費者動向の話、競合製品の動向、市場全体のトレンドだ。ロジックの通じる説明が丁寧に準備されている。「社内の空気がそうなっていまして」とは、絶対に言わない。言えるはずがない。
これは嘘をついているのではない。本当のことを伝えると関係が壊れると判断しているのだ。日本のビジネスコミュニケーションでは、関係の維持が情報の正確さより優先される場面がある。
海外企業の担当者は、ロジカルな報告を聞きながら、本当の問題に気づけないまま時間を失う。
What actually moves the air
では、どうすれば動くのか。
答えは現場に入ることだ。
GlobalCoの日本責任者を連れて、North BranchとSouth Branchを直接訪問する。支店長と会う。営業メンバーと話す。可能なら食事をともにする。
日本の営業担当者は、海外本社の人間が自分の現場に来ることに弱い。直接会えば、製品への理解が変わる。理解が変われば言動が変わる。言動が変われば支店の空気が変わる。空気が変われば、数字が動き出す。
後から振り返れば、現場訪問が転換点だったとわかる。しかし訪問する前には、なぜそれが必要なのかを論理的に説明することは難しい。「とにかく行く」ことの意味は、行った後にしかわからない。
What you can do next
日本のビジネスで行き詰まっているとき、問題は多くの場合、見えているところにはない。
契約書の外側で、言語化されない形で、組織の空気が現場を動かしている。その構造を理解することが、日本市場で動くための最初の一歩だ。
次回(No.2)では、日本の意思決定が「会議の前」にどこで行われているかを解剖する。
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