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makuragi
最後の食卓|毎週ショートショートnote|ほころびタンシチュー
午後五時、私はキッチンに立った。夫が帰宅するまでには十分な時間がある。フライパンを火にかけ、朝のうちに冷凍から冷蔵へ移しておいた牛タンを切り分ける。
二人分を用意するのも今日で終わり。
話は尽くした。
夫は出ていき、私は残る。
焦げ目がついた牛タンを圧力鍋に移す。炒めた野菜を加え、赤ワインを注いで加圧する。きっちり二十分。
小さなほころびが次第に大きくなった。
家事ひとつにしろ、男と女では根本的な意識のずれがある。
激しいやり取りのすえに夫が折れた。
きみの優しさにあぐらをかいていた。申しわけない。
いいえ、そう簡単に人は変わらない。
ルーを溶かし込む。食材も調味料も二人が食べる量を手が覚えていた。一人分がどのくらいか、イメージがわかない。
あれ以来、夫は変わった。
きみがいちばんいいと思う方へ進もう、と夫は言った。
いのちで感じたら、人は一瞬で変われるのだと。
私はどうする。
ほころびはつくろえばいい。
今夜はつくろいタンシチューだ。
そう思ったら、ほろほろ涙がこぼれた。
玄関ドアが開く音がした。
ただいま。いつもと変わらぬ声が救いだった。
(本文480文字)
#毎週ショートショートnote #狐火バーベキュー #ほころびタンシチュー
裏お題にも挑戦しました。たらはかに(田原にか)さん、いつもありがとうございます。
