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赤いミュージアムの静けさ。

第73回東京藝術大学卒業・修了展2025
大学院 油画技法材料研究室
米山由夏さんの作品「MUSEUMS」


圧倒的な赤い空間。赤とそのグラデーション、そして際立つ白によって構成された米山さんのミュージアム(対象も、色もトーンも違うのだが、油画学部第六研究室の鈴木萌恵子さんの木材の作品をなんとなく思い出す。きっと共通しているのは、米山さんが角フェチといっている、キリッとした角へのこだわりだ)。

赤からはなにか訴えるようなメッセージを感じることが多い。圧倒される力強さというか。威圧感というか。しかし米山さんの赤は静かにそこにある。展示空間が赤い絵で埋め尽くされているにも関わらず、シ〜ンとしている。

赤いセロファンで正答を隠すように、何かが秘匿され、何かが浮き彫りにされている。

なにかの繰り返しであるようでいて、一つとして同じもののない赤の世界。それはどこかとても都会的なものに通ずるような気がした。


以下、米山さんのステートメント全文

美術館・博物館に足を踏み入れた時、心が落ち着くような、はたまた背筋が伸びるような空気に纏われる。 空間としての支配力と美術品による五感の刺激で体の隅々までが研ぎ澄まされる。
今回の展示 「MUSEUMS」 では、美術館を題材にした絵画を多く展示し、展示空間も作品とリンクさせている。美術館は美術品を展示するという機能に加え、建築物としての造形美も持つことに注目している。 広く複雑な空間の作りに光の差し込み、 純粋な建築美、全ての要素が絡み合い飽きることない表情の変化を見せてくれる。 世界各国のあらゆる美術館を多視覚的に取材し制作した絵画たちと、 絵画とリンクする展示空間で私が解釈する 「MUSEUMS」 を展開する。

ーモチーフとフェティシズム
作品に描かれるモチーフは、素材に対するフェティシズムが大きく関係している。 いくつかのオブジェクトの角に対して愛着を持つフェチ(自称:角フェチ) があり、そのフェチが反応したものをモチーフにすることが多い。 角なら無差別で愛着を持つわけではなく、一例としてセミマットで半透明で四角いものが好きだ。 羊羹の断面や、 固形石鹸、 アクリル板、焼く前の切り餅など。 幼少期はお気に入りのヘアゴムに付いていた透明のキューブをずっと撫でていた。 「米山の絵を切ったら羊羹みたいになりそう」が過去最大に高揚した褒め言葉だ。 実際、キャンバスという物体は支持体でありながら、画面内のモチーフの延長でもあるという感覚があり、キャンバス側面の厚みなどに反映されている。 そういったフェティシズムの感覚が美術館の各箇所に反応することも多く、「Museum」というタイトルの作品がシリーズ化した。

ー往来する具象と抽象
モチーフ自体が持つ特性に反応するフェティシズムの感覚に併せ、光と影の状態や、モチーフの明度が一致することによる地と図の同化、図形的な空間、白さと黒さのリズムなどにも同時に焦点を当てている。 描かれる物・空間は全て実際に私が見たものだ。現実に存在する空間で、現実に起きている現象を、いくつかの情報を削ぎ落とし、具象と抽象が往来するような感覚を与えながらキャンバスに記録する。 赤いグラデーションで具象的な空間、 白で突出した形が抽象的に配置され、 図形的に捉えた空間に置き換えられる。 ワントーンで描かれた同じ明度の箇所は、画面上で完全に融合し新しい形が生まれる。 画面内の複数の物空間が形となって絡み合い、ノンフィクションが少しだけ嘘をつく。

ー冷たく無臭の赤
ワントーンで描くからこそできる表現の発端は木炭デッサンだ。 今でも油彩とデッサンは表裏一体であり、 色相ではなく明度で絵を捉え、白の絵の具はほとんど使わない。 当初は古典的なカマイユ技法のように茶褐色のワントーンで描いていたが、次第に赤茶、 最終的には真っ赤に変化した。 昔から黒・白と同じくらい私にとって普遍的な色が赤だったため、 その移り変わりはほとんど無意識に近い。 火や情熱を想起させ熱いイメージのある赤は、 私の中で、 そして私の絵の上で、冷たく無機的な色である。 なんとなく心地いいコントラスト、 図形として綺麗な形。 その表現とビジュアルを支える、多くは語らない無臭の赤。

ー絵とマテリアル
キャンバスは綿と化学繊維の混紡生地を使用している。 長く麻を使用してきたが、 綿化繊混紡には機械的な冷たさを感じ、使用する絵の具も無機顔料の物がメインで、無口な絵とのやり取りがしやすい。 また、 使用している赤のピグメントの屈折率が2.7前後と非常に高く被覆力が高い。 厳密に言えば、 オイルの屈折率との差が大きければ大きいほど被覆力は高く、 オイルは1.5前後で種類による幅は少ないため、ピグメントの屈折率が大きくなるほどその差は大きくなる。 被覆力の高さ故の重厚感あるグラデーショ
ンと、ピグメントとの相性を研究した調合油による透明層が物質的に絵を支えている。これらの要素全てが私の美学であり、具現化されたものが私の絵画表現だ。 空間の隅々にまでに独自の美学が散りばめられた今回の展示は、理屈で演出することのできない、まるで美術館・博物館に足を踏み入れた時のような感覚を持ち合わせている。

2025.01.11 米山由夏


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