VOID_404さんのテーマ あの日の選択
私にとって、忘れられない選択があります。
それは公務員になって、3年目のときに起きたことでした。
私には、年の離れた弟がおりました。
はるつぐ、という名前なのですが……私の本名と同様に難読であり、よく名前を間違われていたという共通点がありました。
そして、私とよく空想の世界について語り合い、そこだけが家の中で唯一の「逃げ場」といっても過言ではありませんでした。
私は、静岡地方法務局というところで働いておりました。
最初に配属されたのは大仁出張所で、次に配属されたのは三島出張所でした。
現在は、どちらの出張所もなくなっております。
当時はまだ、紙の「登記簿」が使われており、入力した文字を特殊な用紙に印字して、ローラーにつけたインクで登記簿に転写する。
大型のコピー機を使って、直接登記簿を印刷する。
それを窓口で、手渡すというような状況でした。
弟は、中学生のころにいじめられておりました。
そのことから不登校になり、高校も少し特殊な学校に通うことになりました。
その当時は、生き生きとしていたことを思い出します。
ですが、高校を経て専門学校に入ったときに、トラブルが発生しました。
あまり生徒の質が良くなくて、授業が聞こえにくいという有様だったようです。
そのため塞ぎ込みがちになってしまい、学校に通うことができなくなっておりました。
そのため一度家に戻る形となり、自宅療養を経ることになりました。
結果、留年してもう一度同じ学年に通うこととなり、そのため、以前とは違う地域で暮らすことになりました。
当時、最新のゲーム機として「PS2」が発売されたころでした。
そして、弟はPS2で遊びたいと思っており、同時に、私も別のゲームをプレイしたいと思っておりました。
そのときに、私はあえてPS2を自分の手元に置き、弟にはノートパソコンを持たせました。
その中に入っていたゲームの一つに、自死を強く否定する内容のものがあり、それをプレイして「思いとどまってもらいたかった」のです。
その選択は、間違っておりました。
三島出張所では毎日、登記簿謄本作成のために走り回り、必死に入力作業を続けておりました。
そのため疲弊しており、弟と電話をすることもなく、ひたすら仕事に打ち込まざるを得ない状況でした。
弟が帰ってきたら、またいろいろな話をしたい。
その思いで、ゴールデンウイークを迎えました。
ゴールデンウイークの前日に、母が妙な顔をしておりました。
そして、明日弟を迎えに行くと言い出したのです。
後から考えれば、母もまだ確証はなかったものの、何らかの事情を察していたのでしょう。
私はそのとき、意味が飲み込めず、のんきな態度で自分のゲームをプレイしていたという記憶があります。
そして、ゴールデンウイークの初日。弟が帰ってくる予定の日。
弟は、もう二度と起き上がることがない状態で、家に帰ってきました。
病院で処方された抗うつ薬の過量服薬により、自死に至ったのです。
その事実を知ったのは、両親が帰ってきてからでした。
まるでただ、眠っているだけのように見える弟。
私が感じたのは「ひげが伸びているから、電動シェーバーでせめてきれいな状態にしたい」という、ずれた思いでした。
現実感は、間違いなくありました。
弟の葬式が行われ、弟の友人が来て、弟のこれまでの人生を振り返る写真が葬儀場に飾られていたことを、私は、はっきりと覚えております。
ですが、私の目からは涙が流れることはありませんでした。
弟は火葬され、二人一組になり、箸で遺骨を骨壺に納めました。
がっしりした体型であったため、遺骨もしっかり残っているな、という記憶があります。
罪悪感を抱いたのは、その後でした。
ゲーム機を見たときに「あいつは、このゲームをやりたかったはずだ」と、後悔に苛まれました。
弟の死そのものは、あまりにも大きすぎて、当時の自分は、感情として受け止めきれませんでした。
それよりも私を苦しめたのは、自分の下した具体的な選択でした。
弟が楽しみにしていたゲームを、プレイさせてあげられなかったことです。
今なお、弟にゲーム機を渡さなかった判断を、後悔しております。
その選択は、誤ったものであったと今でも確信しております。
ゲーム機を渡していれば弟を救えた、と断言することはできません。
それでも、弟が最期に望んでいた楽しみよりも、自分が正しいと考えた判断を優先した。
その選択については、今も間違っていたと思っております。
なお、弟が楽しみにしていたゲームについては、弟のデータを使って最後までプレイしました。
自分なりの「償い」ではあったものの、弟がどう感じているかは分かりません。
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