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92歳、現役


先日、大田区久ヶ原にある
『昭和のくらし博物館』館長の 小泉和子先生に
取材のためお話をうかがいました。

92歳。
そう聞いても、信じがたいのです。
背筋はまっすぐ、言葉は明瞭、眼差しは鋭く、
世の中をきちんと見ている人の目をされていました。

小泉先生は1933年、東京生まれ。
工学博士で、元京都女子大学教授。
文化審議会文化財分科会の委員も務め、
自らの住まいを
「昭和のくらし博物館」として、運営されています。

昨年は、
文藝春秋の創業者・菊池寛の功績を記念し、
文化・映画・出版などの分野で創造的な功績を挙げた人に贈られる
『第73回菊池寛賞(2025年)』を受賞されました。
受賞者には、映画『国宝』製作チーム、作家の宮本輝さん、数学者の藤原正彦さん、河北新報の横山勲記者、
そして「小泉和子と昭和のくらし博物館」。
すごい!
92歳での受賞!あらためて驚かされました。

この博物館の建物は、
国の公庫を利用して建てられた
日本初の住宅のひとつなのだそうです。
展示のために再現された空間ではなく、
実際に暮らしてきた家そのものが、
今も博物館として開かれています。

小泉先生は1933年、東京生まれ。
工学博士で、元京都女子大学教授。
文化審議会文化財分科会の委員も務め、
自らの住まいをそのまま開いた
「昭和のくらし博物館」を運営されています。

一昨年末、小泉先生は
『仕舞う』という本を上梓されました。
山陰地方、石見銀山にほど近い旧家。
裕福な家に、まるでタイムカプセルのように残されていた食器や家具調度、衣類。
丁寧に、静かに、仕舞われていました。

小泉先生はその修復作業をプロデュースされ、
あまりにも美しい仕舞い方に心を打たれ、
一冊の本として世に残されたのです。

本の第一部「わたしの仕舞い方」では、
現代を生きる女性たちの暮らしが紹介されています。
「タカコさん、食べものの仕舞い方を書いてみない?」
と、小泉先生から声をかけていただきました。野菜の仕舞い方、ベジブロス、乾物の保存。
尊敬する小泉先生の著書に関わらせていただくことは、光栄すぎる経験で、原稿を書く手がずっと震えました。

小泉先生は、『昭和のくらし博物館』について
「昭和の暮らしを懐かしむために残しているのではない」と話されていました。
残したかったのは、
時代やモノだけではなく、『知恵』だったのだと思います。
日本人の暮らしの知恵が、
博物館のあちこちに、新鮮な形で息づいています。取材の中では、
気候変動や環境の話にも触れられました。
便利になったスーパー。
でも、野菜も、魚も、肉も、
すべてがプラスチックに包まれている。
この暮らしを、ずっと続けていくのはもう、限界だと、先生は厳しい眼差しで語られました。「クーラーを使うな、ではないのよ」
「少し工夫しよう、という気持ちが大切なの」一人ひとりの暮らし方が、ほんの少し変わるだけで、
社会は変わる。
日本は変わる。
世界は変わる。
商店街が息を吹き返すことも、
心から願っていると話されました。

先生は、戦争を経験されています。
だからこそ、
平和がどれほど尊く、
二度と繰り返してはいけないものかを、
次の世代に伝えたいのだと。

世の中の動きにも、
しっかりと目を向け、
92歳という年齢でなお、
自分の考えを言葉にして伝え続ける姿に、
私は言葉がありませんでした。

取材の終わりに、
私は思わず
「先生、これから何か、やりたいことはありますか?」
少し間をおいて、先生は言われました。
「そうねぇ、、、、
日本の『椅子』について、研究したいわね」日本人は、いつから椅子に座り、
いつまで地べたに座っていたのか。
椅子が日本に入ってきたと思われる大化の改新の頃までさかのぼり、椅子と暮らしの歴史を、
楽しそうに語り始められました。

――92歳で、
まだ「研究したいこと」がある。
その事実に、
私はただ、圧倒されました。
暮らしを記録する。
知恵を残す。
次の世代に手渡す。

小泉和子先生は、
それを今も、
現役で続けておられます。

この日、私はまたひとつ、
「どう生きたいか」ということを、もっと真面目に考えろと言う宿題を先生から
手渡された気がしました。






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