見出し画像

【パーソナリティ】歴史ある特性測定尺度であるビッグ・ファイブを簡単に調査できる指標とは?(小塩他, 2012)

パーソナリティ研究は、主に心理学の領域で扱われますが、経営学においても、リーダーシップや他の概念の先行要因として使われる「近接領域」と言えます。というわけで、今回もパーソナリティ研究を掘り下げます。

小塩真司, & 阿部晋吾. (2012). 日本語版 Ten Item Personality Inventory (TIPI-J) 作成の試み. パーソナリティ研究, 21(1), 40-52.


どんな論文?

この論文は、ビッグ・ファイブと呼ばれる5つの因子を測定する尺度の、短縮版であるTen Item Personality Inventory(TIPI)の日本語版を作成し,信頼性と妥当性を検討したものです。

※今回は、ビッグファイブの各因子に関する紹介は割愛します。興味のある方は、過去の投稿をご覧ください。

この研究では、尺度の信頼性・妥当性検証のために、計902名(男性376名,女性526名)を対象とした複数の調査が実施され、各下位尺度(5因子)の信頼性も十分な値が示されています。

(誠実性/勤勉性の項目だけは、若干信頼度が低かったようですが、各因子がそれぞれ違うものを見ている、という結果は得られています。)

パーソナリティ特性を代表する「ビッグファイブ」

著者曰く、「近年のパーソナリティ特性論において,もっとも確固たる知見を積み重ねているのは,ビッグファイブ(Goldberg, 1990, 1992)やFive
Factor Model(5 因子モデル;McCrae & Costa, 1987)である。」
とのこと。

また、日本において海外と同様のビッグファイブ構造が確認されることも報告されており、パーソナリティ特性を代表する尺度と言えそうです。

元々、ビッグファイブは60項目で測定されていました。そんな中、Gosling, Rentfrow, & Swann (2003)は,ビッグファイブ の5 特性をなんと、たったの10 項目で測定するTen Item Personality Inventory(TIPI)を作成したのです。

Gosling et al.(2003)は,ビッグファイブの尺度や、語彙研究と呼ばれる、形容詞を調べていくことで見出した「形容詞ビッグファイブ尺度」から,次の5 つの基準に従って項目を選択し、60→10のスリム化を実現しています。

  1. Big Fiveの下位因子を参考にしながら幅広い意味範囲をカバーする

  2. Big Five の各側面を表現する正方向と逆方向の項目を含む

  3. 極端な回答(天井効果や床効果)を導く項目を含まない

  4. 単純に逆の意味を示す項目を避ける

  5. 冗長な表現を避ける

Gosling et al.(2003)は、始め、5因子をそれぞれ1つずつ、つまり5項目で測定する尺度も作っています。それと、10項目であるTIPIを定量的に比較分析し、TIPIの方が優れていることを明らかにしました。

TIPIはその後、社会心理学、政治心理学、労働経済学といった、様々な学問領域で広まっていき、海外でも次々と翻訳がなされていきます。
そんな中、小塩教授らが日本における短縮版のニーズをくみ取り、日本語版作成に着手した、という流れです。

調査・分析の結果、海外の研究と比較しても,十分な信頼性が示されるとともに、これまでの既存研究におけるのビッグファイブ尺度の5つの因子と、共通した要素を測定できていました
つまり、短縮版でも、ビッグファイブ特性が測定できる、と言えそうです。


なぜ、日本版TIPI(TIPI-J)を開発したのか

一般的に心理測定の観点からは,多くの項目で測定される尺度に比べ,少数の項目による測定は問題視されることがあるようです。

一方、調査上の制約から、多数の項目を使用することが困難な研究場面において,一定の信頼性と妥当性が確保された簡便な測度が必要とされることは多いとのこと(Gosling et al., 2003)。

たとえば,インターネットを介した調査や疫学的な大規模調査など,項目数の制約が大きい場合が考えられます(長いと途中で離脱してしまう)。
また,複数の対象に繰り返し測定を行う場合にも,回答者の負担低減が必要です。

昨今では、企業において、社員があまりにたくさんのサーベイに回答しなくてはならず、「サーベイ疲れ」が起きているようです。こうした中、簡潔で、TIPI はビッグファイブの各側面を効率的に測定するひとつの有効なツールになりうると考えられます。

実際、60問を必要とするところ、10問でよいとなると、これは便利ですね・・・!


他の日本版尺度開発研究

調べていると、興味深い事実が発見されました。なんと、ほぼ同時期に、別の学会誌より、「ビッグファイブ短縮版尺度」に関する論文が出されています。

並川努, 谷伊織, 脇田貴文, 熊谷龍一, 中根愛, & 野口裕之. (2012). Big Five 尺度短縮版の開発と信頼性と妥当性の検討. 心理学研究, 83(2), 91-99.

ただし、こちらは、TIPIの日本語版ではなく、元の60項目の短縮版を開発した研究になります。最終的に、29項目の設問による日本語版ビッグファイブ尺度短縮版が開発されました。

2023年9月9日現在で、Google Scholarにおいて77件の引用数と言うことは、日本語論文においては、そこそこ活用されている尺度だと想像されます。(日本語論文で、50を超える引用数はあまり見当たりません。)

他方、上述で説明してきたTIPI-J開発論文は、引用数が139。こちらの方が影響力の大きさを感じさせます。


感じたこと

ビッグファイブというパーソナリティ特性を測定する10項目と29項目、それぞれが同時期に開発されたことや、両方とも引用数が一定数見られるのは興味深いです。

ビッグファイブを1つの因子として、他の因子との相関や影響関係を見るような研究であればTIPI-J、下位次元である5つの要素と、他の因子との関係性を精緻に見ようとするなら短縮版29項目、といった使い分けは出来そうです。

一方、特性診断テストのような、診断ツールとして活用するなら、元の60設問が使われる気がします。(調べてはいませんが・・・)

心理学を代表するパーソナリティ特性尺度だからこそ、さまざまな尺度開発がなされているのだと、改めて勉強になります。

こうした特性も多様性の1つだとすると、特性の多様性によるインクルージョンの違い、なども、今後は研究対象になるのかもしれません。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集