そのうちの寿命
「そのうちやる」——この行為で、あなたは今日も一つ、命を見送った。
「そのうち」は生き物だ。
生まれて、育って、そして大抵は、誰にも看取られずに死ぬ。
平均寿命は内容によるが早くて3日と17時間。——これは独自に算出した数字だ。
あなたの中にも今、末期の「そのうち」がいくつか転がっているはずだ。
断捨離、筋トレ、YouTubeの後で見る~など。
「そのうち」という生物の基礎知識
「そのうち」は作った瞬間に老化が始まる
「そのうち」を作る。その瞬間、時計の針は動き出す——止まらない。老化である。
不思議なことに、「そのうち」は生まれた瞬間が一番元気だ。
決意という名の栄養をたっぷり浴びて、キラキラしている。
だが翌朝には、もうその輝きの8割が失われている。
「いつか」との違い——似ているようで別種
「そのうち」と「いつか」は、コンビニのおにぎりで言えば鮭とツナマヨくらい違う。似たパッケージで、中身はまったく別物。
「いつか」は最初から死んでいる。
棚に並んだ瞬間、賞味期限が「未定」と書かれている。誰も本気で期待していない。
一方「そのうち」は違う。
葬式もない。命日もわからない。気づいたときにはもう、いつ死んだのかすら思い出せない。一番静かに消える。それが「そのうち」だ。
「そのうち」死因ランキング
現場を長年観察してきた結果、死因は概ね三つに収束する。
第3位:スワイプ死
そのうちやろうと思ってスマホのリマインダーを設定した瞬間、なぜか安心してしまう現象がある。
設定した時点で、脳内では「もう終わったこと」として処理される——
タチが悪い。通知はやがて鳴る。だが3秒でスワイプされ、静かに息を引き取る。
第2位:世代交代死
新しい「そのうち」が生まれると、古い「そのうち」は自動的に殺される。これは弱肉強食ではない。ただの記憶容量の問題だ。
無限に収納できる箱なんてない。新しい服を突っ込めば、奥の服は自然と圧縮される——そして存在ごと忘れられる。
古い「そのうち」を殺したのは、あなたの怠慢ではない。
ただ、新しい「そのうち」の方が、可愛かっただけだ。
第1位:風化死
「そのうちやる」——3ヶ月放置すると、ラベルが「今更やる」に変わる。中身は同じだ。だが、あなたの中では別物として処理される。
殺したのは締切でも、上書きでもない。時間そのものだ。
ただ日数が経っただけで、「そのうち」は勝手に腐って死ぬ。
そして厄介なのは、腐った「そのうち」ほど、なぜか成仏させにくいということだ。「今さらやるのも変だ」という謎のプライドが、死体をいつまでも押し入れに置かせる。
誰も手を下していないのに、気づいたら死んでいる——一番静かで、一番残酷な死に方だ。
あなたの「そのうち」も、このどれかで死んでいるはずだ。思い当たるものがあるなら、それは正常である。むしろ、ないと言う人間の方を疑ったほうがいい。
「そのうち」の死は、防げる。防ぐ方法は、驚くほど単純だ。
結論から言う。「そのうち」の治療法は、実は一つしかない。
今すぐやるか、今すぐ忘れるか。
二つに一つ。中間はない
中間だと思っていたものの正体は、大抵「先延ばし」という名の腐敗
判断基準は一つでいい。「今すぐやれるか」
やれるなら、今すぐしたほうがいい。やれないなら、忘れる。忘れると決めた瞬間、それはもう「そのうち」ではなくなる。ただの、過去の話になる。
「そのうち」は、悪いやつではない。
むしろ、あなたが本気で何かを望んだ証拠だ。証拠は、放っておくと風化する。それだけの話だ。
明日には新しい「そのうち」がまた一つ生まれている。それでいい。
