世界の億万長者たちは今、何を考えているのか?──UBS「ビリオネア・アンビションズ・レポート2025」を徹底解読
はじめに──富の世界で今、何が起きているのか
毎年発表されるUBSの「ビリオネア・アンビションズ・レポート」は、世界の超富裕層たちの動向を追いかける、もっとも信頼性の高いレポートのひとつです。2025年版では「新世代の台頭(The rise of a new generation)」というテーマを掲げ、かつてないスピードで変化する富の世界を詳細に描き出しています。
87人の億万長者クライアントへの直接調査、さらにはUBS/PwCが1995年から積み上げてきたビリオネア・データベースをもとに構築されたこのレポートは、単なる資産ランキングではありません。「誰が富を生み出しているのか」「どこに投資しようとしているのか」「子どもたちにどんな未来を望んでいるのか」──そういった人間くさい問いに、データで答えようとする、とてもユニークな報告書なのです。
本記事では、このレポートのエッセンスを徹底的に深掘りし、私たちの社会や経済にとって何を意味するのかを考えてみます。
第一章:「ビリオネア」の数と富が、また過去最高を更新した
2025年(調査期間は2024年4月〜2025年4月)の時点で、世界のビリオネア(資産10億ドル以上の富裕層)の数はついに約3,000人(正確には2,919人)に達しました。前年の2,682人から約8.8%の増加です。
そして彼らの総資産は、なんと15.8兆ドル(約2,300兆円)。前年比13%増という、2021年以来最大規模の富の膨張です。
この数字をどう読むか。単純に「格差が広がっている」という見方もありますが、このレポートが面白いのは、その「富がどうやって生まれたか」を丁寧に分解しているところです。
自力で億万長者になった人が196人
2025年に初めてビリオネアの仲間入りを果たした自力組(self-made)は196人。これは2021年の360人に次ぐ過去2番目の多さです。ただし、2021年の急増がコロナ禍の金融緩和による資産価格の急騰だったのに対し、2025年のそれは「幅広いビジネスの創造」によるものだという点が、本質的に異なります。
マーケティングソフトウェア、遺伝子工学、ファストフードチェーン、インフラ投資、LNG(液化天然ガス)輸出……。新たなビリオネアが生まれた業種は驚くほど多様で、「テクノロジーだけが富を生む時代」という固定観念を軽やかに打ち破っています。
地域別に見ると、アメリカ大陸で92人(うち87人が米国在住、総資産1,799億ドル)が首位。アジア太平洋が61人(1,244億ドル)で続き、EMEA(ヨーロッパ・中東・アフリカ)は43人(822億ドル)と出遅れました。西欧のイノベーション力への懸念がデータに反映された形です。
注目すべき個人を見ると、中国では「蜜雪氷城(ミックスアイスクリーム&ティー)」の張兄弟が2025年3月の香港IPOでビリオネア入り。暗号資産のJustin Sun(TRONブロックチェーン創設者)も、デジタル資産の価値上昇の恩恵を受けています。米国ではColossal Biosciences(ゲノム・生命科学企業)のBen Lamm、インフラ投資会社StonepeakのMichael Dorrell、そしてLNG輸出会社Venture GlobalのBob PenderとMike Sabelなど、「地味だけど着実な産業」でビリオネアが生まれているのが印象的です。
第二章:過去最大規模の「富の世代間移転」が始まっている
もうひとつの大きなテーマが、「富の相続」です。
2025年に相続によってビリオネアになった人は91人。その総額はなんと2,978億ドル(約43兆円)。前年の2,189億ドルから実に36%増という急増ぶりで、レポート史上最大の相続額を記録しました。
ちなみに10年前の2016年レポートでは、相続によってビリオネアになった人はわずか21人、総額も834億ドルにすぎませんでした。それが今や3倍以上の規模になっているわけで、「大富豪の世代交代」がいかに急加速しているかがわかります。
ドイツ製薬一族が欧州相続の象徴
相続の震源地として際立っているのが西欧です。48人の西欧人が1,495億ドルを相続したのに対し、北米は18人で865億ドルと、実に1.7倍もの差があります。
特に注目されているのがドイツの2大製薬一族。15人のファミリーメンバーが相続人となり、その年齢は最年少19歳、最年長94歳という幅広さです。ドイツを含む西欧では製薬・化学・製造業を中心に、何世代にもわたって培われた富が今まさに次世代へと流れ始めています。
今後15年で5.9兆ドルが子どもたちへ
レポートは将来の予測も提示しています。現在70歳以上のビリオネアが保有する資産は約6.9兆ドル。そのうち子どもを持つ890人が保有する5.9兆ドルが、今後15年以内に子世代(直接あるいは配偶者を経由して)に移転する見込みだというのです。
地域別に見ると:
北米:2兆8,444億ドル(うち米国が2兆7,799億ドル)
西欧:1兆3,002億ドル(フランス・ドイツ・スイス・英国・スペインが中心)
南・東アジア:7,646億ドル(インドが3,824億ドルで首位)
大中華圏:4,070億ドル(香港1,804億ドル、中国本土1,353億ドル)
中東・アフリカ:1,527億ドル
米国の圧倒的な規模は、ビリオネア人口の約3分の1が集中していることが背景です。インドが多い理由は「70歳以上のビリオネアが多く、子どもがいる人が多い」という人口統計的特性。対して中国は全体的に若く家族構成も小さいため、相続総額では想定より少なくなっています。
第三章:ビリオネアたちは「子どもに何を望んでいるのか」
富の移転が加速する中で、ビリオネア自身は子どもたちにどんな未来を望んでいるのでしょうか。
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