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ROIC>WACC:ビジネスマンとしての「自分の価値」を、財務の式で測ってみた

忙しいのに、なぜかすり減っていく

がむしゃらに働いている。成果も出しているつもりだ。それなのに、なぜか手ごたえが薄い。忙しさの割に、自分が積み上がっている実感がない――そんな感覚を持ったことはないだろうか。

僕はある日、M&Aや企業価値評価で使う「ROIC>WACC」という財務のフレームを、そのまま自分自身に当てはめてみて、この違和感の正体がストンと腑に落ちた。今日はその話を書いてみたい。

そもそも ROIC と WACC って何か

難しく聞こえるが、言っていることはシンプルだ。

WACC(加重平均資本コスト) は、会社が事業を回すために集めたお金の「調達コスト」の平均。会社はお金を株主(株式)と銀行・債権者(借入)の両方から集めていて、その両方にかかるコストを、比率で加重平均したものがWACCだ。ざっくり言えば「この事業を回すのに、最低これだけのリターンを出さないと割に合わない」というハードルの高さを表す。

ROIC(投下資本利益率) は、その投下されたお金から実際にどれだけのリターンを生み出せたか。

そして企業価値の世界では、この2つの大小関係が決定的に重要になる。

ROIC > WACC なら、その会社は価値を生んでいる。 ROIC < WACC なら、動くほど価値を毀損している。

調達コスト以上のリターンを出せて初めて、事業は「割に合っている」と言える。逆にコストを下回っていたら、どれだけ売上が大きくても、回せば回すほど価値がすり減っていく。近年、東証が「資本コストや株価を意識した経営を」と上場企業に求めているのも、まさにこの一点――コストを上回るリターンを出せているか、を問うている。

これを「自分株式会社」に置き換える

ここからが本題だ。あなた一人を、一つの事業体――「自分株式会社」だと考えてみてほしい。

あなたにも「投下されている資本」がある。それも2種類だ。

ひとつは 自己資本(エクイティ)。自分自身が投じている時間・体力・情熱・キャリアへの本気度。株主はあなた自身で、返済義務はない。ただ、期待に応えられなかったとき、一番苦しむのも株主であるあなた自身だ。夢や理想が大きい人ほど、この自己資本コスト――「自分の人生にこれだけのリターンを期待している」という要求水準は高くなる。

もうひとつは 負債(デット)。上司・会社・家族・チームから預かっている信頼、期待、締め切り、コミットメント。これは「返さなきゃいけない」性質のものだ。ただし借金に節税効果があるように、他人の期待や助けは、うまく使えば自分の力を効率的にレバレッジしてくれる。人にちゃんと頼れる人ほど、この負債を安く上手に活用できる。

この2つを合わせた「自分を稼働させ続けるコストの平均」が、あなたの WACC だ。周囲の期待と、自分の理想。その両方を背負って走るための、いわば人生のハードルレートである。

そして問われるのは、たったひとつ

あなたが日々生み出している価値(ROIC)は、あなたを動かしているコスト(WACC)を、上回っているか。

これがすべてだ。

ROIC > WACC の状態にある人は、動くほど価値を積み上げている。周囲の期待も、自分に課した理想も、それを上回るアウトプットでちゃんと返せている。だから忙しくても、手ごたえがある。自分が伸びている感覚がある。

一方 ROIC < WACC だと、頑張っているのに調達コストを回収できていない。背負ったものの重さに、生み出す価値が追いついていない。これが、冒頭の「忙しいのにすり減る」の正体だった。燃え尽きに近い状態は、たいていこの不等号が逆転している。

大事なのは、ここで問われているのが「どれだけ稼いだか」「どれだけ成果が大きいか」ではない、という点だ。投じられている資本に対して、割に合っているか。 絶対量ではなく、コストとの比較。これがWACCの発想の核心であり、自分の価値を測るうえでも一番効く視点だと思う。

不等号を逆転させる、2つの打ち手

では ROIC < WACC になってしまったとき、どうするか。財務がWACCを下げるのと、まったく同じ方法が2つある。

ひとつは、負債を上手に使うこと。 人に頼り、信頼をレバレッジして、自分一人で全部を抱え込まない。負債コストは、実は自己資本コストより「安い」。他人の力を借りることは、財務的にはむしろ賢い資本政策なのだ。全部を自分のエクイティで背負おうとするほど、あなたのWACCは高くなる。

もうひとつは、βを下げること。 βとは市場の変動への感応度――環境や周囲の風向きにどれだけ振り回されるか、だ。他人の評価や短期の景気に一喜一憂して自分の期待リターンが乱高下している人は、βが高く、WACCも高くつく。ブレない軸を持つことは、精神論ではなく、自分の資本コストを下げる合理的な経営判断でもある。

そしてもちろん、ROIC側――生み出す価値そのものを上げていく王道もある。だが僕がこのフレームで一番好きなのは、「もっと頑張れ」だけが答えではない、と教えてくれるところだ。背負うものを整理し、ブレを減らすだけでも、不等号はひっくり返る。

おわりに

ROIC>WACC。無味乾燥な財務の式に見えて、これは「どれだけのものを背負って、それに見合うだけ返せているか」を測る、驚くほど人間的な物差しだった。

今日のあなたのROICは、WACCを上回っているだろうか。もし手ごたえが薄いなら、生み出す量が足りないのか、それとも背負いすぎて――あるいはブレすぎて――コストが高くなりすぎているのか。一度、自分株式会社の決算をしてみてもいいかもしれない。

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