毎週ショートショートnote『ときめきトゥーシューズ』
トゥーシューズをかがっていた時、ぽきんと針が二つに折れた。彼女にとって、それは初めてのことではなかったのだが、その感触と音は突然映画のスクリーンが真っ暗になったような衝撃と喪失感を与えた。たった一人のリビング。時計の針は夜の十一時を回っている。残り少ない赤ワインのボトル。手には穴を空けた新品のトゥーシューズがあって、机の下には苦難の刻まれた足が投げ出されている。それらを眺める彼女の目は冷え切っていた。ベランダに広がる夜景は変わらず綺麗でも、明かりの灯った窓を一つに絞って見てみれば、そこには自分自身がいることを彼女は知っている。バレエだけに打ち込んできた日々。いくつも履き潰してきたトゥーシューズ。いつまでも飛べない自分と背中に押し寄せる新たな風――。
彼女は居ても立っても居られずに立ち上がって、ベッドの下にしまっていた箱を寝室から持ち出した。ボトルを退けた机の上で静かにフタを開ければ、中には今のものよりも少しだけ小さいトゥーシューズが入っている。あの頃のときめきはもうないけれど、彼女は裁縫箱から新しい針を手に取って、湿気たマッチに火を灯すみたいにかがり縫いを再開した。
終わり(488字)
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夢は時に呪いになるのでしょうか。
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