「私たちは、もっと語っていい」──五感で伝えられる?音楽×生理×薬膳
普段の50倍再生されたリールから感じた違和感と喜び
台湾で先月末からかなり話題の女性歌手、シリ・リー(李竺芯)さんをご存じでしょうか?おそらく、日本ではまだほとんど知られていないはずです。
先月6月28日、台北アリーナで行われた台湾の音楽賞「第36回ゴールデン・メロディー・アワード」(金曲奨)で、彼女のアルバム「Sui 水」が年間アルバム賞、台湾語アルバム賞、台湾語女性歌手賞の、最多3部門を受賞しました。
メインストリームではなかった彼女が、台湾で最も名誉ある音楽賞を急に総ナメにしたので、国内でもSNSなどで大きな話題になっているのです。
早速アルバムを聴き、私も一気に魅了されてしまいました。
彼女は台湾で「新女性」(New Woman)と呼ばれています。
その理由は、
・社会からの「女性らしさ」への押し付けへの違和感
・見た目にとらわれない本当の美しさ
・生理やホルモンによる揺らぎや感情の揺れ
といったテーマで「リアルな女性像」を
既成概念から自由な表現で伝えているから。
しかもそれを、「台湾語」で歌っている、という点が大きなポイントです。
「荷爾蒙」(ホルモン)という曲
私がまず興味が湧いたのが
月経前症候群(PMS)をテーマにした『荷爾蒙(ホルモン)』という曲。
公式YouTubeの台湾語+中国語訳の映像を見て、意味が知りたくて日本語に翻訳したので、短いリールにして、個人のInstagramに投稿してみたのが、「金曲奨」発表の2日後。
歌詞全部の翻訳はこちら
荷爾蒙 Hormon
早起きして 鏡を見ても気が乗らない
午後になると 目の下に涙袋とクマ
これは誰がコントロールしてるの誰がコントロールしてるの 機嫌が豹変
感情と体が まるで他人みたい
急に晴れ、急な雨
突然風が吹いたり雷が鳴ったり
急に暑くなったり、寒くなったり
体も心もついていけない
嫉妬イライラ ホルモンのせい
楽しい嬉しい、ホルモンのせい
浮き沈み、ホルモンのせい
ああ… 魅惑の悩み
朝起きて外出 化粧しなくてもスターみたいよ
どうして午後は憂鬱になる ただ部屋に閉じこもっていたい
これは誰がコントロールしてるの誰がコントロールしてるの 機嫌が豹変
感情と体が まるで他人みたい
嫉妬イライラ ホルモンのせい
楽しい嬉しい、ホルモンのせい
浮き沈み、ホルモンのせい
ああ… 魅惑の悩み
ホルモン、ホルモン…
ホルモン、ホルモン…
ホルモン、ホルモン…
ホルモン、ホルモン…
魅惑の悩み
すると数時間後、シリ・リー(李竺芯)さんご本人がストーリーズでリポストしてくださるという奇跡が。
すると、再生数が一気に伸び、台湾人の方々からのいいね❤️が止まらない状況に。今まで私のインスタアカウントでは見たことがない、再生数の伸びといいねの数を目にしました。
1日なんだか落ち着かずソワソワしていたのですが、
日本語に訳したにも関わらず、日本人からの反応はすごく少ない(むしろいつもより全然ない)、という状況でした。
「日本に伝えたい」という自分の意図と違ったので、これってなぜだろう??とその夜考え始めたら、止まらなくなってしまったのです。
なぜ日本では届かない? 台湾語と“文脈”の壁
まず、シリ・リー(李竺芯)さんは、「台湾語」で歌っている、ということの意味を説明する必要があるでしょう。
台湾では、北京語(Mandarin)が公用語とされています。
一方、「台湾語」は福建省ルーツの閩南語が独自に発展したもの。
台湾語は、主に台湾中南部、高齢層の間で広く使われており、6歳以上の台湾人口2178.6万人のうち、台湾語を主な言語として話す率は31.7%、第2言語としている人は54.3%になる。高齢層に行くほど主要言語として台湾語を話す人が多く(65.9%)、若い人ほど主要言語が台湾華語(北京語)、第2言語が台湾語になる。
https://www.stat.gov.tw/public/Attachment/1112143117MKFOK1MR.pdf
提要分析(台湾行政院)
今でも、台湾の南の方に行くと台湾語しか通じなかったり、北京語はほとんど話さない人も多くいらっしゃいます。現在の中華民国になる前、さらに日本統治時代より以前からの「台湾ローカルの言語」が台湾語。
だから昔ながらの音楽番組やバラエティ番組では、高年齢層の方向けの台湾語の歌が歌われていることも多いのです。(ちなみに日本の演歌も馴染みが深いです。)
つまり台湾語は、台湾の文化やアイデンティティを象徴する言語と言えるでしょう。
ここでシリ・リーさんの話に戻ります。
今回、台湾語の音楽に革命を起こしたと言われるのが、シリ・リーさんなのです。
台湾のローカル言語「台湾語」と「フランス語」で似ている言葉があることに目をつけ、台湾語とフランス語を融合させた曲を作り、「フランス語講座」として台湾語の歌詞を解説する面白い動画を投稿されていたり。
ちょっと聞くと全部フランス語で歌っているように聞こえるのが、実は全て「台湾語」で歌っている、というすごく面白くてクリエイティブな曲なのです。
さらに、台湾語で歌う「台湾の娘」という曲。
台灣查某囝 Taiwan Gal *「查某囝」は台湾語で「娘」
『台灣查某囝(Taiwan Gal)』では、台湾語で「私は台湾の娘」と歌っています。地元や海外に暮らす多様な台湾人女性が登場するMVをぜひ見てみてほしいです。
私個人は、胸にぐっと、言葉で表せない熱い想いが湧き上がりました。
台湾という国の世界の中での立ち位置、歴史などを少しでも知っていると、この歌詞が単なる「台湾の娘ーGaiwan Gal」という”表面上の言葉以上”の意味を持つー台湾アイデンティティが込められていることに気づくのではないでしょうか。
台湾と日本の違いを感じた瞬間
台湾アイデンティティ
女性のリアル・・・
こういったメッセージを「歌」で発信すること。
このような「表現」が、社会に受け入れられ、音楽賞で評価される台湾。
“女性のリアル”を表現することを、ちゃんとそのまま認める空気。
私は、それがすごいと思ったんです。
ダイナミックに変化していっている社会の空気の中で、自分自身で自分の権利を選び取っていっている雰囲気。
一方で、日本ではこの音楽が台湾で評価された背景の文脈である
台湾語はローカル言語、台湾華語(北京語)が公用語
台湾語歌手は日本でいう演歌歌手の様なイメージだったが、今回は若手のアーティストが受賞した
生理やPMSのような身体の揺らぎを“歌で語る”ということが受容される社会的雰囲気
ということについて、知識も馴染みもないし、
ピンとこないのも当たり前だったのです。
でも、そのことに気づけたことが、私にとっては大きな収穫でした。
私自身の本質に触れた体験
歌詞の翻訳を投稿するなんて、ToDoでも仕事でもなく、ともすれば今の私にとっては無駄な作業。
でもその作業をしている間はすごく楽しくて、ああ、こういうことがやりたいんだな自分は・・・という感覚がありました。
時間を忘れて、没頭して、魂が喜んでいるような感覚。
きっとそれは、女性の声なき声を「五感で届ける」という、 私の本質的なやりたいことに触れた時間だったのかもしれません。
私は食(薬膳)を通じて女性のケアを届ける道の途上ですが、
「食」だけでなく、音楽や香り、映像、空間……全身の感覚で感じられる場があっていいし、必要なのかもしれない・・・
そんな気づきがありました。
ジャンルを超えて”つなぐ”こと、“橋渡し”をすることに、私は喜びを感じるんだな、と気づいたのです。
「知識」だけでなく、全身感覚、五感で感じること。
私たちはもっと語っていいし、自分に優しくあっていいし、そのままの自分でいい、ということを。
これからつくっていきたい未来
「私たちは、もっと語っていい」
音楽×生理×薬膳×からだ
女性の声を届けるZINEや空間、体験の場・・・
誰かの心が動く。 自分の中の何かがふっと変わる。 そんな小さな波が、じわじわと広がっていくような未来。
数年前に私が書いた“パーパス”(自分の大切にしたいコアとなる価値観、世界観、みたいなもの)は
「内なる情熱を表現して生き、色とりどりの感情を分かち合う」
というものでした。
まさに、シリ・リーさんの歌で私はそれを思い出しました。
“風の入り口”になれたら
私は大きな力を持っているわけではないし、一人では小さな存在だけど、
風が通らなかった場所に、 そっと風を吹き込むような、そんなことを少しずつでもしてけたら、と
シリ・リーさんの歌を知り、それを発信し、いろいろ感じたことを通じて、改めて思いました。
語りづらかったものを、やさしく、自由に、感じられる場で、
一人ひとりが、自分の身体の声、心の声を取り戻せるように。
