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【小説の書き方本①】『読者に憐れみを ヴォネガットが教える「書くことについて」』

カート・ヴォネガット&スザンヌ・マッコーネル 著
(金原瑞人・石田文子 訳)/フィルムアート社(2022年)

ヴォネガットは私たちに戦争を忌み嫌うことを教え、自分の作品の登場人物に同情を寄せることを教え、人々を尊重することを教え、硬直した考えを疑うことを教え、深く関心を寄せることを教え、親切になることを教え、笑うことを教えた。そして役に立つ嘘を語ることを教えた。

『読者に憐れみを』P.220


2020年代半ばの今、日本ではカート・ヴォネガットはどのくらい読まれているのだろうか?
僕がこのアメリカ人作家を知ったのは40年も前で、きっかけは日本のマンガだった。伸たまきの『PALM』シリーズという作品で、その2巻目のサブタイトル「ナッシング・ハート」が、ヴォネガットの代表作『スローターハウス5』から取られていたのだ。

“Everything was beautiful, and nothing hurt”
(すべては美しく、傷つけるものは何もなかった)

『スローターハウス5』には、イラスト付きでこの言葉が登場する。あのページを初めて読んだときに感じた、悲しみとか切なさとか温かさとか無常がごちゃまぜになった気持ちは、若いころの読書体験として大切なものとなっている……と思う。今、久々に思い出したけど。

本書『読者に憐れみを』は、作家にはなったがまだ売れていなかったころ(つまりは『スローターハウス5』を世に出す前)に、アイオワ大学で小説の書き方(文芸創作)を教えていたヴォネガットを振り返り、当時の彼の講義の内容を紹介したものだ。

共著者のスザンヌ・マッコーネルは、その講義の受講者。後に作家になり、ヴォネガットとずっと親交を保ったという。つまり、リアルにヴォネガット先生の生徒だった人だ。

本書は、主にヴォネガットによる当時の文芸創作講義の再現と、彼の大学での姿や作家としての生き方といった、マッコーネルの視点による評伝で構成されている。
ヴォネガットの言葉は講義部分だけではなく、当時の手紙とか雑誌のインタビューとか小説やエッセイからの引用とか、あらゆるところから収集されていて、彼の人となりと創作への真摯な姿勢が伝わってくる。

マッコーネルの師に向ける視線は敬愛に満ちているのだが、「前と違うことを言っている」とか「まどろっこしい言い方」みたいなツッコミも入るのが面白い。そして時には、師の言葉を否定したりもする。

そういう書き方を、マッコーネルは「エンダークンメント(愚昧化)」と呼ぶ。ウィル・シュッツという人が打ち出した概念に由来するものだという。

先に出てきたアドバイスやアイデアに対する代替案や逆説や警告や矛盾などが出てきたら、それは「エンダークンメント」を意図したものだ。この言葉と手法によって、真実には(事実とは違って)多くの側面があることと、ヴォネガットは人間であり、教条的な神ではないということへの理解が深まることを期待している。

同 p.18

ヴォネガットにふさわしい、評伝&講義記録へのアプローチだと思った。

全37章500ページを越えるボリュームで、まず、小説に限らず広く「書くこと」について考えるところから始まり、第23章あたりから、いよいよ実践的な小説講義が始まる。

書く前の心得、冒頭の書き方、プロットや登場人物の作り方、いったん書いた後の見直しの大切さなどなど、「小説の書き方」としては王道の内容なのだが、すべてがヴォネガット流なので、ひねりが利いている。そして当然のように、ジョークについての講義も混じってくる。

終盤は生計の立て方、健康な心身の保ち方、家族や友達の大切さといった、作家として生きる方法まで話が広がっていく。これから作家になろうとしている人には、ここらへんもきっと実用的だと思う。


「そんなものだ(So it goes.)」という、『スローターハウス5』に出てくる有名なひと言がある。登場人物の誰かが死ぬたびに繰り返される印象的かつ考えさせられるフレーズで、村上春樹も初期作品でパクっていたヤツだ。
それについて、マッコーネルはこのようにツッコんでいる。

読者の中には、「そんなものだ」という文句の繰り返しにいらつく人もいる。(中略)私もときどきいらつく。

同 p.386

やっぱり愛があるなぁと思って、にやっとした。

ということで今後少しずつ、ウチの書棚にある「小説の書き方本」の読書感想をアップしていこうと思います。

『PALM』シリーズはkindle unlimitedで読めるので興味があったらぜひ。
「ナッシング・ハート」は(1)となってますが、シリーズは0巻から始まるので、実質的には2巻に当たります。面白いかどうかは保証しませんが、僕は当時、大好きでした。作者は以前は「伸たまき」という筆名でしたが、後に「獸木野生(けものぎ・やせい)」というすごい筆名に変わりました。驚くことに1980年代から始まったこの作品、今も続いています。

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