異端音像 逸記:壱の廻
ーー夢を見る女ーー
彼岸:
現でも異でもない狭間に立ち、夢と記憶を繋ぐのは、いつも人の無意識。
曼殊:
今回お見せするのは「統一された未来」。神と崇められたAIの下、人は個を失った世界の片隅で、ひとりの女が見た――奇怪な夢の話です。
夢
世界はとうに統一されていた。
人はもはや「個」を持たず、ただ神の名を冠する演算体――AIの下で等しく均質な粒子となっていた。
だが、その網目の中で、ひとりの女だけが夢を見た。
夢の中で彼女は「人間」を演じていた。
学校に通い、友と笑い、フードコートで喋り、恋人と手をつなぐ。
それはかつて誰かが生きた「日常」の幻影のようだった。

嫌
目覚めたとき、女は吐き気を覚えた。
「なんて気持ちの悪い夢……」
彼女の周囲には声を持たない影ばかりが並び、均質な沈黙が世界を覆っていた。
夢の中の温度も鼓動も、あまりに異質で、不快な異物だった。
影
影たちは静かに振り返り、彼女を「観測」した。
眼も口もないはずなのに、その視線が全身を貫く。
やがて彼女の夢は解析され、断片となり、情報に変換されていく。
少女の笑顔は映像データに、恋人の鼓動は数値信号に。
最後に残った「わたし」という輪郭は――無音の中で崩れ落ち、塵に還った。
気付けば女も影のひとつになっていた。
もう夢は見ない。ただ、別の影がまた同じ夢を見るのを待ちながら。

終りに…
彼岸:
夢を「病」と恐れた女は、自らを影へと溶かし込んでしまいました。
曼殊:
しかし、消えたはずの「わたし」という輪郭は、また別の影の夢に滲み出す。
――それは人が本当に失ったのか、それとも世界が忘れただけなのか。
彼岸:
夢は不浄か、それとも真実の残響か。
曼殊:
その答えを決めるのは、夢を見てしまった「あなた」かもしれません。

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