青森|津軽富士・岩木山の雪解けに咲くミチノクコザクラ
青森県の岩木山は津軽富士と呼ばれ、太宰治の小説『津軽』の中で「十二単衣の裾を、銀杏の葉をさかさに立てたようにぱらりとひらいて」と形容されています。端正で美しい形をした成層火山ですが、雪が多く遅くまで雪渓が残り、7月になると雪解け後に小さなピンク色の花が一斉に咲きます。それが、岩木山でしか見られないミチノクコザクラです。今回は岩木山へ花を求めての登山旅を紹介します。
弘前駅からのバスは、ふもとの岳温泉(嶽温泉)のバス停を通過し、津軽岩木スカイラインに入ります。深田久弥はそこから岩木山に登ったようですが、今回はバスで八合目へと向かいます。

(地理院地図Vector https://maps.gsi.go.jp/ の画像を加工)
八合目の駐車場は広々としていて、イヌワシが羽を広げるイメージで造られたという休憩所もあります。ここの標高は1247m、山頂までの標高差はわずか378mです。

八合目からは夏山リフトも運行されています。片道700円、往復900円でさらに200mほど歩かずに上がることができます。さすがに少しは登山も楽しみたいので、リフト駅のすぐ脇にある登山口から、ダケカンバ林の中を登っていきました。

リフト終点から少し歩くと、鞍部になっているところにコンクリート造りの小屋が建っていました。無人の避難小屋である鳳鳴ヒュッテです。ちょうどこの付近が九合目になります。

ヒュッテを過ぎると、急登が始まりました。振り返ると、リフトの終点から続くなだらかな尾根が見えます。この尾根のピークが、弘前から見た時に岩木山の左に見える鳥海山です。

急な登山がいったん少し平坦になったところ(二のテラス)を過ぎた後に、再びゴロゴロの岩の急坂を登っていきます。山頂まではあと少しです。

ようやく山頂に到着しました。山頂には三角の碑と三角点のほか、避難小屋と岩木山神社の奥宮があります。平野の中にポツリとある山だけあって、360度方位が見渡せます。昨日通った五所川原の町や津軽半島が眼下に広がり、八甲田山もよく見えます。

そのまま真っ直ぐ進むと、巌鬼山方面から大石神社や弥生いこいの広場に下りることもできますが、ここでは来た道を戻ることにします。急な岩場を注意しながら下りていくと、鳳鳴ヒュッテが見えてきました。

鳳鳴ヒュッテからは、八合目に戻らずに岩木山神社を目指して百沢コースを下りました。その理由は、百沢の雪渓が溶けた後に咲く花を見るためです。下っていくと見えてくる小さな池の辺りが種蒔苗代です。

種蒔苗代を過ぎたあたりでピンク色の花を見つけました。ここにしか生えないコザクラではなく、ハクサンチドリでした。亜高山帯の湿った草原や林縁でよく見かけるランの仲間です。

しばらく進むと、雪渓が溶けた後に芽吹いた草原で、ひときわ早く花をつけているピンク色の花を見つけました。今回の目的であるミチノクコザクラです。登山道脇に大群落が広がっています。

ミチノクコザクラは、高山の雪解け後や雪田に生えるエゾコザクラやハクサンコザクラと同じ種ですが、それぞれが変種として扱われています。ミチノクコザクラは他の変種に比べて少し大きいので、見応えがあります。

ミチノクコザクラの大群落を満喫した後、雪解け水が集まって水場になっている錫杖清水に到着しました。冷たい水を一口飲んで休憩します。登りだとかなりありがたそうな水場です。

水場を過ぎたあたりで、黄色いスミレの花を見つけました。その名の通り葉の大きなオオバキスミレです。日本海側の落葉広葉樹林でよく見られ、こちらも雪解けの後に咲く花の一つです。

水場から流れる雪解け水はやがて沢になります。登山道も徐々に沢の間を歩くようになり、ロープをつたって濡れた岩の間を降りていくような危険な箇所もありました。そこを慎重に通過し、登山道が沢を離れて樹林に入ると、コンクリートの避難小屋、焼止りヒュッテが現れました。

ヒュッテからしばらく下ると、登山道脇にしめ縄をまとった大きな石がありました。姥石です。元来は女人結界を示す石であり、女性の参拝はここまでとされていました。しかし、昔の登山道はスキー場から沢に向けて延びていたようで、別の場所にあったのかもしれません。

この後、鼻コクリやカラスの休場を抜け、七曲の急坂を下るとスキー場に出ます。スキー場から振り返ると、岩木山がよく見えます。

スキー場を過ぎて、神苑桜林公園のなだらかな斜面を下っていくと、岩木山神社の里宮に到着しました。登山の無事を報告して、参道を下ります。

鳥居を出たところに、岩木山神社前のバス停があります。ここからバスに乗って、弘前駅へ戻りました。
岩木山は、バスやリフトを使うと、少ない標高差で手軽に登れる山です。少し頑張って百沢コースを下れば、ミチノクコザクラの大群落に出会うこともできます。ただし、急な沢の危険箇所があったり、時期によっては雪渓が残っていることもあるため、登山には万全の装備で臨むのが無難です。
津軽富士・岩木山はふもとから眺めていても素敵な山です。弘前や五所川原から眺める端正な姿は、観光としてもお勧めです。
