見出し画像

青色の読み取り機との忘れられない戦い。コペンハーゲン空港駅にて。

旅の記憶というのは不思議なものだ。だんだんと記憶が薄れていく一方で、失敗談やトラブルは今でも鮮明に覚えている。これは、コペンハーゲン空港の到着ゲートを抜けた瞬間から中央駅を出るまで、不安と戦った話。

飛行機を降り到着ゲートを出ると、北欧らしい洗練された空間が広がっていた。しかし、私に感傷に浸る暇はなかった。まずは移動の足、「Rejsekort(ライセコート)」のICカードを手に入れる必要があった(当時はアプリ版がなかった)。DSBの券売機を探し、ユーロではない「デンマーク・クローネ」という謎の数字を頭の中で変換しながら、ようやくプラスチックのカードを手に入れた。
さあ、あとは電車に乗るだけと思うだろうが、実はここが本当の試練だった。

アジア圏のようなゲート式の改札機がどこにも見当たらない。改札ゲートのないヨーロッパの鉄道事情には慣れたつもりだった。手には切符ではなくICカード。どこにピッとすればいいのだろう…空港のロビーから電車のホームへと続く動線はあまりにも自然に設計されていた。もしかしたら見落としたかもしれない…焦って周囲を見回すと、通路の柱にポツンと、青く光る円形の読み取り機が設置されていた。

「例のやつは、これか…?」

勇気を出してカードを近づけると、「ピコン」と無機質な電子音が響いた。たったそれだけ。あまりに手応えがなかった。もし読み取りに失敗していたら…。車内に現れるという容赦ない検札官と、高額な罰金の噂が、北欧の冷たい空気とともに背中をかすめた。念のためもう一度ピッとしておいた。

列車が空港駅を離れ、中央駅へ向かう間も心は休まらなかった。それは海外で乗車する時の「次は何駅か」に神経を尖らせるアレだけではなかった。そう、検札だ。制服を着たスタッフが車両の端から現れたとき、心臓の鼓動は最高潮に達した。明らかに現地人でない、オドオドしていた私は目立っていたのだろう。無機質な端末が私のカードに触れ、数秒の沈黙のあと…「ありがとう」の一言で、私はようやくこの国に入る事を許可されたような気がした。

しかし、試練はまだ終わっていなかった。列車が重厚な梁の架かるコペンハーゲン中央駅に滑り込み、ホームに降り立った瞬間、私は再び「不審者」のようにキョロキョロと周囲を見回すこととなった。

降りる時にもあの「青いポチ」にタッチしなければならなかったからだ。「Check ud」を忘れたら、カードから無慈悲にペナルティ料金が引き落とされるらしいと聞いていた。広いホームの喧騒の中で、私は必死に「青いやつ」を探した。

「あった!」

見つけた機械に駆け寄る。だが、そこでもう一つの罠が待ち構えていた。機械には「Ind(入る)」と「Ud(出る)」の二種類がある。目を皿のようにして「Ud」の文字を確認し、祈るような気持ちでカードをかざした。
「ピコン」
空港の時と同じ、無機質な音。だが今度は、画面に引き落とされた残高が表示された。これで本当の、本当の終了のはずだ。

「ふぅ…」

安堵で膝から力が抜けそうになりながら、駅のセブンイレブンに駆け込んだ。真っ先に手に取ったのは緑色のラベル、本場のカールスバーグを掴み取った。

よくやくついたホテルの部屋でプルタブを引く。
あの「ちんぷんかんぷん」な交通ルールとの対戦に私は勝った。言語の問題よりも慣れない乗車ルールに遠くまで来た事を実感した。喉を刺激する冷たい黄金色の液体は、異国の乗車ルールを乗り切った自分への、最高に贅沢なご褒美だった。翌日、オドオドしながらピッとしたことを話した。

「これでお前もデンマーク人の仲間入りだよ」

と笑い飛ばされた。

時間が経った今でも、あの青色の機械と、安堵の中で飲み干したカールスバーグの緑色のことは、昨日のことのように鮮明に思い出せる。

いいなと思ったら応援しよう!