恋花粉|毎週ショートショートnote
「あのー……うーんと……」
店に入って来るなり、高校生くらいの女の子が、もじもじしながら話しかけてきた。
「何かお探しですか?」
「えーと……」
女の子の態度に、少し呆れた。
――面倒ごとはごめんなんだがなぁ。
心の中で呟く。
年頃の女の子ともなれば、いろいろ邪推してしまう。ただ、もしその邪推が正しければ、ドラッグストアか病院にでも行くはずだ。わざわざこんな怪しげな店に来た理由は1つ。ワケありってことだ。
「花粉症になる薬ってありますか?」
「花粉症になる……ですか? 治すのではなくて?」
女の子は小さく「はい……」と頷いた。
今までいろいろな客と出会ってきたが、全く新しいパターンだ。驚くと同時にわくわくする。もちろん、顔には出さない。
「よろしければ、理由を聞かせて頂けませんか?」
俺の言葉に、女の子は下を向いてもごもごと口を動かす。
「あ、話したくなければ、いいですが」
「好きな人がいて、その人が花粉症なんです。くしゃみとか鼻水とか、凄く辛そうで。でも、私は花粉症じゃないから、その辛さが分からなくて……」
「なるほど」
――好きな人と同じ辛さを、同じ苦しみを味わいたい。
そんなところか。
「ない……ですよね。花粉症になる薬なんて」
「少々、お待ちください」
俺は店の奥の棚から小さな小瓶を持って来て、女の子に差し出した。
「この瓶の中には、桜の花粉とセキシトシンという薬品の粉が入っています。蓋を開けて鼻から少しだけ吸い込めば、花粉症に似た症状が体験できます」
「ホントですか!」
下を向いていた女の子が顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。
「無害ですが、くれぐれも使い過ぎに注意してください」
「はい!」
店中に響き渡るほど元気のいい返事をして、女の子は帰って行った。
「この大嘘つきめ」
妻がそう言いながら、俺の横に並ぶ。
「あの瓶の中身、ただのコショウなのに。何よ、セキシトシンって。よくもまぁ、そんなデタラメを……」
妻はくしゅん、くしゅんとくしゃみをして、ボックスティッシュに手を伸ばした。
「相変わらず、辛そうだね」
「涼しい顔しちゃって、ホント腹立つ。あんたも花粉症になればいいのに」
恨めしそうな顔で俺を睨みつける妻に、わざとらしい笑みを返す。
「コーヒーでも入れようか?」
妻はティッシュで豪快に鼻をかみながら、大きく頷いた。
(了)
たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「恋花粉」です。
「海砂糖」の店主、再びの登場です。
私も花粉症とは無縁なので、花粉症の苦しみが分かりません。
杉の木の下で深呼吸しても、全然平気です。(・∀・)
こちらもどうぞ。
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