銀色の迷い路|掌編小説(#虹色創作部)
夕暮れ時、太陽の光を吸い込んだすすきの穂が、見渡す限り、まるで銀色の液体のように波打つ光景。姉さんはこれを「銀の波」と呼んだ。
姉さんが失踪する前日、私に送ってきたメッセージは、たった一行。
「銀の波が満ちてくる」
私は今、その銀の波の真っ只中にいる。
携帯のGPSが示す場所は、開発計画が凍結された広大な埋立地。誰も来ないはずの場所だが、足元の土は湿っており、数日前に誰かが通ったような靴跡が残っていた。姉さんがいつも履いていた、古ぼけたハイカットスニーカーの靴裏によく似ている。
風はほとんどないのに、すすきたちは騒めいていた。
――ここにいるよ、こっちだよ。
無数のカサカサという囁き声が、私の名前を呼んでいるようで、遠近法を狂わせる白いすすきの穂の群れが誘ってくる。
私は深呼吸をして、すすきの穂をかき分けながら進んだ。すすきは私よりずっと背が高く、一度中に入ると、空との境界線を見失う。一メートル先も見えない。この先には一体何が待ち受けているのか、想像するだけで胸の奥が冷たくなる。この場所は、ミステリーやファンタジーというには、あまりにも不気味で現実離れしていた。
十歩ほど進んだ時、なぜか騒めきがぴたりと止まった。辺りが一瞬で静寂に包まれる。静かすぎて、胸の鼓動だけがやけにうるさい。立ち止まって耳を澄ませると、聞こえるのは私の呼吸と、すすきの葉が服と擦れる音だけ。
私はゆっくりと後ろを振り返った。誰もいない。ただ、まっすぐ立っているだけの、銀色の壁があるだけ。
――気のせいか。
そう呟き、再び歩き出そうとした瞬間、足元に違和感を覚えた。
――硬い。
湿った土ではなく、踏み固められた土のようだ。膝をついて、土を掘り起こそうと手を伸ばすと、突然巨大なすすきの束が、ゆらりと、まるで生き物のように私の方へ傾いた。すすきの群れが、私を覗き込んでいるように。
声を上げようとしたが、無駄だった。そして、一旦は静まった騒めきが再開した。それは風によるものではなく、束が揺れる音。歓喜のような、あるいは獲物を捕らえた満足のような、低く重い音だった。
硬い土から姉さんの手が伸びて、私の右の足首を掴んだ瞬間、全てを諦めた。
(了)
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テーマは「すすき」です。
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