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「できません」で終わらせない法務相談の考え方

「この内容は、当社に不利なので受けられないな…」
契約審査などをしていると、よくある場面です。

依頼者に対しては、「この内容で締結することは難しいです」と伝えることになります。
ただ、依頼者側から見ると、その一言は「反対された」と受け止められることがあります。

「また反対されるかもしれない」という印象が残ると、次の相談が遅れ、完成間近の資料だけが届き、結果として選択肢が少なくなります。

法務の役割は、危ない案件を止めることだけではありません。
事業目的を崩さず、どの条件なら進められるのかを整理し、判断できる形に戻すことも大切な仕事です。

今回は、法務が「反対」ではなく「選択肢」を出すために、何を分けて考えるとよいかを整理します。



1.まず「案」と「目的」を分けて考える

法務相談は、多くの場合、すでに一つの案として持ち込まれます。
キャンペーンを始めたい、契約書をこの条件で締結したい、取引先にこう説明したい。
相談者はその案を実現したくて来ているため、法務が案に反応しすぎると、すぐに賛否の話になります。

① 相談されているのは手段です

法務が最初に見るべきなのは、案そのものよりも、裏側にある目的です。
新規顧客を増やしたいのか、既存顧客との関係を維持したいのか、開発スケジュールを守りたいのかで、取り得る方法は変わります。
手段だけを見ると止めるしかなくても、目的まで戻ると別の道が見えます。

② 目的を聞くと議論が柔らかくなります

背景を確認する際は、聞き方にも注意が必要です。
相談者の案の問題点から入ると、相手は責められているように感じる場合があります。
「達成したいゴールを先に確認させてください」と聞く方が進めやすくなります。
法務が目的を共有しようとしていると伝わると、議論の入口が変わります。


2.次に「動かせない条件」と「動かせる条件」を仕分ける

目的が見えたら、次は条件の仕分けです。
ここを飛ばすと、回答は「リスクがあります」で止まりやすくなります。
一方で、何が固定で、何が調整可能なのかを分けると、選択肢の材料が増えていきます。

① 法令上・契約上の限界を先に置きます

法令違反のおそれが高い対応や、既存契約に明確に反する対応は、安易に「工夫すればできます」とは言えません。
この線引きは、法務が曖昧にしない方がよい部分です。
ただし、線を引くときも、「できません」だけで終わらせず、どの条件が問題なのかを具体化します。

② 期限・対象・表現は動かせることがあります

実務では、完全に動かせない条件ばかりではありません。
時期をずらす、対象者を限定する、承認フローを追加する。
こうした調整で、当初案のままでは難しい案件が、適切なリスク管理をしたうえで進められる形に変わることもあります。
法務はリスクを完全に消すのではなく、会社として説明し、管理しやすい形に整える意識を持ちます。


3.選択肢は「白黒」ではなく「濃淡」で並べる

選択肢を出すというと、すぐに代替案を思いつかなければならないように感じます。
しかし、実際には、法務が一人で正解を作る必要はありません。
大切なのは、判断する人が比較できる形に整理することです。

① 進める案にも幅があります

例えば、原案どおり進める案、条件を付けて進める案、範囲を限定して試す案、準備が整うまで延期する案という並べ方があります。
どれも単なる賛成・反対ではありません。
リスクの大きさ、事業インパクト、準備に必要な時間を比べられるようにすると、議論が現実的になります。

② 法務の推奨も添えます

選択肢を並べるだけでは、事業側や経営層が迷うことがあります。
法務としては、どの案が現実的か、どの案は避けた方がよいかも添えておくと、判断しやすくなります。
ただし、これは法務が最終判断を引き取るという意味ではありません。
判断材料を整理し、意思決定の質を上げるための補助線です。


4.伝える前に「相手が次に動ける形」に整える

よい選択肢を考えても、伝え方が粗いと相手に使ってもらいにくくなります。
法務の回答は、相手が上司、顧客、開発担当、営業担当に説明するための材料になります。
その前提で、言葉と粒度を整えます。

① リスク名ではなく影響で伝えます

「リスクがあります」だけでは、相手は次に何をすればよいか分かりません。
「この表示のままだと、顧客への説明と実態にずれが出る可能性があります」や「既存契約との関係で、相手方から追加対応を求められるおそれがあります」といった形にすると、社内で共有しやすくなります。

② 次の一手まで書いておきます

相談者にとって使いやすい法務回答は、最後に次の行動が見えるものです。
文言を修正する、承認者を確認する、相手方に説明を入れる、実施範囲を再検討する。
ここまで書くと、法務の指摘は反対意見ではなく、案件を進めるための作業指示に近づきます。


まとめ

法務が選択肢を出すために必要なのは、何でも前向きに受け入れる姿勢ではありません。
むしろ、目的、条件、リスク、判断材料を丁寧に分ける力です。

相談された案だけを見れば、答えは「できる」「できない」の二択になりがちです。
しかし、目的に戻り、動かせる条件を探し、リスクの濃淡を並べると、現場と経営が選べる余地は広がります。

法務が出す選択肢は、都合のよい抜け道ではありません。
事業の目的を尊重しながら、会社として説明できる進め方を探すためのものです。

反対に見える法務と、頼られる法務の差は、結論の厳しさだけで決まるわけではありません。
結論に至る前に、どれだけ相手が判断できる材料を整えられるか。
その積み重ねが、法務への相談しやすさと、組織の意思決定の質を少しずつ変えていきます。

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たけうち|法務とコンプラのnote ここまで読んでいただいて誠にありがとうございます!少しでも皆様のお役に立つことを祈っております。