法務の説明が現場に伝わらない理由…「結論・影響・行動」で伝える実務の型
「契約不適合責任の条項が当社に不利なので、修正が必要です」
法務がこのように説明しても、営業担当者には、何が問題で、どう交渉すればよいのかが伝わらないことがあります。
法令、契約、規程の言葉は、そのままでは現場の業務に結びつきません。
そのため、規程を整備しても、人事や開発の判断場面で使われないことがあります。
正確な知識も、相手が動ける言葉に変えなければ、行動にはつながりません。
今回は、法務担当者が専門用語を現場で使える言葉に変えるための考え方と実務の型を整理します。
1.正しい説明でも、現場が動けるとは限らない
法務と事業部門は、同じ会社で同じ日本語を使っています。
ただし、仕事で見ているものは異なります。
この違いを意識しないと、法務には明確でも、現場には判断材料が足りない説明になります。
① 法務と現場では知りたいことが違う
法務は、権利義務、責任範囲、例外、証拠を確認します。
一方、営業は契約を進められるか、相手方に何と伝えるかを知りたいと考えます。
たとえば、「契約不適合責任の範囲が広い」とだけ伝えても、営業は次に何をすればよいのかわかりません。
「納品後に問題が見つかった場合、当社が負う責任の期間と対応範囲が広くなっています。期間を短くし、対応方法を限定する案で交渉してください」と伝えると、行動につながります。
② 専門用語を使わないことが目的ではない
わかりやすく伝えるために、法律用語をすべて外す必要はありません。
専門用語を示したうえで、今回の取引にどう影響するのかを補うことが大切です。
法務は、正確性を意識するほど、条文の説明が長くなりがちです。
最初に結論を示し、その後に理由と根拠を伝えた方が、理解してもらいやすくなります。
2.相手と目的に合わせて、伝え方を変える
外国語を訳すときも、誰に何を伝えるかによって表現を変えます。
法務の社内説明も同じです。
法的な意味を保ちながら、相手の判断に必要な形へ組み替えます。
① 営業には交渉の選択肢を渡す
営業に必要なのは、条項の解説だけではありません。
「そのまま受けられる」「代替案なら受けられる」「社内承認が必要」「原則として受けられない」といった選択肢です。
法務コメントには、修正理由に加えて、相手方への回答案を添えます。
たとえば、「この条項の削除が難しい場合は、責任上限を設ける案を提示してください」と書けば、営業は交渉を進められます。
② 人事や開発には判断場面を示す
人事には、採用、評価、退職など、どの場面で法務や労務へ相談するのかを示します。
開発には、個人情報、外部サービス、OSS、生成AIなどについて、どの段階で確認するのかを伝えます。
規程名から説明を始めるより、「この情報を外部へ送る前」などと場面を示した方が、現場は自分の業務と結びつけやすくなります。
3.法務担当者が使いやすい三段階の型
伝え方を毎回一から考えると、契約審査や相談対応に時間がかかります。
そこで、説明を三段階に分けます。
契約書へのコメントやチャットにも使える型です。
① 結論、影響、行動の順で伝える
最初に「受けられるか」「修正が必要か」という結論を示します。
次に、そのまま進めた場合の事業への影響を説明します。
最後に、現場に何をしてほしいかを明確にします。
たとえば、「この条件は修正が必要です。現状では、軽微な不具合でも長期間の対応を求められる可能性があります。責任期間を社内の基準に沿って限定する案を相手方へ提示してください」という形です。
② 根拠は消さずに後ろへ置く
現場向けに言い換えても、根拠となる条項や規程を省く必要はありません。
ただし、最初から根拠だけを並べず、結論と行動の後ろに置きます。
条項番号や規程の該当箇所まで示せば、現場が後から確認できます。
わかりやすさと検証可能性を両立できます。
4.伝わる説明は、作って終わりではない
わかりやすい資料やコメントも、一度で完成するとは限りません。
使われた後の質問や誤解を見て、表現を直します。
同じ質問が続くなら、説明方法を見直します。
① 質問を次の説明に反映する
営業から「相手方には何と伝えればよいですか」と聞かれたなら、次回から回答案まで書きます。
人事から「いつ相談すればよいですか」と聞かれたなら、相談のきっかけを資料に加えます。
法務への質問は、説明不足を知る手がかりです。
よくある質問を集めれば、契約審査コメントのひな形や確認リストにも展開できます。
② 言い換えた後に意味を確認する
説明を簡単にするほど、条件や例外が抜けることがあります。
そのため、言い換えた文章を原文と照らし合わせて確認します。
特に、「原則」「例外」「禁止」「要承認」「要相談」の違いは残します。
伝わりやすくても、意味が変われば適切な説明ではありません。
わかりやすさと正確さの両方を確認することが、法務の役割です。
まとめ
法務が現場へ説明するとき、専門用語を正しく使うだけでは十分でないことがあります。
結論を示し、事業への影響を説明し、次の行動まで伝えることで、法務の知識は現場の判断に使われるものになります。
これは専門性を薄めることではありません。
法的な意味を保ちながら、営業、人事、開発、経営が使える形に整える仕事です。
まずは「結論、影響、行動」の順で説明するとよいでしょう。
伝わらなかった経験を次のコメントや資料へ反映することで、説明力は少しずつ高まります。
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ここまで読んでいただいて誠にありがとうございます!少しでも皆様のお役に立つことを祈っております。