異世界からの敵:神林長平 「戦闘妖精・雪風」
久しぶりに神林長平のSFを、ぱらぱらっと読み返した。戦闘妖精・雪風。やっぱり面白い。神林長平の作品は、人間と機械、コンピュータ、そして、人工知能、知性、言葉のつむぎだす世界、現実と幻想、そういったことを考えさせる。
やはり35年ほど前、大学のころに買って読んでいて、一度捨ててしまったのだが、Kindleで買い直すのは簡単だ。
Amazonのサイトでクリックすれば、本がKindleにダウンロードされ、クレジットカードから決済され銀行口座から引き落とされる。そして情報が私の脳に映し出され、脳を変容させる。そこで新たに興味を引かれたトピックで本を検索し、おすすめなども見ながら、本を購入し、このサイクルは、つまり、この一連の行為そのものを見るとわかるが、地球のコンピュータ群によって構築された巨大で複雑な情報システムに私の脳と身体は、すでにリンクされているのだ。
フェアリイ星から時空間のトンネルを通じて地球を侵略しようとするジャムと戦うフェアリイ空軍の戦術電子偵察機・雪風。所属する特殊戦第五飛行戦隊は、たとえ味方が全滅したとしても、すべての情報を記録し帰投することが任務の、別名ブーメラン戦隊。圧倒的な推力と高機動力、自身を守るために必要なときだけ発揮する攻撃力を兼ね備え、搭載する中枢コンピュータは、情報の収集だけでなく、単独でも動作する高度な分析力と判断力を持ち、さらには、無線によって直接基地の戦術管制コンピュータ群に接続することが可能である。
しかしあたりまえでなかったら?零はだしぬけにそんな思いにとらわれた。(略)零は強い疎外感におそわれる。まるで機械同士が勝手に戦っているようだ。
そうかもしれないと零は背筋に冷たいものを感ずる。人間が戦っているのはあたりまえではないかもしれない。ジャムは異星体だ。地球の支配者は人間ではなく機械だと考えたとしても不思議ではない。そのとき人間が戦っている意味は根本から覆される。
私とはなにか。コンピュータは知性と意識を持つのか。そして、戦っている敵はだれか。私たちに理解できる相手なのか。
<ジャムとはなにか>
<われわれの敵である>
フム、と少佐はキーの上で指をとめ、印字された文字を読み返した。もっともな答えだ。おかしいところはない。われわれの、敵。われわれの。少佐は、ぎくりとし、もう一度読み返す。われわれの、の敵、われわれ。
<われわれ、とはだれのことか>
<ジャムにとっての敵である>
(略)
ブッカー少佐は深井零が以前言ったことを思い出した。「なぜ人間が戦わなくてはならないのだ」(略)
「これは人間に仕掛けられた戦いだ。すべてを機械に任せるわけにはいかない」
そうじゃないんだ。少佐はふらりとコンソールを立った。プリンタが<極秘>の文字を打ち出していた。
面白い面白いと、ずんずん読みふけることのできる本は、P.K.Dickが「テレポートされざるもの(関連note)」で登場させるガニメデ星の鏡像生物のように、自分の考えを映しているだけで、抗しがたい力で引き込まれているうちに、そのうち食われてしまう。

気をつけなければならない。私は私である。私の存在を脅かすものはすべて敵である。過去の私から現在の私への警告なのかもしれない。いや、存外、未来の私からのリンクかもしれない。
過去におぼれて油断してはいけない。過去を懐かしんでいる場合ではないのだ。
神林長平はデビュー40周年だそうだ。「敵は海賊」シリーズや「太陽の汗」、「完璧な涙」、他にもたくさんのいい作品がある。
