【ショートストーリー】需要と供給。
7.5 cmのヌードカラーな
エナメルレザーのポイントトゥ。
その滑らかなくびれがセクシーなハイヒールを、コツコツと履く夜は、気分もハイで。
隣でにこやかに飲む、人の良さを絵に描いたようなフォルムの男性とは、今夜が初対面で。
もういい加減、マッチング疲れだったりして。
無難な条件とかっていうよりも、
「ぐっとくる何かが決め手」という口コミが
もはや刺さってきている。
手っ取り早いのがむしろ良くて。
一軒目をそうそうに、二軒目からでしょう?
プロフィールにはないお互いを知り合いたくて、私はいっそマティーニを、
そして彼はにこやかにギムレットを。
「お酒、お強いんですね。」
「美味しいお酒なら、いくらでも。」
「ふふ。それは楽しそう。」
そのカクテルグラスの華奢な足をなぞりながら、話す会話の距離は近づく。
と、コトンと彼女のヒールが片足だけ脱げて、
最初から足のつかないスツールの下に
コロンと転がる。
エレガントなハイヒールは、
マリオネットの糸がきれたように無防備に転がり、切なく美しかった。
「足を、ここに。」
すかさず男はまるで、シンデレラのガラスの靴の持ち主でもさがす家臣のように、片膝をついて、彼女のつま先を迎えた。
セルジオ・ロッシ。
すべらかなエナメルに納まるつま先が、
ゆっくりと意思を持ち、男の目の前でとまる。
つま先を両目で追う男の目は、すでに寄り目で。
宙に浮くようなその危うい片足に、
思わず再び両手を添えた。
跪く男が
女のハイヒールを両手で支えている、図。
ツンッと、イタズラ半分に男を突く。
すると、男は、たまらずにそのエナメルに頬ずりをする。
「踏まれたい?」
「お願い、します。」
需要と供給は、プロフィールではわからない。
ふいに訪れるタイミングで、開示するお互いを、
たとえば「運命」と呼ぶことも。
先日、とある会話に、ハイヒールに踏まれたい欲が少しある、というフレーズをお聴きいたしまして。そんな、秘めたる願望から着想を得て書いてしまいました。「踏まれたい」ですか?
それとも、「踏みたい」?
#なんのはなしですか
