わかることといえば◯◯だけ
黒猫のジョージはジョージア出身ではないのだけれど、フェヌグリークの匂いには敏感だ。
とはいえ、誰にもそれを気付かれたことはなく、同じ家で暮らす猿渡一慶は、近所のパブリックパシフィックパラダイスの店長代理をしていて、今日もメタセコイヤとメタコセイヤを言い間違えているのだし、最近いい感じの左右馬芽依とはひたすら舌平目を見せ合っている。それも堂々とだ。
そんなことだから、噂になるのだ。
一慶だって、もう自称44歳で40代と言い張るのだし、市役所からは「コウノトリの訪れ」というメッセージが暗号で送られてきてクラウドはパンパンなのだ。ジョージは、あくびをしそびれた亀のような顔で、シュークリームみたいな雲と青空とクリームソーダを、たとえば芽依みたいな子のTシャツに…なんて商売っけたっぷりに思い描いたりしてしまう。ついついだ!星占いは信じておくべきだった。
パブリックパシフィックパラダイスをパダスと略して呼ぶマニアックなメンツは、船乗りの間では「雑man」と呼ばれていることを、流行りの動画サイトで知ったのだけれど、それだって次から次へと流れてきて疑いようがないのだし、もうそうなったら時間が溶けていくだけだから、電子決済をトランプに細かく切ることにする。
芽依の常連の、城ヶ崎廉は、
「そんなふうに名前を略して呼ばなくても!」
と鉄壁のギャグを、もう半年前には思い付いてニヤついてはいたけれど、言い出せずにいた。
それくらいには、人並みの常識人なのだ。
そして、店のポイント交換で、立つ菜箸『サイバシン』を注文したら、片方だけ届いて、クレームを入れようとするけれどパスワードがわからないまま、カスタマイズして一本でやっていくことにした。こんなときこそ、『しどけないで』という哀愁たっぷりの電車広告のあの一言が胸を打つ。
木曜日と土曜日は、レジを増やさないとならないほどで、クーポンも裏面では通用しないのだ。そのくらいシビアな世界なのだ。
パートゥタイムジョブズ(片平さん的に言ってみた)のハサン君は、クーポンを折るのが上手だけど、なにせ薬指だけ爪をラメ入りのスモーキーピンクに塗ったままだから、目が合うだけで切なくなる。
昔、似たような人がいたわけでも、何度も夢を見たわけでもないけれど、11月みたいなメランコリックに陥りそうになるのだ。
まったく、これだから俺はいまだにあの暗号を一文字も解けない。
いつまでもそんなことを考えていてはいけないけれど、桜の花びらがスワンボートに引っかかって変色していくほど、あるいは歩幅を前の人に揃えてしまうほど、ホの字だ。
ごめんなさい。今夜、セセリなの…。
待ちに待ったメッセージを、内ポケットのボタンをはずしながら、一慶は凝視した。そして、バクンッと胸が高どまり、肋骨と肋骨の間を意識した。とうとう…。
ちらりと、斜向かいの芽依を見とめ、目が合うと、彼女はセラチア並みに染まり俯く。なんて可愛いらしいんだ。僕は思わず、カウンター横で、しかも(!)パソコン打ちで返信をする。
下ネタだよ。♡
結局、ジョージには全部わかっていたのだ。わからないことがわからないかぎり、わかることなんて◯◯でもない、ということを。
音読してみました📻
Kindle出版おめでとうございます🎊
記事参加させていただき、貴重な機会をありがとうございます。とっても嬉しいです!
おかげさまで、久しぶりに、とことんわけわからないことを書いてみたくなりました🙌
真面目にふざけたいし、遊び心はずっと持っていたい♪そんな人たちに出会っていきたい♪
※このおはなしは、書きのたね@ブルボンヌさんの音声配信、「他人が聞いても面白い雑談とは?」からのインスピレーションでうまれました🌱
◯◯が◯◯すぎます。
たねさん、こころよくリンクを承諾いただきありがとうございます✨
※トップ画
春永睦月さまの素敵画像をお借りしました。
ありがとうございます。
