【ショートストーリー】一日中モーニング
「…ぉはよ。」
「…ん、はよぉ〜。」
昨日はバイトで遅くなったから、毎度おなじみのりょうちゃんの部屋にお泊まりさせてもらった。
りょうちゃんは夜型だから、私が、
「おっじゃましまーっす。」
と勝手に上がっていったときも、ちゃんとまだ起きていて、前髪をちょんまげにして、ノートパソコンを睨みつけていた。
「おつかれー。」
「おつおつー。悪いねぇ、いつもいつも。」
私は、申し訳程度にりょうちゃんの好きなキレートレモンと高カカオチョコレートの入ったレジ袋をトンッと置いた。
「いえいえ〜、なんのお構いもしませんのでね。」
と言う通り、りょうちゃんは本当に何にもせずに、ひたすら画面を睨みつけている。と、突然カタカタ…と文字を打ち込みはじめたりする。
私は勝手知ったるこの部屋を、少しだけ片付けて(床には脱いだ上着と、洗濯して乾いた服が無造作に置かれているから、それを軽く畳んで寄せて)、パーマンの変身セットのデカい版みたいな寝袋を出してきて広げた。
りょうちゃんの災害時用でもあり、私のお泊まり用でもあるそれは、オールシーズン対応で、みのむしみたいに包まると、思ったよりも快適なのだ。
「ご無礼しました。」
と、シャワーを借りて出てくると、りょうちゃんは椅子にあぐらをかいてカタカタカタカタと文字を打ち続けていた。
バイト先の居酒屋は、腹立つくらいに混んでいて、11時あがりなはずが、
「ごめ。12時までお願いできる?」
と、汗ばんだチーフに言われたら断れるはずもなく。その時点で、私はりょうちゃんの部屋泊を決めていたのだ。
流しには、グラスやらお椀やらお皿や箸が、見たところ昨日の分くらいから溜まっていて、蓋つきのゴミ箱は蓋が閉まらずに浮いていた。
私はいつものお泊まりのお礼として、それらを片付ける。通い妻みたい…とか思うと、ちょっとだけ楽しくなって、でもきっと「なんのお構いもしない」りょうちゃんだから、妻になったら辛そうだな…と思い直したりした。
みのむしみたいに眠りについたあとも、カタカタと聞こえていた気がするけれど、目が覚めたときには、りょうちゃんもちゃんとベッドで寝ていた。ちょんまげのゴムは付けたまま。
10:09
「…ぉはよ。」
「…ん、はよぉ〜。」
りょうちゃんの目は開かない。ここからが長いことを私は知っているから、私はさっさと身支度を始めればいいのだけれど、なんだか今日は一緒にモーニングに行きたくなった。このマンションの一階にできたカフェがずっと気になっている。
「ねー、りょうちゃんっ。」
「ん。。」
「モーニング、いかない?」
「ん。。。ん?…モーニング…?」
「モーニング。下の、あの、カフェ。」
「。。。」
「ねー、りょうちゃんっ。モーニングッ。」
「ん。。。わぁった…モーニンッ。」
「ねー、起きて。モーニング終わっちゃう。いこっ。ほら。」
「。。。ん。あぃ。」
りょうちゃんは渋々もそもそ起きて、スウェットからフード付きの赤いトレーナーに着替え、財布と鍵とスマホだけを持った。私も簡単に身支度をして階下へ降りる。普通、モーニングって11時までだもの。
「いらっしゃいませ〜。」
と、店内には香ばしいコーヒーの香りが立ち込めていて、寝起き満載な二人は奥の席に通された。
低めのソファと、木目のテーブル。隣の席との仕切りで、それぞれの席は個室のようだった。
「あの。モーニングって間に合いますか?」
と、お水とおしぼりを受け取りながら聞くと、
「間に合いますよ。うちは、一日中モーニングですのでね。」
とふくよかな店員さんはにっこりと笑った。
「一日中モーニング!?」
ぼやっとしていたりょうちゃんが目を丸くする。
コーヒーと、厚切りのバタートーストとたまごサラダのモーニングには、ハチミツか小倉あんがつけられることになっていて、たまごサラダには「ブラックペッパーもお好みでどうぞ」だった。
いつも朝ごはんなど食べない夜型のりょうちゃんが、小倉あんつきのバタートーストを頬張る。
私はそれがなんだかとても嬉しくて、りょうちゃんのためにコーヒーチケットをひと綴り買ったほどだ。
「一日中モーニングだもの。ここに来れば、夜でもモーニングだよ、りょうちゃん。」
作家志望のりょうちゃんは、
「夜でもモーニング、ってなんかいいな。」
と、カタカタと文字を打ち込む時の顔をした。
おわり☕️
東海に住む者として、『みくまゆ会』へゆるりとしれっと(笑)参加させていただきます♪
東海地方のnoterが盛り上がったら楽しいですね。
みくまゆたんさん、コッシーさんありがとうございます!
よろしくお願いいたします🥐
